一般的に会社は1年を1事業年度として決算を行います。決算を締める月のことを決算月と呼び、その月までの会社の経営状況を損益計算書や貸借対照表などの決算書にまとめて、会社は税務署や株主などに報告します。法人の場合、決算月は自由に決めることができますが、決算月の決め方にはポイントがあります。本記事では決算月はどうやって決めれば良いのか、7つのポイントから戦略的な決算月の決め方について説明します。
1 決算とは何か?
決算月の決め方を説明する前に、そもそも決算とはどのような業務で、なぜ行わなければならないのか、「決算」に関して最低限知っておくべき知識について説明します。
1-1 決算とは何か
まずは、そもそも決算とは何かについて説明します。決算書とはその1年の会社の経営状況や資産状況をまとめて損益計算書や貸借対照表などの表を作成します。(法人の場合は1年未満に理論上設定することも可能ですが、実務上あまり行われません。)
損益計算書は1年間に会社にどの位の売上があって、どの位の経費が掛かってどの位の収益を上げたのかを示す表です。貸借対照表は、その決算期末時点の会社の資産状況を表す表です。例えば、会社に現金があって、どの位の価値の土地や建物があって、どの位の借金が会社にあるのかということを貸借対照表は示しています。
決算のときに作らなければならない代表的な書類はこの2つですが、他にもその会社毎に、会社のお金の流れを表すキャッシュフロー計算書や株主の構成を表す株主等変動計算書など様々な書類を作っています。
1-2 なぜ決算を行わなければならないのか
そもそも、このような手間を掛けてまで決算を行わなければならないのか、これにはいくつかの理由があります。
まず、税務署に税金を納めなければならないのが理由として挙げられます。個人事業主を含めて会社は最低1年に1回事業の結果を決算書という書類を作成して、税務申告書をとともに税務署に報告して税金を支払う必要があります。
また、決算書は株主に経営状況を報告するためにも必要です。会社の経営陣は株主によって任命されており、経営陣が適切か場合によっては変更するために株主は会社の決算書を見て株主総会で経営陣から経営状況の報告を受けます。
もう1つは銀行から融資を受けるためです。銀行は融資の可否判断を行う際に決算書のデータを非常に重要視します。決算書の内容が良い会社に対する融資は前向きに検討しますし、決算書の内容が悪いと融資に消極的になります。また、銀行から信頼を得るためにはきちんと銀行に財務状況を報告する必要があります。
また、経営者が会社の経営状況を把握するためにも決算書は重要です。正確に言えば、1年に1回ではなく、もっと頻繁に経営者は会社の経営状況を把握する必要がありますが、それでも決算というのは経営者がその1年間の経営を反省する重要なタイミングとなります。
2 個人事業の決算月はどうやって決める?
では、決算月はどのように決めるのか、何をしなければならないのかなど、まずは個人事業主の場合について説明します。
2-1 個人事業の決算月は決まっている
個人事業の場合は決算月が法律によって決められています。全個人事業主はその年の1月1日から12月31日までを1期として、12月を決算月として事業の状況を税務署に報告しなければなりません。
全事業者一律に適用されるので、勝手に決算月を変更することができません。
2-2 個人事業の決算手続き
では、個人事業主は具体的にどのような手続きをしなければならないのかについて説明します。個人事業主が自分の事業所得を申告する手続きのことを確定申告と呼びます。ちなみに、確定申告は事業所得に限らず、土地や株の売買で損益が発生した場合にも必要です。
サラリーマンの場合は税務署への所得の申告作業を会社が代わりに行ってくれているので気にすることはありませんが、個人事業主の場合は自分でやらなければ誰も自分の所得を税務署に報告してくれないので確定申告が必要になります。
その年の1月1日から12月31日までを一期として、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、3月15日までに所得税を支払う必要があります。
2-3 個人事業の決算と税金
確定申告とそれにまつわる税金にについて説明します
2-3-1 白色申告と青色申告
個人事業主の確定申告には白色申告と青色申告の2パターンがあります。どちらも申告期間は一緒ですが、申告の仕方と税金の課税の仕方が異なります。
白色申告は簡単な帳簿付けと領収証の保存が必要です。簡単な帳簿付けで良いのですが、特に特典もありません。一方で青色申告は複式簿記という企業が帳簿を付けるような方法で事業の収支を記録する必要があります。ただし、青色申告特別控除や赤字が繰り越せたり、家族への給与が経費にできたりと特典があります。
青色申告を行う場合は事業を開始してから2か月以内か、途中から青色申告にする場合はその年3月15日までに青色申告の申請手続きを管轄の税務署に行う必要があります。
決算月を守らず、確定申告の期限内に事業所得をできなかった場合は青色申告が取り消しになる場合があるので注意してください。
2-3-2 個人事業に発生する税金
個人事業主に課せられる主な税金は主に4つです。まず普通のサラリーマンと同様に所得税と住民税が課せられます。
更に個人事業に対しては、企業の法人税に当たる個人事業税が別途課税されます。税率は法律によって記載されています。
また、消費税課税事業者の場合は別途消費税を納付する必要があります。
ちなみに、決算を報告しない、納税をきちんと行わない場合は追徴課税が発生する場合があります。
3 法人の決算月はどうやって決める?
上記で個人事業の確定申告について説明しましたが、個人事業の確定申告はかなり画一的にルールが設定されていることがわかります。一方で法人の場合は柔軟に決算月が決定できるようになっています。
法人の決算ルールについて説明します。
3-1 法人の決算月のルール
法人の場合は自社の経営判断によって自由に決算月を設定することができます。4月1日から翌年の3月31日を1期とする会社が多いと言われていますが、別に8月10日から翌年の8月9日までを1期とすることも可能です。また1年以下であれば1月1日から3月31日のように短い期間を1期とすることも可能です。
ただし、実務上、決算の基準期間は月初から翌年の前月末までを1期として1年間で計算するのが一般的です。
中途半端な日にちを基準期間の開始に指定しまうと帳簿付けや決算書を作成する際の計算でミスが発生しやすくなってしまいますし、期間のキリが悪くて決算状況を評価しづらくなります。
また、基準期間を3か月や半年など短期間に設定すると、そのたびに決算書を作成してその度に税務申告を行う必要があります。特に小売業などは決算のために棚卸などもしなければならないので、業務が大きく滞ってしまいます。
ちなみに、上場企業の場合は企業の業績に基づき投資家が株を公開市場で購入するので金融商品取引法により四半期毎に決算を公表することが義務付けられています。これは決算短信と呼ばれる資料で、1年に1度税務申告を行う際に使用する通常の決算書よりは簡略化されています。しかし、貸借対照表や損益計算書など重要な決算資料はほぼ全て作成する必要がありますし、決算日から45日以内と非常にタイトなスケジュールで開示する必要があります。
3-2 法人決算の手続き
続いて法人の決算手続きについて説明します。法人は決算月の末日から2か月以内に決算書や税務申告資料を作成して税務署に提出して所定の税金を納税する必要があります。
基本的には青色申告の個人事業主と帳簿の付け方は同様ですが、法人の決算手続きの方が、提出資料が多く手続きが難解です。そのための法人の決算手続きと申請書類の作成には大抵税理士が関わっています。
申請に使った各書類は会社で保存しておく必要があります。会社法と法人税法によって書類の保存期間が違いますが、基本的に10年保存しなければならないと考えてください。
3-3 法人の決算と税金
法人の決算に伴い発生する税金は、法人税、消費税、法人事業税、都道府県民税、市町村民税の5つです。それも決算から2か月以内に申告して税金を納付する必要があります。
法人税と消費税は税務署、法人事業税と都道府県民税は都道府県税事務所、市町村民税は各市町村に提出する必要があります。
ちなみに、法人税や法人事業税、都道府県民税や市町村民税は申告期限の延長申請を行うと決算月から2か月目以降に決算の報告を1か月延長することが可能です。
もちろん申請すればどのような条件でも認められるというわけではなく、あくまでも例外的なルールです。消費税は例外が無く必ず期日までに納付しなければなりません。
4 事業年度を決める7つのポイント
以上のように個人事業と法人の決算のルールについて説明してきました。個人事業は勝手に基準期間を決定することはできませんが、法人は比較的柔軟に基準期間を設定することが可能です。
そして会社の決算月をいつにするかということは、各社の戦略によって色々なパターンがあります。まず、決算月の分布を見ながら、どのように決算月を決めるのか典型的な7つのパターンについて紹介します。
4-1 決算月の分布について
まず、世の中の会社は何月を決算月にしているのかについて説明します。国税庁が公表している、統計情報「決算期月別法人数」によると法人の決算月は以下のように分布しています。(事業年度を年2回以上に設定している法人は約2万6,000社ありますが、法人全体の1%にも満たない例外的な存在なのでここでは考慮しません。)
決算月別の法人数の分布(単位:社)
国税庁が調査した約264万社のうち約20.6%にあたる約54万社が3月を決算月にすなわち、4月1日から翌年3月31日を1事業年度として扱っています。
その次に多いのは決算月9月、すなわち10月1日から翌年9月30日を事業年度として扱う企業で約29万社、11.0%、その次が6月決算で9.6%、その次が12月決算で9.3%と並んでいます。3月を中心として3の倍数の月を決算月にするのが人気になっていることが読み取れます。
また、逆に決算月に採用されない月が11月、すなわち12月1日から11月30日を事業年度とするパターンで約7万社、2.7%しか存在しません。企業の立場としてせっかく、新事業年度として気持ちを入れ替えて頑張ってもすぐに年末年始の休みに入ってしまうので従業員のモチベーションを維持しにくいことが原因だと考えられます。
11月に次いで決算月に採用されないのが1月です。2月1日から1月31日を事業年度としている企業は約9万社で全体の3.6%しかありません。これについても、決算前に追い込みの時にちょうど年末年始がぶつかってしまうので、なかなか採用しにくい決算月だと考えられます。
このように、決算月に採用されにくい月について考察を行いましたが、これだけでも企業は戦略的に決算月を設定しているのではないかという推測が成り立ちます。
では企業は決算月をどのように設定しているのか、その設定根拠別に7パターンの事業年度の決め方について説明します。
4-2 ポイント1:よくある3月決算にする
上で説明したデータからもわかる通り多くの企業が3月を決算月としています。まずは3月決算を採用することにどのようなメリットがあるのかについて説明します。
まず、国や地方自治体は4月1日から3月31日を1事業年度に設定しています。国や地方自治体の事業年度に合わせると、キリが良くなるというのが3月決算を採用するメリットの1つです。
また、人事の観点からも3月決算は有効です。国や地方自治体が4月1日から3月31日を1事業年度に設定しているので、教育も4月1日から新学期、翌年3月末が学生の卒業月となります。よって新入社員は4月に入社します。
事業年度を4月1日開始にすると、ちょうど新卒が入って来たタイミングが事業年度の開始になります。終身雇用、年功序列の雇用慣行が続いていた日本の企業においては4月に新卒が入社するというのが基本的な採用の仕方だったので、新組織体制と事業年度の開始を一致させることができるのが3月決算のメリットです。
ちなみに、3月を基準にしてちょうど半年分ずらして9月決算、1月~12月が暦の上の1年になるので12月決算とする企業も多いです。また、3月は色々な企業の決算が集中しているので少しだけずらしたいという企業は3か月ずらして6月決算にします。
4-3 ポイント2:繁忙期を避ける
3月を基準にして3か月刻みで決算月を設定する企業が多いですが、他にも決算月の決定方法があります。まず紹介するのが「繁忙期を避ける」ことです。
決算というのは大変な作業です。例えば、小売業の場合は決算を行うために棚卸を行う必要があります。棚卸を行うためにはそのタイミングの在庫をきちんと把握しなければならないので、1日棚卸のために休業日を要するケースもあります。もちろん、繁忙期に1日店舗を休業してしまうのは企業にとって大きな機会損失になります。
また、経理部はさまざまな作業を行う必要があります。特に全従業員に大きな影響を与えるのが経費の精算です。従業員が立て替えている出張費などをきちんと報告してもらい領収証を提出してもらう必要があります。もちろん、出張の多い企業でこのようなことを行うと、繁忙期に社員の業務が止まってしまいます。また、会社の売掛金のチェックや未収金の回収などや減価償却の計算など経理には色々な業務が発生します。
アナログな会社の場合、繁忙期に決算月を合わせると業務が過剰気味になり、業績が下降してしまいかねません。よって、繁忙期を避けるというのが決算月を決める上での原則です。
例えば、建設業の場合、公共工事を受注していると国や地方自治体の予算消化に合わせて1~3月が繁忙期となります。仮にこのような企業が3月決算を採用すると、必要な伝票や証憑が揃わない可能性があるので営業も経理もその整理作業にかかりっきりになり現場が混乱しますし、仮にミスが発生した場合は決算後に修正申告が必要になる可能性もあります。
4-4 ポイント3:あえて繁忙期に合わせる
ポイント2で説明したのとは逆にあえて繁忙期に合わせるという決算期の設定の仕方もあります。繁忙期は一番売上が上がりやすいタイミングなので決算期に合わせることによって従業員を発奮させて決算期前の最後の売上アップを狙うという方法もあります。
ただし、この方法を採用するのにはいくつかの注意点があります。
まず、決算手続きが迅速に進むように準備をしておくことです。経理システムや在庫システム、営業管理システムなど各種会社のシステムを連携させてできるだけ迅速に決算ができるような仕組みを構築しておくことが必要です。
また、ただ繁忙期に決算月を合わせて従業員を叱咤激励すれば売上があがるわけではありません。ただ繁忙期に決算月を合わせただけではかえって逆効果になりかねません。
例えば、小売業の場合は繁忙期に業績をあげようとすればその分の在庫を抱える必要があります。繁忙期から決算月まで期間があれば仮に繁忙期に在庫が残ってしまった場合でも時間をかけて在庫を消化することができます。
しかし、繁忙期の直後に決算月を迎えてしまうと、在庫が消化しきれずに決算月を迎えることになります。そうなれば売上は増えるかも知れませんが、在庫が多くなってしまうので、貸借対照表の見栄えが悪くなってしまいます。
繁忙期に売上を上げて決算書の内容を良くするためには計画的にそれまでにプロモーションや適性在庫の用意などを計画的に行った上で、繁忙期の売上アップを狙う必要があります。
もちろん、在庫のない業種や、売上があがった後にすぐ入金は発生する業種などはこのような心配を行う必要がありません。ただし、決算が迅速にできるようにシステム化し、繁忙期に売上をあげるための仕込みを行わなければならないというのはどの業種にも言えることです。
4-5 ポイント4:国際会計基準に合わせる
また、国際会計基準に合わせるという決算月の決め方もあります。特に日本の大企業は日本だけに留まらず、海外でも工場を稼働させていたり、営業所を持っていたりということが一般的です。
この章の冒頭で説明した通り日本には国や地方自治体、教育に合わせて3月決算を採用する企業が多いのですが、国際的に見れば3月決算は一般的ではありません。世界的には12月決算の企業の方が多いのです。
すなわち、他の国の子会社では12月決算にしているのに、日本の本社だけ3月決算しておくということは不合理です。特に国際会計基準では連結決算書を作成する際には、親会社と子会社の決算期をきちんと統一しておく必要があります。
このように国際的に活動している企業は国際会計基準と世界的な決算月の設定方法に合わせて12月決算を採用するという方法が考えられます。
4-6 ポイント5:税務調査が行われにくい時期に合わせる
また、税務調査が行われにくい時期に合わせるという決算月の選び方もあります。何もやましいことが無くても税務調査は会社にとって大きなプレッシャーとなります。
領収証や帳票などがきちんと保存されているかきちんと用意しておく必要がありますし、税理士に立ち会いをお願いしたり、事前の対策をミーティングしておく必要があります。経営者個人としては自分のあずかり知らない所で不備が発生していたらどうしようと不安になってしまいます。よって、やましいことが無くても税務調査を受けないに越したことありません。
一般論として2月、3月は税務署が確定申告の対応に追われます。よって、税務調査に割く時間はそれほどありません。この時期に決算書の申告を行えば相対的に税務調査にあう確率が減ると言われています。
先ほど説明した通り、決算書は決算月から2か月以内に提出する必要がありますので、12月末決算、翌年2月末までに決算書を提出するというスケジュールがちょうど決算書の確認の時期が確定申告の時期に衝突するので一番税務調査を受けにくいと言われています。
ただし、12月決算にすれば必ず税務調査を受けずに済むというわけではありません。12月決算にしても決算書に不自然な点があればもちろん税務調査を受ける可能性はあります。あくまでも目安程度に考えてください。
ちなみに税務署のスケジュールについて説明すると、2月3月の確定申告の時期を乗り越えれば4月は税務調査のノルマ調整の調査が少し行われると言われています。
そして5月は3月決算の企業からの申告がたくさん発生しますが税理士が繁忙期になるので6月にずれ込まないように比較的早く終わる先に対して調査を行うと言われています。
そして6月7月は人事異動の時期なので基本的に税務調査が無くて、8月から12月が税務調査の本番だと言われています。
4-7 ポイント6:税理士の繁忙期を避ける
税理士の繁忙期を避けるという決算期の決め方もあります。
節税を行うためにはきちんと決算期に税理士と話し合いをする必要があります。しかし、税理士は繁忙期にはクライアントでもあまり1社との話し合いに時間をかけることはできません。例えば日本の会社のうち5社に1社は3月決算、5月までに決算申告ですが、この時期は税理士も忙しいのでゆっくり節税の相談ができません。
3月や9月などの税理士が繁忙期になりやすい時期を外して決算を行うことによって、税理士と綿密に打ち合わせした上で節税対策を行った決算の申告が可能です。
4-8 ポイント7:キャッシュに余裕があるタイミングに合わせる
最後にキャッシュに余裕があるタイミングに合わせて決算月を設定するという方法があります。決算書の提出と共に法人税や住民税などの各種税金も支払う必要があります。よって決算の申告時期には税金を支払うために税金を用意しておく必要があります。
この時期と会社のキャッシュが流出するタイミングが合わさると非常に危険です。例えば10月決算にすると、12月までに決算を申告して法人税を支払う必要がありますが、同時に社員に冬のボーナスを支払う必要があります。
もちろん、現金を十分に積み上げている企業の場合、税金の支払うタイミングとボーナスの時期が重なっても乗り越えられるのですが、資金繰りが悪くなっている企業だと、ボーナスや税金の支払いのために銀行から短期借り入れを行う必要が発生するかもしれません。
仮に会社にキャッシュが無くなってしまうと事業を継続することができなくなり、会社は倒産してしまいます。
特定の時期にキャッシュが社外に大量流出しないように税金を支払うタイミングとボーナス、繁忙期のための仕入れの買掛金を決済するタイミングなどとはずらした方が良いでしょう。
5 設立当初の事業年度の決め方
これまで一般的な決算月の決め方について説明しましたが、では設立当初の事業年度はどのように決めれば良いのか、その方法について説明します。
5-1 事業年度はいつ決めれば良いのか
まず、これまでの説明を受けて、創業を検討している人のなかには決算月をいつにしようか迷っている人もいるかもしれません。事業年度はいつまでに決めなければならないのでしょうか。理論上は、事業年度は定款に必ず書かなければならない事項ではないので、事業年度を記載していない定款でも会社を設立することができます。
ただし、その後の各種届出を行う際には事業年度をどうするかを決めておく必要がありますし、定款に事業年度を記載している企業の方が一般的です。会社を設立する際の定款に事業年度を書いておいた方が無難です。
もちろん、定款に事業年度を書いていないから決算をしなくて良いということにはなりません。決算は事業年度の開始から1年以内と法律によって決まっているので設立して1年以内に必ず決算を迎えることになります。
5-2 創業時における事業年度の影響
例えば2月に会社を設立した場合3月決算にすると会社設立からわずか2か月程度で決算する必要があります。このように1期目の決算時期を短くすることは良くないと言われています。
これには2つの理由があります。1つは融資の問題です。よく創業融資などの条件には1期目の申告を終えていない、2期目の申告を終えていないなどの条件が付されています。会社を設立してから1か月後であっても決算申告を行えば1期は1期です。後で創業融資や助成金が欲しくなったとしてもこの短くした1期のために要件から外れてしまう可能性があります。
また消費税についてもどうようのことが言えます。創業当初は消費税の納付が免除されていますが、2期前の事業年度の課税売上高が1,000万円を超える法人や個人事業主は消費税を納める必要があります。
例えば2018年8月に設立された企業が創業1か月目で課税売上だか1000万円を超えたとします。この会社が8月決算の会社だと消費税を支払う必要があるのは2019年9月からになります。一方で7月決算の会社だと消費税を支払う必要があるのは2020年7月からとなります。
このように最初の事業年度を長く設定することによって消費税の課税事業所になるタイミングを遅らせることができます。
基本的には一期目から事業年度は長く確保しておいた方が良いでしょう。
5-3 事業年度は後から変更できる
ちなみに会社の事業年度は一度決定してもあとから変更することが可能です。株主総会で事業年度の変更について3分の2以上の同意を受けた上で定款の変更手続きをします。(登記手続きは必要ありません。)
そして、税務署や都道府県税、市町村税事務所へ事業年度変更届出手続きをすれば事業年度は自由に変更することが可能です。
創業当初の事業年度は長めにとった方が色々メリットが大きいので、設立時の決算月は設立日からできるだけ離れた月にしておいて、事業が順調に回り出してから事業年度を変更するというのが良いでしょう。
6 決算月は戦略的に決定する
以上のように決算月の決め方について説明してきました。個人事業主の場合は、勝手に事業年度を決められませんが、法人の場合は比較的自由に事業年度を変更することができます。
法人は決算月から2か月以内に決算書を税務所に提出する必要があり、この決算書と税務申告書をベースに税金の金額が決定されます。これは会社の資金繰りなどにも大きな影響を与えます。
これまで法人の7つの典型的な事業年度のパターンについて説明してきましたが、本記事で説明した決め方をまとめると繁忙期などの特殊な事情がなければ。新卒採用や国や地方自治体の年度の区切り方に合わせる3月決算、国際会計基準に対応して税務調査も行われにくく、暦の上でもすっきりする12月決算という2つのパターンが王道のだと考えられます。
後から不都合だと思えば事業年度は変更する事ができるので、本記事を読んだ上で自社の決算は何月にするべきか、ぜひ戦略的な決定を行ってください。
7 個人事業主と経理
個人事業を行うにあたって避けられないのが経理業務です。まずは、個人事業の経理作業とは何なのか、なぜ必要なのか基本的な個人事業主と経理の関係性について説明します。
7-1 なぜ経理業務が必要なのか
経理を行うのには2つの目的があります。1つは税務署や市町村に損益を報告して所得税や法人税を支払うため、もう1つは事業の状態を把握して改善活動を行うためです。
まず、個人事業主は1年に1回、税務署や市町村に事業の損益を報告する義務があります。税務署や市町村はこれによって所得税や社会保険料や住民税などを算出するため、申告をしなかったり遅れたりすると、脱税と見なされる場合もありますし、場合によって犯罪行為として処罰されてしまいます。
また、2つ目の目的として事業の状態を把握して改善活動を行うためには経理作業は必須です。家計簿を付けなければ家計の状態を定量的に把握できないように、企業の状態を定量的に把握するためには経理作業をきちんと行う必要があります。
特に会社の財務状況は、銀行からの融資などにも深く関わるためきちんと記録しておく必要があります。
7-2 個人事業主の経理業務の概要
では、個人事業主は経理として何を行えば良いのでしょうか。まず、経理とは事業の収支を記録するための作業です。基本的には、家庭で家計簿をつくることの企業版を行っているというイメージです。
まず、必要なことは事業によって発生したお金の出し入れをきちんと記録することです。このときに重要なのが入金と出金の記録をきちんと保存することです。特に重要なのが出金の方です。交通費など基本的に領収証が貰えない経費については出金伝票という記録を残すことによって経費の証明としても良いですが、領収証が貰える経費については原則として領収証をとっておいたほうが良いでしょう。
何に出金したかの記録さえあれば、例えば確定申告の直前になって1年分の領収証を見ながら申告のために経理作業を行うことも可能です。ただし、それだと会社の経営状態が赤字か黒字だったのか、無駄な経費を使っていなかったかなど経営状態の振り返りができないため1か月単位で作って反省したほうが良いです。
経理作業をサポートしてくれるソフトもあるため、とても手間がかかったり、専門知識が必要なわけではありませんので安心してください。
8 個人事業主の報酬・経費について
次に、個人事業主の報酬と経費について知っておいたほうが良いことについて簡単に説明します。
8-1 個人事業主には給料があるのか
まずは、多くの人が気にしていると考えられるのが個人事業主の給料はどこから支払われるのかということです。実は個人事業の事業主本人については給料という概念がありません。法人の場合は、原則として毎月一定の給料が支払われますが、個人事業は自由に毎月自分の生活費を多くしたり少なくしたりできます。
個人事業主の所得は自分がいくら生活費として事業からお金を貰っているかだけではなく事業全体によって発生した所得となります。
例えば、事業の売り上げが2000万円、経費が800万円、自分の給料として個人の口座に振り込んだお金が700万円、会社に残すお金が500万円だとします。
法人だと、売上から経費、給料を差し引いた600万円に対して法人税等が課税され、個人には700万円に対する所得税や住民税が課せられます。
これに対して個人事業主は、売上から経費を差し引いた1200万円が個人の所得と見なされて、そこから各種控除を差し引いた金額から、所得税や住民税、さらに個人事業税が課せられます。
個人事業主は事業に使っているお金から自由に給料として自分の口座にお金をいれることができますが、給料が認められないため収益全体が所得と見なされることに注意してください。
8-2 「経費」として扱える費用について
次に、個人事業主が経費として扱える費用について説明します。事業の経費として計上できるのは、事業のために使った費用だけです。
例えば、仕事として取引先の接待のための使用した飲食代は費用となりますが、個人的に友人と飲み食いをした費用は経費と認められません。税金は個人の所得か、事業の所得かを分類することなく所得全体に課税されますが、経費についてはきちんと事業と個人を分けて考える必要があります。
ただし、サラリーマンなどと比較すると、色々な経費を計上することによって所得を抑えることによって税額を低くすることが可能です。例えば、仕事のためにビジネス書や技術書を買う場合、サラリーマンは基本的に自腹ですが、個人事業主の場合は仕事のために必要なら経費とみなされます。
また、家のスペースのうち、書斎など仕事のために使っている部屋があるのならば、その部屋分の賃貸料は経費として所得から差し引くことができます。サラリーマン時代は意識しませんが、振り返ってみると仕事のために使っている経費はたくさんあります。
無理やり事業にこじつけて経費扱いするのはよくありませんが、個人事業主はこのような経費を使って、課税対象となる所得を少なくできます。
8-3 個人事業主と源泉徴収
個人事業主の報酬、費用において一点注意したいのが源泉徴収です。サラリーマンの場合、給料から所得税を支払うためのお金が源泉徴収として差し引かれます。個人事業主に対する報酬は源泉徴収が差し引かれている場合があります。
例えば、飲食店などを経営している場合は、飲食代金から源泉徴収が差し引かれることはありませんが、業務委託で仕事をしている場合などは源泉徴収が報酬から差し引かれている場合があります。
法律で報酬に対する源泉徴収が義務付けられているものとしては、原稿料や講演料、弁護士、公認会計士などの報酬があります。
源泉徴収は所得税のために差し引かれるお金ですが、経費が掛かって収益が少ない場合は実際に支払うべき所得税よりも源泉徴収額が多くなっているケースがあります。
このような場合は、確定申告を行うことによって多めに支払っていた所得税の還付を受けることができます。
9 個人事業主の経理作業
ここからは、個人事業主の経理作業について具体的にどのようなことを行えば良いのかについて説明します。
9-1 経理作業は難しくない
まず、経理作業は難しいことでありませんし、費用は掛かってしまいますが税理士に全て作業を代行して貰うことが可能です。
経理作業は①領収証を保存する、②取引内容を記録する、③決算書類を作成するという3つに分解することができます。
このうち、①領収証を保存するのは誰でもできます。後から確定申告のところで説明しますが、青色申告は7年間、白色申告の場合は5年間の領収書の保存義務があります。
また、取引内容を記録するためには仕訳という経費を記録する際のルールを知っておく必要があります。これは簿記3級程度の知識があれば、企業の典型的な会計処理は抑えることができますし、分からなければインターネットで調べればどのように処理すれば良いのかについて調べられます。
決算書類を作成することについて、手作業で行うのは知識も必要ですし、手間もかかりますが、今は取引内容さえきちんとしていれば会計ソフトが自動的に作成してくれるようになっています。
9-2 単式簿記と複式簿記
ちなみに、帳簿の付け方には単式簿記、複式簿記の2種類があります。
単式簿記は家計簿のように、入って来たお金と出て行ったお金を記録すれば良いだけです。一方で複式簿記はいわゆる「簿記」のルールに則った記帳方法で、法人や青色申告を行っている個人事業主は複式簿記で帳簿をつける必要があります。
例えば、仕入れ代として現金10万円を支払った場合、単式簿記では「仕入10万円」と書きますが、複式簿記では「仕入 10万円、現金10万円」という書き方をします。
このあたりの細かいルールは説明しだすと長くなりますが、先ほども説明した通り簿記3級程度の知識を身につけて、会計ソフトのサポートがあれば、それほど難しくはありません。
9-3 経理をサポートしてくれるソフト
先ほどから、経理をサポートしてくれるソフトがあれば、経理作業はそれほど難しくないという話をしていますが、具体的にどのようなソフトがあるのかについて説明します。
まず、初心者におすすめなのが、クラウド型の会計システムです。例えば、普通の会計ソフトならば、そのソフトをインストールしたパソコンだけでしか使えずデータもそのパソコンに保存されているため、他のパソコンから経理業務を行うことはできません。
一方でクラウド型会計システムに場合は、インターネット上でサービスを利用するためアカウントとパスワードさえあれば、出先のパソコンやスマホなどからでも自由にログインできますし、サービス会社がデータを保存しているため、会社で使っているパソコンが壊れてもデータ復旧の心配があります。
代表的なクラウド会計サービスとしては「やよいの白色申告 オンライン,やよいの青色申告 オンライン」や「freee」、「MFクラウド家計」などがあります。無料のデモ版を使える場合もあるため、これらを使ってみて使いやすいと思える会計ソフトを利用するのが良いでしょう。
10 確定申告について
最後に、個人事業主が避けては通れない確定申告について説明します。
10-1 確定申告とは何か
確定申告とは1年間の所得を計算して、納税額を決めるための報告を行う手続きのことを指します。サラリーマンの場合は、会社が給料から所得税や住民税、保険料などを算出して報告、支払いを行ってくれているため気にする必要はありません。しかし、個人事業主の所得は自分で報告しなければならないため、所得報告のために確定申告を行う必要があります。
ちなみに、確定申告には青色申告と白色申告の二種類があります。簡単に言えば、青色申告は企業のようにきちんと決算状況を報告するためその分多くの控除が受けられる申告パターン、白色申告は申告の仕方が簡単な分だけ受けられる控除が少ないパターンと考えれば良いです。個人事業主として生計を立てようと考えているのならば原則として青色申告を行ったほうが良いでしょう。
ちなみに、サラリーマンが会社から貰う給料は給与所得、個人事業主が事業によって得た所得は事業所得として扱われます。そして、年間の事業所得が20万円以下であれば確定申告を行う必要はありません。(税務署に申告しない場合でも住民税などが発生する場合もありますし所得証明をつくるためにも市町村に住民税の申告を行う必要があります)。
ただし、事業所得が20万円以下であっても源泉徴収による所得税の還付が受けられる場合もありますし、青色申告の場合は赤字が3年間繰り越せるため確定申告しておいたほうが良いです。
10-2 確定申告の手続きについて
確定申告はその年の1月1日から12月31日の収支を一期として記録します。そして翌年の2月16日から3月15日までの間に、その住所を管轄している税務署に対して申告する必要があります。
ちなみに特に手続きをしていなければ確定申告を白色申告で行うことになります。青色申告を行いたければ、開業日から2か月以内、もしくは途中から青色申告に切り替える場合は青色申告に変更したい年の3月15日までに青色申告承認申込書を税務署に提出する必要があります。
確定申告の手続きを詳しく説明しませんが、まず事業による所得を計算して、扶養者控除など事業所得から差し引ける経費を計算、それをもとに税額を計算、各種申請書類を作成することになります。
慣れない場合は苦戦するかもしれませんが、確定申告の時期になると税務署などで相談会を行っていることもあるので申請書に不安がある場合はこのような機会を利用して質問することができます。
10-3 申告をしないとどうなるのか
ちなみに、確定申告をしなければならないのに申告していない場合にはペナルティがあります。
まず、期限内に申告をしない場合や申告しなかったために税務署から所得総額の決定を受けた場合は、通常の税金とは別に無申告加算税という税金が加算されます。また、申告だけして税金を支払わない場合は延滞税が課せられる場合があります。
そして意図的に申告書を提出しておらず悪質な場合は、「故意の無申告犯」ということで懲役となることもあります。
いずれにしてもきちんと申告、納税した方が良いでしょう。
11 まとめ
個人事業主に必要な経理作業の内容と、確定申告の仕方について説明してきました。
事業を営んでいる個人事業主は経営状況を把握するために収支を付ける必要があります。利益がでれば所得税や住民税などを支払う必要があります。
そこで経営者として重要なのが「経理作業」です。
個人事業主の方は独立を考えている方などはぜひ参考にしてみてください。