中国政府は4月、外国人労働者を年齢、学歴、語学力などでカテゴリー分けする制度を開始しました。外国人労働者はA類(ハイレベル人材)、B類(専門人材)、C類(一般人材)にランク付けされ、最も高いAランクは申請手続きの簡略化などの優遇措置を受けられるとのことです。
中国政府は近年増加の一途をたどる外国人労働者をランクごとに整理することで、中国の経済発展・国力強化に貢献できる優秀な人材を選別して優遇し、特に重要でないローエンド労働者に関しては規制を強めていく方針です。
昨年11月から上海や北京で試験実施されていましたが、突如始まったランク付け制度に日系企業も困惑。今までどおり仕事ができなくなるのではないかなど不安が広がっています。果たして中国政府の真の狙いとは何なのでしょうか。
目次
- 1 外国人来華工作許可制度の概要
- 1-1 外国人労働者ランク
- 1-2 ポイント制度による分類基準
- 2 中国政府の狙いとは
- 3 今後、日系企業はどう対処するべきか
- 3-1 経験豊富な50歳以上を遠ざけるべきではない
- 3-2 中国離れが加速?
1 外国人来華工作許可制度の概要
2017年4月1日から中国全土で実施となった外国人来華工作許可制度では、高レベル人材の確保、一般レベル人材のコントロール、その他人材の規制を行うため、審査手続きの簡素化や外国人労働者の分類がなされました。中国で就労する外国人に対して1人1番号の外国人工作許可通知が送られます。外国人が中国で就労する合法的な証書となります。
1-1 外国人労働者ランク
外国人労働者はこれまでの経歴によってA類(ハイレベル人材)、B類(専門人材)、C類(一般人材)の3つに分類されます。
A類(高級人材) | 国際人材導入計画で選出される人材や、国際的に認められた専門認定標準に合致する人材、市場ニーズを満たす人材、イノベーション人材、優秀青年人材など |
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B類(専門人材) | 外国人来華就業指導目録の要求に合致する人材。中国の経済社会発展に不可欠な外国人専門人材、専門管理人員、および専門技術人員など |
C類(一般人材) | 臨時性、季節性の国内労働力市場のニーズを満たす人材で、非技術的業務、あるいはサービス業に従事する外国人人材など |
(参照:BTMU(China)実務・制度ニュースレター)
・ A類(高級人材)の具体例
情報サービス会社のEYジャパンによれば、A類は、中国経済社会の発展に早急に必要となる科学者・科学技術リーダー、国際企業家、専門特殊職などの「最先端、ハイレベル」である外国人であるとされ、移住を奨励される人材となります。
- 中共中央組織部、人力資源和社会保障部、国家外国専家局の批准、あるいは副省級以上の人材主管部門が確定し人材の引き入れ計画の入選者として同意をされている
- ノーベル賞受賞など国際評価の高い褒賞受賞者基準
- 市場動向における推奨類の職務要求に該当する外国人
- イノベーション創業人材
- 優秀青年人材
- ポイント制度において85点以上の取得者
・ B類(専門人材)の具体例
中国に派遣される多くの一般企業に勤める社員は、B類に分類されることになります。居住をコントロール(制御)される分類です。
専門人材は、学士および学位以上の学歴があり、2年以上の就業経験のある外国専門人材で次に該当する必要があります。
1 | 教育、科学研究、出版、文化、芸術、衛生、体育等特殊領域、科学研究、教学、管理等 の就業管理人員あるいは専業技術人員 |
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2 | 中国、外国の政府間協議、国際組織間の協議、中外経貿と工程技術契約をしている人員 |
3 | 国際組織の駐華代表機構に雇用される人員と外国専業家組織の駐華機構の代表者 |
4 | 多国籍企業により派遣される中級レベル以上の従業員、外国企業で中国に常駐する中国 代表機構の首席代表と代表 |
5 | 各種企業、事業単位、社会組織等に雇用された外国人員あるいは専業技術人員 |
このほか、以下に該当する必要があります。
- 中国国内の大学で修士及びそれ以上の学位を取得した優秀卒業生
- 中国もしくは海外における有名大学100位以内において修士及びそれ以上の学位で卒業した卒業生
- 外国語教師
- ポイント制において60ポイント以上であるもの
・ C類(一般人材)の具体例
国内の労働力市場のニーズを満たすため、国家政策規定における臨時性、季節性、非技術あるいはサービス性業務の外国人で以下の条件の一つに該当するものになります。居住を厳格に制限される分類です。
- 国務院に関連する主管部門により雇用された外国人。あるいは外国政府の協議により招聘された外国人
- 政府間の協議により中国に行く実習生、研修生の外国人青年
- 外国ハイレベル人材の家事サービスに従事するため来中した外国人
- 遠洋漁業等などに従事する外国人
- 季節性の労務に従事する外国人
- その他職位を割当管理された外国人
(参照:EY海外ニュースレター)
1-2 ポイント制度による分類基準
ポイント制度では外国人労働者の年収、学歴、職歴、中国語レベルなどよって点数化。85点以上がA類、60点以上がB類、59点以下がC類となります。
・各項目と点数
項目 | 基準 | 点数 |
---|---|---|
中国内での年収 | 45万元以上 | 20 |
35~45万元未満 | 17 | |
25~35万元未満 | 14 | |
15~25万元未満 | 11 | |
7~15万元未満 | 8 | |
5~7万元未満 | 5 | |
5万元未満 | 0 | |
学歴もしくは 国際職業資質認定 | 博士あるいは博士相当 | 20 |
修士あるいは修士相当 | 15 | |
学士あるいは学士相当 | 10 | |
関連業務経験 | 2年間超※ | 15 |
2年間 | 5 | |
2年間未満 | 0 | |
中国での年間就労時間 | 9ヶ月以上 | 15 |
6~9ヶ月未満 | 10 | |
3~6ヶ月未満 | 5 | |
3ヶ月未満 | 0 | |
中国語レベル | 中国教育における学士以上 | 10 |
HSK※5級以上 | 10 | |
HSK4級 | 8 | |
HSK3級 | 6 | |
HSK2級 | 4 | |
HSK1級 | 2 | |
勤務エリア | 西部 | 10 |
東北地区など旧工業地域 | 10 | |
中部地区の国家級貧困地域などの特別区 | 10 | |
年齢 | 18~25歳 | 10 |
26~45歳 | 15 | |
46~55歳 | 10 | |
56~60歳 | 5 | |
60歳超 | 0 | |
有名大学卒、世界トップ 500企業での勤務経験 | 世界有名大学トップ100を卒業 | 5 |
世界500強企業での就業経験 | 5 | |
省級外国人就業管理部門の加点 | 地方経済と社会の発展ニーズを満たす特殊人材 | 0-10 |
※ 2年間を超える場合、1年間ごとに1点追加される。
※ HSKとは中国政府が認定する中国語検定のこと。漢語水平考試。
2 中国政府の狙いとは
(出典:Daily Times)
新制度の実施により、優秀な外国人労働者を中国国外に流出させないようにするほか、単純労働者、季節労働者を厳しく規制することで、中国国民の雇用を守る狙いがあるとされています。
中国では、近年不法滞在者が急増しており、在留外国人の多くを占める韓国人、ロシア人、アメリカ人、日本人のほか、アフリカからの違法移民も増えています。
そういった不法滞在の外国人が中国人の仕事を奪っているとの批判も多く、トランプ米大統領が「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げたように、中国政府も中国第一主義政策に切り替えていくのではないかと各メディアは指摘します。
大和総研グループの経済調査部主席研究員の齋藤尚登氏は、実施された外国人ランク付け制度は上策とは言えないと指摘します。
「全ての外国人就労者をランク分けすることの是非を含め、今回の政策は上策とはいえない。まず、世界中で高度人材の獲得競争が激化しているなか、A類には各種届出の優先対応などが実施されるというが、魅力ある優遇策ではない」
また、本制度はこれまで中国経済に貢献してきたシニア層がないがしろにされかねないと主張します。
「若くてバイタリティー溢れる現地採用の優秀な外国人材、あるいは、各国で技術者や熟練工として働き、退職後に中国で現地雇用された優秀なシニア層が、C類に分類され、就労ビザの取得が難しくなったりするリスクがある。特に後者は、製造業における安全管理や技術向上に果たしてきた役割は小さくない。一部製造業や一般的なサービス業では、混乱が深まりかねないだけに、今後の動向には注意が必要であろう」(参照:大和証券「中国が外国人就労者をランク付けへ」)
3 今後、日系企業はどう対処するべきか
日本貿易振興機構ジェトロによれば、中国広東省では製造業を中心に中小企業が多く、工場の生産管理のために経験豊富な50代後半の従業員や定年退職者を駐在させることも多い地域です。工場で勤務してきた従業員は大卒者ばかりではありません。
日系企業と広東省内各市の意見交換会でも、日系企業からの要望として、60歳を超える人材の就労許可取得の改善がたびたび挙げられています。
3-1 経験豊富な50歳以上を遠ざけるべきではない
新制度では、60歳以上は原則としてB類(専門人材)への申請が制限されており、さらに、高卒者、56歳以上の中高年、または中国語が得意でない人は加点率が低いため、就労許可が下りない可能性が高く、対策が急がれる企業も出ています。
3-2 中国離れが加速?
中国経済は、その人件費の安さから海外企業の世界の工場として発展してきました。しかし、近年は反日暴動などのチャイナリスクを懸念し、中国から東南アジアへ工場を移転する日系企業が続出。中国経済の停滞や、対中国の投資額も年々減少したことで、企業による中国離れの加速かと騒がれるようになっていました。
この度のランク付けをはじめとする新制度の実施により中国から離れる海外企業、日系企業は増えるのか。今後の動向に注目です。