訪日中の外国人観光客が医師による診察や手術を受けた場合、保険未加入のために医療費が高額になるというケースが後を絶ちません。
朝日デジタル(8月20付け)によると8月、日本を旅行中のタイ人女性(28)が急病のため、緊急手術を受けたところ、治療費が1800万円におよびました。手術は成功し、女性は「一生かけても支払う」と述べるも返済の目処はたっていないとされます。
政府は、外国人旅行者が不慮のケガや事故、病気に見舞われた場合の対策として、外国人旅行者受け入れ可能な医療機関のリストを公開したり、外国人向けのガイドライン(利用の手引き)を作成したりしています。
増加の一途をたどる外国人旅行者。観光庁によれば今年8月時点での平成29年4-6月期の訪日外国人数は722万人で過去最高を記録しました。政府は年間4000万人を目標に掲げており、今後も保険未加入者が医療費を支払えないケースの増加が予想されます。
1 海外旅行における医療保険
国ごとで異なる医療保険制度。そのため、海外で急な病気やケガにより現地の医療機関で診療を受けた場合、医療費が高額になる場合が多々あります。日本では協会けんぽが海外旅行中に発生した医療費の一部払い戻しを認める「海外療養費」制度を設けています。
1-1 協会けんぽでは一部払い戻し可能
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、加入者は海外旅行中や海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けることができます。
(参照:協会けんぽ)
給付の範囲は、日本国内で認められている医療行為に限定されます。たとえば、保険適用外の海外医薬品の使用や、美容整形、インプラントなどは支給対象外となっています。
また、海外での手術をうけるための診療も支給対象とはなりません。日本で実施不可の診療を行った場合も同じとされます。
支給金額は日本の医療機関で同じ治療を行った場合の治療費を基準に、自己負負担分を差し引いた額が支給されることになります。ただし、日本と海外では治療方法や医療体制が異なるため、同じ医療行為でも支給金額※が大幅に少なくなることがあります。
1-2 観光庁、外国人向けに旅行保険をPR
観光庁は「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」のなかで、外国人旅行者が不慮のケガ・病気になった際に、スムーズに医療機関の診察を受けることができるよう、次の対策をまとめて公表しています
訪日外国人旅行者受入可能な医療機関リストの作成 | 観光庁・厚労省の要件に基づき、全国で選定された約320の医療機関をリストとして取りまとめ、観光庁ホームページに掲載 |
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不慮のケガ・病気になった際に役立つ医療機関の利用ガイドの作成 | 日本医師会・東京医師会監修による外国人旅行者に対する医療機関の利用ガイドを作成 |
訪日外国人旅行者向け海外旅行保険加入促進PR | 外国人旅行者の医療機関での未払いを防ぐため、新たに開発された訪日後加入可能な保険商品をPR |
自治体向け安心・安全対応の相談窓口の設置 | 観光庁および地方運輸局観光部等に自治体向けの「安心・安全対応相談窓口」を設置。自治体の観光部署から、他地域の事例や他省庁の制度などの照会があるため、窓口を統一した |
(急な病気やケガにあったときの観光庁作成によるガイド / 出展:日本:公式ガイド)
(旅行医療保険促進のPRをするチラシ / 出展:日本:公式ガイド)
※ 実際に海外で支払った額の方が低い場合、その額から、自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた金額
2 今年4-6月期の外国人旅行者数、過去最多を更新
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、今年4-6月期の外国人旅行者は722万人で過去最高を更新しました。
旅行者数は2014年から右肩あがりに増加。今年1-3月期の654万人が過去最高でしたが、今期はそれをさらに上回る結果となりました。
・ 外国人旅行者数の推移
2014年 | 1-3月期 | 287万人 |
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4-6月期 | 338万人 | |
7-9月期 | 348万人 | |
10-12月期 | 368万人 | |
2015年 | 1-3月期 | 413万人 |
4-6月期 | 501万人 | |
7-9月期 | 535万人 | |
10-12月期 | 525万人 | |
2016年 | 1-3月期 | 575万人 |
4-6月期 | 596万人 | |
7-9月期 | 626万人 | |
10-12月期 | 606万人 | |
2017年 | 1-3月期 | 654万人 |
4-6月期 | 722万人 |
(観光庁公表資料より作成)
2-1 1人あたりの消費額ではイギリス人が最高
訪日外国人1人あたりの平均旅行支出額は前年同期比で6.7%減少の14万9248円となりました。
国・地域別にみると、最も多かったのはイギリス25万1000円で、ついでイタリア23万3000円、中国22万5000円となりました。
・ 旅行支出額の推移
2014年 | 1-3月期 | 15.0万円 |
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4-6月期 | 14.4万円 | |
7-9月期 | 15.8万円 | |
10-12月期 | 15.2万円 | |
2015年 | 1-3月期 | 17.1万円 |
4-6月期 | 17.8万円 | |
7-9月期 | 18.7万円 | |
10-12月期 | 16.8万円 | |
2016年 | 1-3月期 | 16.2万円 |
4-6月期 | 16.0万円 | |
7-9月期 | 15.5万円 | |
10-12月期 | 14.7万円 | |
2017年 | 1-3月期 | 14.8万円 |
4-6月期 | 14.9万円 |
(観光庁公表資料より作成)
2-2 国別の外国人訪問者数ではフランスが最多
このほか、世界各国・地域への外国人訪問者数(2015年時点)では、フランスが最も多い8445万2000人で、ついでアメリカ7751万人、スペイン6821万5000人、中国5688万6000人、イタリア5073万2000人、トルコ3947万8000人、ドイツ3497万2000人、イギリス3443万6000人、メキシコ3109万3000人、ロシア3134万6000人となります。
・国別外国人訪問者数
順位 | 国・地域 | 訪問者数 |
---|---|---|
1 | フランス | 8445万2000人 |
2 | アメリカ | 7751万0000人 |
3 | スペイン | 6821万5000人 |
4 | 中国 | 5688万6000人 |
5 | イタリア | 5073万2000人 |
6 | トルコ | 3947万8000人 |
7 | ドイツ | 3497万2000人 |
8 | イギリス | 3443万6000人 |
9 | メキシコ | 3109万3000人 |
10 | ロシア | 3134万6000人 |
日本は、ギリシャ2359万9000人についで、1973万7000人で16位でした。
政府は2020年までに年間4000万人、2030年には6000万人とする目標を掲げています。
訪日外国人旅行者数を増やし、インバウンド産業を活性化させることも重要ですが、旅行者が安心・安全に旅行を楽しめることができる環境づくりが求められています。