鬱や引きこもりといった若者の無業者を対象とした、栃木県に若者自立支援プログラムが話題となっています。
一般社団法人栃木県若年支援機構(通称しごとや)は、若年者のニートが社会問題となっていることを受け、支援策の一環として農業体験を導入したところ、6割近くを一般就労に結びつけまし
人との付き合いが苦手な人にとって農業はストレスなく始めることができ、体力強化や心のリフレッシュなどの効果が期待できるようです。
目次
- 1 県内ニート数は1万人超え
- 1-1 「学ぶ」から「働く」へ
- 1-2 サポートステーションの取り組み
- 1-3 若者支援の核となっている
- 2 農業体験で就労効果向上?
- 2-1 回数を重ねれば成熟度は増す
- 2-2 長期的に見ればデメリットはない
- 3 働きたくても働けない若者がいなくなるには
1 県内ニート数は1万人超え
一般社団法人栃木県若年支援機構では地域若者サポートステーション(通称サポステ)が中心となって若者の就労支援に取り組んでいます。
地域若者サポートステーションは、働くことに悩みを抱えている15歳~39歳までの若者に対し、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への就労体験などにより、就労に向けた支援を行っています。サポステは、厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがあるNPO法人、株式会社などが実施しています。(参照:厚生労働省)
資料によれば、栃木県内で2010年6月から2014年10月までに受け入れた対象者総数178名のうち、一般就労につながった者は100名とされています。(参照:香川県ニート就労支援配布資料)
一般的にニート※とは、15歳から34歳で、非労働力人口のうち家事も通学もしていない者と定義されます。総務省によれば栃木県内のニート(若年無業者)は10,800人、引きこもり世帯数は、約4600世帯いるとされます。
このうち高校中退者数は524人で、うち6割にあたる314人がニートになると試算されます。
栃木県ではいじめや引きこもりなどを理由として無業者となった若者の支援について、一層きめ細やかな支援が必要であるとして、社会人に必要なスキルやマナーを丁寧に身につけさせるためのサポートステーションを開設していました。
※ ニートは、OECDの定義では、雇用・教育・訓練のいずれも受けていない15歳から29歳の若者で、求職活動を行っている者(Active)と、非求職/非希望型の者(Inactive)に分けられ、家事のみに従事する専業主婦(専業主夫)もカウントされる。
1-1 「学ぶ」から「働く」へ
2007年に開設されて今年で10年目となるとちぎ若者サポートステーションでは、2013年4月~11月までの期間で、258名の登録者のうち143名の就職進路決定者を出しました。
・ 就労支援実績
就職等進路決定 | 55.4% | ||
---|---|---|---|
就職者 | 正社員 | 31.5% | 84.6% |
それ以外 | 53.1% | ||
職業訓練 | 9.1% | ||
進学 | 6.3% | ||
支援継続中 | 33.5% | ||
リファー | 5.8% | ||
その他 | 5.3% |
(参照:首相官邸配布資料)
1-2 サポートステーションの取り組み
サポートステーションでは、参加者に対してジョブトレーナーがつき、日々の業務の助言や相談相手となるだけでなく、発注者(地元企業や自治体)の仕事の質を担保するといった役割を果たします。
・ サポートステーションの業務内容
総合相談 | 本人の抱えている悩みに応じた総合相談 |
---|---|
キャリア相談 | 仕事に一歩踏み出せないでいる人のための就労相談 |
心の健康サポート | 精神的に不安を抱えている人向けのカウンセリング |
訪問相談 | 来所が難しい人に対しては訪問相談 |
(参照:首相官邸配布資料)
2013年からは「働く」ことに重点を置き、サポートステーションを基盤として高卒認定取得支援や発達障がい者用の専門塾の運営、無料の長期の就労訓練(しごとや)などの事業を展開します。
しかし、一般就労につながる者が多い一方で、就職が決まっても長く続かず戻ってくる人や、長期の訓練を経ても就職できず、支援を継続している者も少なからずいるとされました。
1-3 若者支援の核となっている
とちぎ若者サポートステーションは、若者支援に取り組む各行政機関、民間企業をつなぐ“核”となる役割を担っています。
(参照:首相官邸配布資料)
1つの機関だけでは対応できない問題も、たとえば教育なら教育委員会、非行・犯罪なら警察署、健康問題なら医療機関、保険福祉センター、就職情報ならハローワークなどのように各専門機関と連携し合うことで、よりきめ細やかな就労支援を行うことができます。
2 農業体験で就労効果向上?
株式会社ファーマーズ・フォレストでは2011年から就労支援のために若者を受け入れています。仕事内容は農園の草刈りや、プールの監視作業、皿洗いなど基本的なものになるとされます。
2-1 回数を重ねれば成熟度は増す
同社の松本謙代表取締役は働くことに問題を抱えた若者を受け入れることについて次のように話しました。
「最初は社会貢献の気持ちが強かったのですが、正直、ニートや引きこもりの若者を受け入れるには不安もありました。それでも、回数を重ねるごとに成熟度は増し、今ではこちらの期待以上の力を出してくれています」(参照:香川県「就労訓練事業(いわゆる中間的就労)事例集」)
夏の炎天下での草むしり作業は、高齢者にとって過酷なため、元気な若者に頼むことができて助かるようです。
(▲ファーマーズ・フォレスト社のホームページ)
2-2 長期的に見ればデメリットはない
また、同社代表は、長期的に見ると受け入れる企業にとってデメリットはないもの、それが一般の企業には分かりにくいため、それほど普及が進んでいないのではないかとと話します。
「これからの中間的就労がうまく機能するためには、企業側の理解が必要だと思います。若年無業者を受け入れることにデメリットがないということが、一般の企業にはわかりにくいのだと思います」
3 働きたくても働けない若者がいなくなるには
とちぎ若者サポートステーションでは、参加者が就労体験をする際に必ずジョブトレーナーを同行させて仕事の質を担保することで、若者を受け入れるのはハードルが高いと感じている企業が協力しやすいように取り組んでいるそうです。
また、こうした取り組みは社会貢献という面だけでなく、働きたくても働くことのできない若者の悩みと取り巻く環境を理解することにつながり、自己の業務効率化に役立っているといいます。
ニートや引きこもりを対岸の火事と捉えず、社会貢献を兼ねて就労支援に参加する一般企業が今後増えていくことが期待されます。