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はじめてでも分かる!決算短信と有価証券報告書との違い〜決算公告のメリットも〜

決算短信とは何でしょうか?決算書とどう違うのでしょうか?決算短信は、株式投資を行う投資家が株式銘柄を選ぶさいに判断材料とする資料です。しかし、貸借対照表や損益計算書を見慣れていたとしても、決算短信は独特な内容となっており、敷居の高さを感じる場合があります。

 

この記事では、株式投資を考えており決算短信の読み方を知りたいという方に向けて、決算短信の読み方と有価証券報告書との違いについて説明します。決算短信の内容や見るべきポイントについて解説しますので、是非参考にしてみてください。

 

 

1 決算短信とは

決算短信とは、上場会社が作成する、投資家に向けた決算資料のことです。決算短信には一定の様式があり、投資家が必要とする情報を網羅しています。

 

決算書との違いは、決算内容をその名の通り「短くまとめて」いることにあります。そして、決算短信は、一部に仮の数値を含みつつも、速報版として投資家の手元にはいち早く届けることを意義としています。

 

上場会社は、金融商品取引法に基づいて、同法上の決算書にあたる「有価証券報告書」を3ヶ月以内に提出することで決算内容を公表します。しかし、決算情報を知るのにその期限では遅いという投資家たちの声に応じるため、証券取引所では、上場会社に決算書の速報版となる決算短信を出すことをルール付けているのです。

 

それでは、決算短信はどこに、いつまでに出すのでしょうか。次章にて説明しましょう。

 

 

2 決算短信の提出先と提出期日

決算短信は、証券取引所の適時開示ルールにのっとって作成し、証券取引所に提出をすることになります。提出はTDnetという適時開示情報閲覧サービス上にて証券取引所にデーターを送信する形で行います。また、決算短信は会社のIR情報(投資家情報)として会社のホームページにも記載されます。

 

決算短信の提出期日は、決算日から45日以内の開示が適当とされ、より望ましいのは30日以内の開示とされています。日本では3月を決算月と定めている会社が多いことから、ゴールデンウィーク頃に上場会社の決算関連のニュースが世を賑わかすことになります。

 

また、上場会社は金融商品取引法に基づいて四半期決算を行うことになっています。四半期決算に対する決算短信も作成することになっており、四半期決算短信は決算日から30日以内の提出を目安とされています。

 

 

3 決算短信の内容と見るべきポイント

決算短信は決算書の概略版、集約版といえるものですが、投資家が必要とする情報を網羅している資料であるため、その密度は濃いものとなっています。

 

決算短信は、「サマリー情報」と「添付資料」の2種類から構成されます。サマリー情報は1~2ページからなる、枚数としては少ない書類ですが、決算短信の本体といえるもので、売上高や各種利益、経営成績・財政状態の概況、および来季の予想を記載しています。

 

サマリー情報は「連結」か「非連結」か、そして会計基準に何を採用しているか(「日本基準」、「IFRS」または「米国基準」のいずれか)によって、次の4種類の帳票に分けられます。

 

  1. 通期第1号参考様式[日本基準](連結)
  2. 通期第2号参考様式[日本基準](非連結)
  3. 通期第3号参考様式[IFRS](連結)
  4. 通期第4号参考様式[米国基準](連結)

 

4帳票とも、「(連結)業績」、「配当の状況」そして「(連結)業績予想」の3区分から構成されます。非連結会社の場合は項目名称から連結という文字が外れます。連結業績には「連結経営成績」、「連結財政状況」、「連結キャッシュ・フローの状況」の3項目があります。

 

決算短信を読み取る上で重要な項目は、連結業績の上記3項目と「連結業績予想」です。順に説明していきましょう。

 

 

 

3-1 連結経営成績

連結業績中の「連結経営成績」を説明します。連結経営成績の様式は下記のようになります。

 

(1)連結経営成績

  売 上 高 営業利益 経常利益 親会社株主に帰属
する当期純利益
30年 3月期
29年 3月期
百万円
30,000
25,000

12.0
10.0
百万円
10,000
7,000

42.9
30.0
百万円
8,000
6,000

33.3
25.0
百万円
4,500
3,000

50.0
40.0

 

  1株当たり
当期純利益
潜在株式調整後
1株当たり
当期純利益
自己資本
当期純利益率
総 資 産
経常利益率
売 上 高
営業利益率
30年 3月期
29年 3月期
円   銭
95.10
70.00
円   銭
85.50
65.80

16.0
15.0

15.2
11.3

7.5
5.5

 

連結経営成績は上段と下段の2段に分かれています。上段は損益計算書の概略版となり、下段は損益計算書にはない決算短信独自の項目となります。損益計算書とは、「P/L」(=Profit&Loss Statement)とも呼ぶ、会社の1年間の営業成績をあらわす書類です。

 

上段の最初の項目である「売上高」欄には本業の売上高が表示されます。前年よりもマイナスになっている場合は、その会社の核である事業の売上が下がっていることになります。

 

「営業利益」欄には、売上高から「売上原価」と「販管費および一般管理費」を差し引いた額となります。会社の本業の営業成績はこの営業利益額であらわされます。

 

なお、売上原価は、商品の材料費や商品化する過程での人件費などの、商品に直結する費用となります。販管費および一般管理費は、会社の宣伝費や事務職の人件費など、間接的な経費のことを指します。

 

損益計算書には、売上原価と販管費および一般管理費の2項目も表記されますが、当連結経営成績上では、その2項目は省略されていることになります。

 

「経常利益」は、営業利益に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を減算した金額となります。「営業外」には本業外で通常発生するもの、という意味合いがあり、営業外収益には株式の配当金などが、営業外費用には外国為替の円換算時の差損などがあります。

 

経常利益は会社に通常発生する1年間の利益額であるため、会社の経営状況を図る重要な数値として参照されます。

 

次の「当期純利益」は、経常利益に「特別利益」を加算して、「特別損失」を減算した金額のことです。このときの「特別」には「臨時的な」あるいは「想定外の」という意味合いがあります。特別利益には自社ビルの売却などがあり、特別損失には台風などの天災による設備修繕費などがあります。

 

また、決算短信には各項目に前年度比欄を設けています。前年度比欄は通常の損益計算書にはなく、この決算短信の独自項目となります。

 

どの項目を重視するかは投資家によってさまざまですが、当期純利益には臨時的な金額が含まれていることに留意してください。例えば、営業利益、あるいは経常利益がマイナスまたは前年度比減にも関わらず、当期純利益がプラスや前年度比増となっている場合には、臨時的な手段により最終的な数字の見栄えを良くした可能性が考えられます。

 

決算短信上ではあらわれない見るべきポイントを紹介しましょう。会社の成長性を図る「経常利益成長率」という指標があり、この指標によって前期の経常利益からの伸び具合を判定することができます。

 

算出式は、(当期経常利益-前期経常利益) / 前期経常利益 × 100 です。
上記の様式中の数字を例にとると、(8,000-6,000) / 6,000 × 100 = 33% となります。

 

この比率は大きければ大きいほど優秀となります。更に、経常利益成長率は売上高前年度比と合わせて見ることによって、次の表のことが分かります。

 

売上高前年度比 経常利益成長率 分かる情報
増収増益。順調に成長している。
増収減益。商品の採算性の減少や、コストの増加が生じている。
減収増益。売上減少もコストの効率化に成功している、あるいは商品の集中販売が功を奏している。
減収減益。販売不振で、コストの効率化も奮わない。

 

連結経営成績の下段には、損益計算書にはない、投資家向けの株式購入判断材料となる数値が並びます。その中から「自己資本当期純利益率」を採り上げましょう。

 

自己資本当期純利益率はROEと略され、どの程度株主資本を有効活用して利益を上げているかを図るための指標です。

 

算出式は、1株あたりの当期純利益 / 1株あたりの株主資本 × 100 です。良いとされる数値は10%以上で、15%以上になると優良会社と目されます。また、ROEは株主への配当能力を図るさいにも用いられ、投資家は配当の大きさを期待してROEの高い会社に投資をする傾向にあります。

 

 

3-2 連結財政状態

連結業績内の次の項目は「連結財政状態」です。

 

(2)連結財政状態

  総 資 産 純 資 産 自己資本比率 1株当たり純資産
30年 3月期
29年 3月期
百万円
350,000
340,000
百万円
150,000
140,000

41.4
39.7
円   銭
2,300.15
2,150.10

(参考)自己資本  30年3月期  145,000百万円  29年3月期 135,000百万円

 

連結財政状態の項目は、決算書の「貸借対照表」(B/S = Balance Seat)上の項目を抜粋したものとなります。

 

最初の項目「総資産」とはその名の通り、会社のその時点での総資産額をあらわします。貸借対照表は左と右の大きく2区分に分かれており、総資産とは左側の「資産の部」の合計額となります。資産の部には、現預金や、建物や設備などの固定資産、また投資有価証券などがあります。

 

貸借対照表の右側は「負債の部」と「純資産の部」の2部で構成されます。負債の部には借入金や買掛金などがあり、純資産の部には株主による資本金や当期までの利益の積立金などがあります。連結財政状態上では負債の部は省略されており、純資産の部のみが表示されていることになります。

 

なお、純資産の部が株主資金などの「自己資本」を含んでいることに対応して、負債の部のことを「他人資本」と呼ぶことがあります。資産の形成は「他人」の資金に由来するか、「自己」資金に由来するかのどちらかとなりますので、資産の合計額(貸借対照表の左側の合計額)は、負債の部と純資産の部の合計額(貸借対照表の右側の合計額)と一致することになります。

 

純資産の部には新株予約権などもあり、これは株主資本とは異なるために自己資本とはなりません。純資産の部から株主資本以外の項目を抜き出したものを、欄外に「(参考)自己資本」として表記することになっています。

 

連結財政状態の項目「自己資本比率」は、総資産の内に占める自己資本の割合です。この数値が低ければ低いほど他人資本に依存しているということになり、40%以上が倒産しにくい会社の目安とされています。

 

 

 

3-3 連結キャッシュ·フローの状況

連結業績内の最後の項目は「連結キャッシュ·フローの状況」です。この項目は、決算書の「キャッシュ・フロー計算書」を抜粋したもので、会社の当年度の預金を含む現金の動きが分かるものとなります。

 

(3)連結キャッシュ・フローの状況

  営業活動による
キャッシュ·フロー
投資活動による
キャッシュ·フロー
財務活動による
キャッシュ·フロー
現金および現金同等物
期末残高
30年 3月期
29年 3月期
百万円
25,000
30,000
百万円
△10,000
△15,000
百万円
△12,000
△14,000
百万円
20,000
25,000

 

「営業活動によるキャッシュ·フロー」は、本業における現金の動いた額をあらわします。当年度中の売上と売上原価による現金の差額から、法人税等の納付分を差し引いた額を表示しています。この項目のプラスは本業が利益を上げている証左となります。マイナスの場合は本業が芳しくないということになりますので注意してください。

 

「投資活動によるキャッシュ·フロー」は、固定資産や投資有価証券の売買活動による現金の動きです。マイナスの場合は、固定資産などの購入を行なったということになり、将来に向けて設備投資したと読み取ることができます。

 

「財務活動によるキャッシュ·フロー」は、借入金の調達や返済によって現金が動いた額です。マイナスの場合は、年度中の借入金返済額が年度中の借入金調達額を上回ったことを意味します。すなわち、当年度中に負債が減ったということになります。

 

 

 

3-4 連結業績予想

連結業績予想は来季業績の予想値です。記載項目は連結業績中の連結経営成績と同じもの(一部省略あり)となります。

 

平成31年3月期の連結業績予想(平成30年4月1日~平成31年3月31日)

 

  売 上 高 営業利益 経常利益 親会社株主に帰属
する当期純利益
1株当たり
当期純利益
通期 百万円
35,000
%
16.7
百万円
13,000
%
13.0
百万円
9,000
%
12.5
百万円
5,500
%
12.2
円 銭
100.50

予想値は、目標値または努力値として高く掲げる会社もあれば、現実的路線で堅調な数値とする会社もあります。投資家たちはこの予想値と会社が掲げる今後の経営戦略などを元に、会社の目標や意識を読み取って投資活動の判断材料とします。

 

 

4 決算短信と有価証券報告書の特徴と開示時期

上場会社は決算に関して「決算短信」と「有価証券報告書」という2種類の資料を公表することになっています。

 

ここでは、決算短信と有価証券報告書の違いやそれぞれの役割、そして見るべきポイントを説明しますので、どうぞ最後まで読んでください。

 

 

 

4-1 決算短信と有価証券報告書の特徴

決算短信と有価証券報告書の共通点は、上場会社の決算に関してまとめているという点にあります。対して相違点は、決算に関しての記載要領や開示ルールの取り決め元、および公表される時期にあります。具体的なそれぞれの特徴や公表時期などを見てみましょう。

 

決算短信の最大の特徴は、決算の速報版ということです。速報版としての機能を優先しているため、決算の細かい点を省略した概算版的な内容であり、かつ一部に仮の数値を含みますが、逸早く決算情報を知りたいという投資家の要望に応じるものとなっています。

 

もう一方の有価証券報告書の特徴は、決算の確定版であるという点です。決算書を代表する「貸借対照表」や「損益計算書」といった書類を備え、経営指標などの推移や、事業および設備の状況を記載した、会社の1年間の営業活動の総まとめとなる資料となります。

 

 

 

4-2 適時開示制度と開示期日

決算短信と有価証券報告書は、それぞれの管轄元が決めた開示ルールに基づいて公表されます。この開示ルールは「適時開示制度」と呼ばれ、それぞれの記載内容や期日に関する決まりごとが定められています。

 

決算短信の適時開示制度は証券取引所が制定したものとなります。証券取引所が定めたルールですので、上場会社が対象となります。決算短信の開示期日は決算日から45日以内となっており、望ましいのは30日以内とされています。

 

決算短信の提出はTDnetというインターネット上の適時開示システムを活用します。決算短信は、TDnetへ提出し、証券取引所へ説明を行った後、インターネット上で公開されることになります。また、会社としても会社のホームページにIR情報という形で決算短信を掲載します。

 

対して、有価証券報告書は金融商品取引法に基づいて作成されるものです。こちらは上場会社だけが対象ではなく、一定規模以上等の条件に該当する会社が対象となります。提出期日は決算日から3ヶ月以内と定められています。

 

提出先は財務局および証券取引所となり、証券取引所へは前述したTDnetを用い、財務局へはEDINETという金融庁のシステムを使用することになります。

 

決算短信と有価証券報告書の役割あるいは存在目的は、そのどちらもが、有価証券による金融市場を適切かつ効率的に運営し経済を発展させるために投資家に適切な投資判断材料を提供することにあります。

 

金融市場では会社の情報に大きく左右される商品を扱っています。特に目まぐるしく会社状況が変わる近年において、最新の会社情報を投資家に提供することは、上場会社と証券取引所にとって重要な使命なのです。

 

 

5  決算短信と有価証券報告書の違いとポイント

決算短信と有価証券報告書は、どちらも決算に関する情報を記載しますが、記載要領や内容において異なる点があります。ここからは、具体的な相違点を項目ごとに見ていきましょう。

 

 

 

5-1 経営成績と損益計算書

1年度の売上や利益といった経営成績に関する情報は、決算短信上では「経営成績」、有価証券報告書では「損益計算書」という形で表されます。

 

決算短信上の経営成績は、会社の基本情報の次に表示される項目です。ここに記載される情報は速報版のため仮の数値であり、投資家が特に必要とする項目を選出した概略版となります。

 

もう一方の有価証券報告書中の損益計算書は「P/L」(=Profit&Loss Statement)という呼び方をします。有価証券報告書の情報は決算の確定数値ですので、この損益計算書に記載されるのは確定額ということになります。

 

まずは確定版であり詳細版でもある損益計算書を説明しましょう。下記図が損益計算書の様式となります。

 

科目 金額
売上高
売上原価
売上総利益
販売費および一般管理費

営業利益
  40,000,000,000
34,500,000,000
5,500,000,000
500,000,000
5,000,000,000
営業外収益
 受取利息
  ︙
営業外収益合計
営業外費用
 支払利息
  ︙
営業外費用合計

経常利益
80,000,000 100,000,000






600,000,000
500,000,000
 
  4,500,000,000
特別利益
 固定資産売却益
  ︙
特別利益合計
特別損失
 固定資産除却損
  ︙
特別損失合計

税引前当期純利益
 法人税、住民税および事業税

 
  当期純利益
100,000,000 1,000,000,000






6,00,000,000
2,000,000,000
 
  4,000,000,000
1,600,000,000
  2,400,000,000

 

損益計算書は、左側に各項目(科目)名称、真ん中に項目ごとの金額、右側にまとまりごとの合計額の3列からなり、その3列を横断する線によって3区分に分けることができます。

 

1つ目の区分である、「営業利益」を最後尾とする内の項目(科目)は、本業に関わる収益と費用になります。「売上高」と「売上原価」は本業に直接関わる収益と費用、「販売費および一般管理費」は事務部門などの本業に直接は関係しない費用を表し、それら収益から費用を差し引いたものが最終項目の「営業利益」となります。

 

2つ目の区分は、年度中に本業外で通常発生する損益です。例えば、収益には銀行預金の受取利息などが、費用には借入金の利子額などがあります。最終項目の「経常利益」は、本業と本業外の年度中に発生した損益の差額となります。

 

3つ目の区分の中にある「特別利益」と「特別損失」の「特別」という言葉には、臨時的な(想定していなかった)という意味があります。例えば、特別利益には固定資産の売却が、特別損失には天災による修繕費などがあります。経常利益から特別な損益を差し引いたものを「税引前当期純利益」と呼びます。

 

そして、損益計算書の最終項目である「当期純利益」は、税引前当期純利益から法人税などの税金を引いたものとなります。

 

損益計算書の概略版であり速報版でもある決算短信の「経営成績」の様式は以下のようになります。なお、連結会社の場合は「連結経営成績」という名称となります。

 

  売 上 高 営業利益 経常利益 親会社株主に帰属
する当期純利益
30年 3月期
29年 3月期
百万円
40,000
35,000

14.2
8.0
百万円
5,000
4,000

25.0
7.5
百万円
4,500
3,500

28.5
9.0
百万円
4,000
3,000

33.3
15.0

 

  1株当たり
当期純利益
潜在株式調整後
1株当たり
当期純利益
自己資本
当期純利益率
総 資 産
経常利益率
売 上 高
営業利益率
30年 3月期
29年 3月期
円   銭
115.10
90.00
円   銭
10.0
8.0

9.5
7.2

12.5
10.5

 

経営成績は2段で構成され、上段は損益計算書の概略版、下段は損益計算書には記載されない経営分析情報となります。

 

上段の「売上高」、「営業利益」、「経常利益」はそれぞれ損益計算書の同項目に対応し、「親会社株主に帰属する当期純利益」は損益計算書の税引前当期純利益に対応します。

 

上記以外の損益計算書の項目は省略されていることになります。また、損益計算書には当年度分しか記載されませんが、決算短信は前年度分も合わせて記載されますので、投資家にとって、前年度と比較をして経営情報を分析しやすい作りとなっています。

 

下段には経営分析情報が記載されますが、その中から「売上高営業利益率」を説明しましょう。

 

売上高営業利益率は、本業の売上と原価から販管費までの営業利益を本業の売上高で割ることで求まる比率(売上高営業利益率=営業利益÷売上高)であるため、会社の本業の実力や効率を表す指標となります。損益計算書にも売上高と営業利益は記載されますので、上記計算式にて求めることは可能です。

 

経営分析情報項目を他社と比較するさいには、同業他社との比較がより効果的となります。売上高営業利益率は、一般的には売上高営業利益率は1~3%が標準的とされ、5%以上の場合は優良とされます。

 

続いて、損益計算書と決算短信の経営成績に共通する見方のポイントを1つ紹介しましょう。両方の資料とも、本業の「売上高」と、本業の利益である「営業利益」、年度内の本業外も含めた想定内の収益からなる「経常利益」、そして最終的な「当期純利益」の項目があります。

 

当期純利益は税引き後の最終利益ですが、この中には臨時的な損益も含まれていることになります。もし、経常利益までの数値が芳しくないにも関わらず、当期純利益にて挽回している場合は、当期純利益の見栄えを良くするために臨時的な手段で収益を増やした可能性を考えた方が良いでしょう。

 

 

 

5-2 財政状態と貸借対照表

有価証券報告書の「貸借対照表」と、その概略版・抜粋版である決算短信の「財政状態」は、会社の資産や負債を表すものとなります。

 

貸借対照表は「B/S」(= Balance Seat)という呼び方をします。大きく左と右の2つに分かれた表で、左側には会社の資産を、右側には会社の負債と純資産を記載します。以下が様式例です。

 

(資産の部)
 Ⅰ流動資産
   現金および預金
   売掛金
   製品および商品
   ︙
 Ⅱ固定資産
   建物
   機械装置
   土地
   投資有価証券
   ︙
 Ⅲ繰延資産
   創設費
   株式交付費
   ︙
(負債の部)
 Ⅰ流動負債
   買掛金
   短期借入金
   ︙
 Ⅱ固定負債
   長期借入金
   ︙
(純資産の部)
 Ⅰ株主資本
   資本金
   利益剰余金
   ︙
 Ⅱ株主資本以外
 (評価換算差額 など)      ︙

 

左側の「資産の部」は、「流動資産」と「固定資産」、そして「繰延資産」からなります。流動と固定の区別は1年以内に現金化されるか否かを基準としており、現金化される場合には流動資産となります。なお、繰延資産は長期間に渡り会社に影響を及ぼす会社の創設費などの費用を指します。

 

右側は上段に「負債の部」、下段に「純資産の部」という構成です。負債の部も、資産の部と同様に1年以内の現金化を基準として「流動負債」と「固定負債」に分かれます。下段の純資産の部には、資本金や当期までの利益の積立金(利益剰余金)が記載されます。

 

表の左側の会社の資産は、表の右側を資本として形成されたものです。したがって、左側と右側の合計額は一致することになります。なお、右側下段の純資産の部のことを、株主からの資本金など返済の必要のない資本であることから「自己資本」と呼び、対して負債の部のことを返済の必要のあることから他人資本と呼びます。

 

次に掲げるものは決算短信の「財政状態」です。連結会社の場合は「連結財政状態」となります。

 

  総 資 産 純 資 産 自己資本比率 1株当たり純資産
30年 3月期
29年 3月期
百万円
400,000
370,000
百万円
180,000
160,000

41.3
39.2
円   銭
2,500.05
2,350.15

(参考)自己資本  30年3月期  165,000百万円  29年3月期 145,000百万円

 

「総資産」は貸借対照表の左側の合計額であり、「純資産」は右側下段の純資産の部の合計額を指します。貸借対照表の負債の部については省略されていますが、総資産から純資産を引くことで求めることができます。

 

自己資本比率とは総資産の内の自己資本が占める割合です。貸借対照表の純資産の部には、新株予約権なども含まれるため、正確には全額が自己資本額となる訳ではありません。当財政状態項目ではそのために、欄外に純資産の内の自己資本の対象となるものを「(参考)自己資本」として表記しています。

 

なお、自己資本比率は低いほど他人資本(貸借対照表の右側上段の負債の部)の占める割合が大きいことを意味します。自己資本比率40%以上が倒産しにくい目安とされます。

 

 

 

5-3 キャッシュ・フロー計算書とキャッシュ・フローの状況

キャッシュ・フローは、決算短信では「キャッシュ・フローの状況」、有価証券報告書では3種類の「キャッシュ・フロー計算書」となります。3種類のキャッシュ・フロー計算書の内訳は、「営業キャッシュ・フロー」、「投資キャッシュ・フロー」、「財務キャッシュ・フロー」です。

 

有価証券報告書の3種類のキャッシュ・フロー計算書と、以下の決算短信上の「キャッシュ・フローの状況」の項目とはそれぞれ対応することになります。

 

  営業活動による
キャッシュ·フロー
投資活動による
キャッシュ·フロー
財務活動による
キャッシュ·フロー
現金および現金同等物
期末残高
30年 3月期
29年 3月期
百万円
25,000
30,000
百万円
△10,000
△15,000
百万円
△12,000
△14,000
百万円
20,000
25,000

 

「営業活動によるキャッシュ·フロー」は、本業の現金の動きです。この項目がプラスとなる場合は本業において利益が上がっていることになります。

 

「投資活動によるキャッシュ·フロー」は、固定資産や有価証券などの投資による現金の動きです。マイナスの場合は、投資を積極的に行ったことになります。

 

「財務活動によるキャッシュ·フロー」は、借入金の調達や返済による現金の動きです。マイナスの場合は調達額よりも返済額の方が上回ったことになります。

 

 

 

5-4 業績予想

業績予想は有価証券報告書にはない、決算短信の独自項目です。来季のある時期までの、または通期の予想を記載する項目となり、会社の来季への意思や目標が強く現れる項目であるといえます。以下が様式例です。

 

  売 上 高 営業利益 経常利益 親会社株主に帰属
する当期純利益
1株当たり
当期純利益
通期 百万円
35,000

16.7
百万円
13,000

13.0
百万円
9,000

12.5
百万円
5,500

12.2
円 銭
100.50

 

 

6 決算公告のメリット

「公告」とは、官報などの方法で、特定の利害関係者だけでなく、不特定多数の人に広く会社に関する情報を開示することを指します。これは会社法によって定められており、会社法第440条の規定では、「株式会社は定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公開しなければならない」と定められています。

 

 

6-1 公告制度

①公告するメリット

公告を行うことにより、株主や債権者に対して会社の財務状態をオープンにしておき、その内容を周知させることで危機管理意識を高めるとともに透明性を図ることができます。また株主や債権者、取引先に重大な影響を与える可能性のある事項を決定した場合にも公告が義務付けられています。

 

②公告の種類

公告の種類は3つに分かれます。
a)債権者に向けた異議申述等公告
・・・定款で定めた公告の方法に関わらず官報への公示が必要です
(合併公告・解散公告・組織変更・資本金及び準備金の額の減少等) 
  b)株主等に向けた通知広告
・・・定款で定めた方法で公告します。個別に通知した場合、公告は不要です。
(定款変更・株式分割・株主割当の株式等募集・株式移転・事業譲受等)
c)決算公告  
・・・定款で定めた方法で公告します。決算公告は毎年行います。
(決算公告)

 

③公告の方法

株式会社は定款の中で公告の方法を決定しますが、公告の方法としては、3つの方法があります。
a)官報に掲載する方法
b)時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
c)電子公告による方法

 

a)官報に掲載する方法
定款の中で特に掲載方法に定めを行っていなければ、官報に掲載する方法となります。
官報とは簡単に言うと政府が発行している新聞です。行政機関の休日以外は毎日発行されています。

 

官報には政府や省庁の決定事項(法律や省令の交付、政府関係人事の発令、各省庁の処分・公示事項)や会社法による決定事項などが掲示されており、その中に株式会社の公告事項なども掲載されています。但し官報による公告ができないものもあります(銀行、銀行持ち株会社、保険会社等)。

 

以前は電子公告という制度はありませんでしたので官報での公告が中心でした。
費用は公告のサイズにより変わりますが5-6万円程度です。

 

b)時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」とは、一般市民を主な読者と想定して発行されている日刊紙で、日本経済新聞や朝日新聞、毎日新聞などの全国紙や、北海道新聞・西日本新聞などのブロック紙、静岡新聞、千葉日報などの県紙が該当します。

 

スポーツ新聞や特定の産業分野の業界紙などは、一般市民を主な対象としているとはみなされません。また日刊紙による公告の場合、定款にその新聞の発行地を記載しないことも可能ですが、発行地の定めがないにも関わらず、地方版などに公告を掲載した場合などには、公告が認められないケースが出てくる恐れがあります。望ましいのは発行地を特定する方法です。

 

費用は3つの方法の中では最も高くなります。日刊紙を選ぶ場合、1回の公告に50万円以上かかります。

 

c)電子公告による方法
「電子公告による方法」とは、インターネット上のホームページに掲載する方法で公告することをいいます。株主や債権者は公告内容が掲載されているホームページを閲覧することで公告の内容を知ることができます。

 

自社でホームページを保有している会社は、公告のページを追加することで、電子公告を行うことができます。また電子公告のサイトを運営している会社もあり、サイトが保有するホームページに掲載することもできます。その場合の利用料は300円/月~程度です。

 

ただし法定広告(決算公告は対象外)を電子公告で出す時には指定調査機関による調査が必要で、費用は1回あたり10~15万円程度です。

 

近年では電子公告を行う企業が多くなっています。上場企業の多くは電子公告に変更しております。中小企業の場合でも官報による公告から電子公告に変更する会社も増えております。

 

なお定款において公告の方法を定めていない場合は自動的に官報に掲載するものとされますので注意が必要です。

 

④罰則規定

公告は法律により義務付けられていますが、違反した場合は100万円以下の過料(罰金)が科せられます。

 

会社法では公告を怠りまたは不正な広告をした場合に、行政罰として「100万円以下の過料に処す」と定められています。しかもこの行政罰の対象は、会社ではなく、代表取締役等の違反者個人に課せられるものです。

 

虚偽や不正な公告をした場合には、その公告は無効となる可能性があります。また不正な広告により第三者に損害を与えた場合には、会社や役員が損害賠償責任を負う場合もあります。

 

 

6-2 決算公告

①決算公告とは

会社法では株式会社に対して、決算書類の作成、保存、株主への提供等を義務付けています。この決算書は株式総会で承認を受けてから決算公告として閲覧に供されます。

 

これによって会社の決算情報が公開され誰でも見ることができるようになります。

 

②決算公告の時期

会社法第440条では「定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公開しなければならない」と定めています。仮に決算期が3月であれば、決算公告の時期は5月~6月末前後に行われる株主総会の後になります

 

③決算公告の範囲

決算公告の範囲は、会社の規模により2通りに分かれます。会社法における大会社(資本金5億円以上、もしくは負債200億円以上の会社)については、決算書のうち「貸借対照表」「損益計算書」の2つが公告の対象となります。一方で、大会社以外の会社は、公開の対象は「貸借対照表」のみです

 

④決算公告の内容

決算公告を官報による方法で掲載する場合は、貸借対照表は「要旨を公表することで足りる」と規定があります。すなわち資産・負債・純資産に区分した後、記載科目についての規定はありません。また損益計算書は、「収益(費用)または利益(損失)について適当な部又は項目に区分」するようになっていますので、掲載科目の記載は任意です。金額は百万円単位または十億円単位で表示することになっていますが、財産や損益の状態が的確に判断することができない場合は、適切な単位をもって表示しなければなりません。

 

決算公告は法令により義務付けられている事項です。しかし中小企業など行っていない企業も多いです、会社の信用や評価を維持するためにも最低限行わなければなりません。

 

⑤合同会社

株式会社は毎事業年度毎に決算公告が義務付けられていますが、合同会社には決算公告の義務はありません。ただし決算公告以外の法定公告については、必要に応じて公告する義務はあります。債権者が大勢いて合併・分割・減資などを行う場合は公告の場面がありますので、公告の方法を「官報への掲示」などとしておくとよいでしょう。

 

 

6-3 電子公告

「電子公告による方法」とは、インターネット上のホームページに掲載する方法で公告することです。自社のホームページに、公告のページを追加する方法や、電子公告のサイトを運営している会社のサイトに掲載する方法があります。

 

①電子公告を行う場合の手順

 

a)定款
定款の中で、公告方法について電子公告する旨を記載します。
(記載例)
「第〇条 当社の公告は、電子公告により行う」

 

b)登記申請
公告の方法を電子公告とする場合、電子公告によると定めるだけでなく、登記事項に公告を掲載するホームページのアドレスを記載する必要があります。そのため、会社を設立し電子公告を選択する場合は、設立前に公告を掲載するホームページとアドレスを決定しなければなりません。

 

(記載例)
「当社の公告は電子公告により行う
http://www.********.co.jp/ 」

 

c)ホームページ
自社でホームページを保有している会社は広告のページを追加することで電子公告を行うことができます。決算公告データは通常PDFファイルやHTMLで作成しアップロードします。

 

また電子公告のサイトを運営している会社もあり、その会社が保有するサイトに掲載することもできます。その場合の利用料は300円/月~程度です。

 

d)電子公告調査機関
法定公告(決算公告は対象外)である電子公告を出す時には、指定調査機関の調査が必要です。電子公告を行う場合には、一定期間その決算公告データが会社のホームページなどに改変されることなく継続して公開されていることが、第三者によって検証されなければなりません。調査を行う電子公告調査機関による調査結果の通知が行われれば電子公告の手続きは完了です。

 

決算公告のデータは、株主総会の終結日後5年を経過する日までの間、継続して不特定多数の者が提供を受けられる状態で開示する必要があります。また毎年決算終了後に開示をする必要があります。

 

電子公告調査会社は法務省に登録された会社で、現在5社が登録されています。調査にかかる費用は10~15万円程度です。

 

  • 平成17年6月10日 電子公告調査株式会社
  • 平成17年9月28日 日本電算企画株式会社
  • 平成18年4月24日 グローリー株式会社
  • 平成20年3月3日 日本公告調査株式会社
  • 平成23年11月15日 株式会社ファイブドライブ

 

②注意点

a)URLを事前に取得
電子公告を使用する場合の注意点としては、定款にはそのURLを記載する必要はありませんが、登記の際には必要となります。そのため会社を設立する際には事前にURLを準備する必要があります。

 

b)掲載内容
決算公告については、官報に掲載する場合は決算内容の要旨のみを公告すればよいのですが、電子公告の場合は決算内容の全文を掲載しなければなりません。決算内容の全文までを公表することに抵抗もあり、そのため官報を選択されることもあります。

 

c)費用
電子公告は公告の費用自体はあまりかかりませんが、調査費用が10~15万円程度必要になります。費用面でみると、公告の方法は官報にするのが、最も費用をかけずにできる方法です。

 

また、公示方法を官報にして、決算公告のみを電子公告にするという方法もあります。
決算公告のみの場合は電子公告調査機関による調査は不要です。そのため公告の方法は官報で、決算公告のみを電子公告で行うのが費用面では最も安くできます。

 

(官報+電子公告を行う場合)
公告の方法
(記載例)
「当社の公告は官報に掲載する方法により行う。
貸借対照表にかかる調査を受けるために必要な事項
http://www.********.co.jp/bs/ 」

 

「当社の公告は電子公告の方法により行う。
http://www.********.co.jp/ 
当社の公告は、電子公告による公告をすることができない事故その他のやむを得ない事由が生じた場合には、官報に掲載する方法により行う。
貸借対照表の公告
http://www.********.co.jp/bs/ 

 

 

6-4 決算公告まとめ

株式会社は毎年の決算を決算公告として開示しなければなりません。

 

公告の方法は3つあります。
①官報に掲載する方法
②時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
③電子公告による方法

 

それぞれのメリット・デメリットについて、①は掲載する決算内容が要約で済むため、手間がかからない点はメリットですが、費用が5-6万円かかります。法定広告には良いかもしれませんが、決算公告で毎年かかる費用とするとやや費用負担が重くなります。

 

②については1回の広告で50万円以上かかってしまうため、中小企業にとっては費用面で割高感があります。

 

③については決算内容の全文を掲載しなければならない点がデメリットですが、自社のホームページであれば無料でできる点は大きなメリットです。法的公告を電子公告にすると電子公告調査機関への手数料が発生するので法定広告には費用負担が重いですが、決算公告のように調査が不要であれば費用負担の軽さが大きなメリットです。

 

また覚えておきたいポイントは、公告の方法は1つしか選べない訳ではないということです。
a)法定広告は官報で行い、決算公告をホームページで行う
b)ホームページで公告を行うが、官報でも公告できるようにする
など、状況に応じて選ぶ方法もあるのです。

 

法人の設立の準備段階で、公告の方法を決めるというのも難しく、イメージも付きにくいものですが、こうして官報とホームページと両方を使い分けながら、費用負担を抑えておくことが大切です。

 

この記事では決算短信の読み方と有価証券報告書の違いを見てきましたを説明しました。株式投資を行う上で決算短信を読み取るために最も大事なことは、たくさんの決算短信を読み、数年間の業績や株価の推移を追って、他の投資家がどのような観点から投資を行なっているかの情報を収集して見る目を培うことです。公表される時期や記載内容の違いや意義を意識して見ることで、より深く会社の分析ができるようになるでしょう。

 

また、従来は官報が中心であった決算公告ですが、ホームページを使った電子公告を上手に活用して、コストを抑えながら運用することができるようになりました。制度をよく理解し上手に活用してゆきましょう。

 

 


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