韓国の聯合ニュースは、5月14日、経済協力開発機構(OECD)が発表した世界の15歳-24歳の若年失業率において、日米欧が揃って回復するなか、韓国は悪化していると伝えました。
韓国では10日に「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が新大統領に就任したばかりです。文在寅大統領は、選挙時に81万人の新規雇用を公約に掲げており、経済格差が広がる韓国社会の労働環境改善に取り組む姿勢を強調していました。
サムスン電子やLGエレクトロニクスなど世界的企業を筆頭に経済発展を遂げた韓国に、いま何が起きているのでしょうか。
目次
- 1 韓国若者の失業率10%
- 1-1 韓国人の反応は?
- 1-2 81万件の雇用創出を目指す
- 2 経済発展の経緯
- 2-1 漢江の奇跡とは
- 2-2 サムスン、現代、LGが世界的企業に
- 3 禁断の財閥改革を宣言した文在寅
1 韓国若者の失業率10%
OECD※が公表した加盟国平均の失業率は前期比で0.4ポイント減少し12.3%となりました。
(▲:左から9番目が韓国の失業率)
国別では、日本4.4%(0.4ポイント減)、アメリカ9.7%(0.5ポイント減)、欧州17.4%(0.7ポイント減)と主要先進国では失業率が一斉に回復しました。
ところが、韓国は前期比で0.1ポイント上昇の10.0%と悪化。OECD加盟国の中で前年同期比で青年層失業率が上昇した国は、韓国以外にオーストリア(0.1ポイント増)、ラトビア(0.5ポイント増)、チリ(1.1ポイント増)の3カ国のみとなります。
・ OECD加盟国の青年層失業率
国名 | 2017年1月〜3月 | 2016年12月〜10月 |
---|---|---|
日本 | 4.37% | 4.80% |
アメリカ | 9.70% | 10.17% |
イギリス | 12.38% | 13.07% |
フランス | – | 23.79% |
ドイツ | 6.68% | 6.88% |
イタリア | − | 39.09% |
カナダ | 12.83% | 12.80% |
韓国 | 10.02 | 9.88 |
(参照:OECD「Youth unemployment rate」)
※ OECDは、1948年、米国による戦後の欧州復興支援策であるマーシャル・プランの受入れ体制を整備するため、欧州経済協力機構(OEEC)がパリに設立され、欧州経済の復興に伴い、欧州と北米が対等のパートナーとして自由主義経済の発展のために協力を行う機構としてOEECは発展的に改組、その後1961年に経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)が設立された。
1-1 韓国人の反応は?
レコードチャイナ(5月17日付)によれば韓国・LG経済研究員は2019年までは20代の若年層の人口が増え、青年失業問題が深刻化すると予想される」と述べているとされます。
失業率悪化のニュースを受けて韓国内では悲観的に受け止める声が多く、
「先進国のなかでわれわれだけが悪化している」
「北朝鮮のミサイルに対処している場合ではない」
「ニートが増えているのも問題だ」
「年寄りがいつまでたっても若者に席を譲らないからだ」
「まさにヘル朝鮮※だ」
などの意見が見受けられました。
※ヘル朝鮮とは、韓国社会の問題を卑下した言い方。韓国の若者がよく使うネットでの表現となっている。
1-2 81万件の雇用創出を目指す
現在116万人の失業者がいるとされる韓国社会。
5月10日に行われた韓国大統領選挙では、共に民主党が119議席を獲得し、第1党に躍り出ました。朴槿恵(パククネ)前大統領の国政介入問題で揺れた自由韓国党は敗北し、9年続いた政権を明け渡しました。
文在寅(ムンジェイン)大統領は過去に民主化運動に係わり逮捕されたことをきっかけに人権派弁護士を務めた異色の経歴を持ちます。
選挙時に消防・警察・保健・福祉分野の31万件と労働時間の短縮による50万件を合わせた計81万件の雇用を作ると公約に掲げました。しかし韓国の中央日報は、これでは若者失業にブレーキはかからないと指摘します。
(▲演説する文在寅大統領 / 出展:NK NEWS ORG)
「税金をつぎ込む雇用は持続可能でなく、若者も望むことではない。ドイツが欧州経済の牽引役になったのは政派を越えて推進した労働改革に支えられたためであり、日米の若者失業率の下落も雇用創出のための思い切った規制緩和が原動力になったためだ」(参照:中央日報 2月14日付)
今の韓国に必要なのは、党派を超えた労働法の成立であり、失業の苦痛に陥った若者を救うべきだと主張しました。
2 経済発展の経緯
1950年代前半の朝鮮戦争で貧困状態に陥っていた韓国は、クーデターにより誕生した朴正煕(パク・チョンヒ)大統領※の政策で1960年代より急速な経済発展を遂げました。
2-1 漢江の奇跡
韓国は1964年からベトナム戦争への韓国軍の派兵によりベトナム特需となり、経済成長率は年10%前後を記録しました。
また、1965年の日韓基本条約により当時の国家予算をはるかに超える資金を手に入れた韓国は、高速道路を始めとしたインフラ整備や国内産業の強化を図りました。
朴正煕は資材を輸入して製品を輸出する産業構造の転換を行い、同時に多くの財閥が誕生しました。産業技術の発展により国際競争力が上がり、国民の生活水準も向上した結果、1990年代にOECD※に正式加盟することとなりました。
この1970年代の高度経済発展は韓国国内で「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれ、朴槿恵前大統領も「第二の漢江の奇跡をなし遂げる」ことを公約に掲げ、経済復興に取り組んでいました。
(▲韓国のGDP成長推移)
※ 朴正煕は朴槿恵前大統領の実父にあたる。
※ 韓国は1996年に正式加盟。現在加盟国は35カ国(原加盟国:オーストリア、ベルギー、デンマーク、仏、独、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、伊、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英、米、カナダ、に加え、日本(1964年)、フィンランド(1969年)、豪(1971年)、ニュージーランド(1973年)、メキシコ(1994年)、チェコ(1995年)、ハンガリー、ポーランド(以上1996年)、スロバキア(2000年)、チリ、スロベニア、イスラエル、エストニア(以上2010年)、ラトビア(2016年))となる。
2-2 サムスン、現代、LGが世界的企業に
米アップルと肩を並べてスマートフォン市場をリードするサムスン電子、テレビ市場で世界2位のシェアのLGグループ、世界販売台数5位の誇る韓国最大の自動車メーカーの現代(ヒュンダイ)は、いずれも韓国を代表する有名企業です。
韓国公正取引委員会は、毎年、資産総額10兆ウォン以上の大企業(グループ企業間の相互出資などが規制の対象となる集団※)ランキングを発表しています。
韓国旅行情報サイトkonestが集計したデータによれば、財閥企業の総資産ランキングは次のようになります。
・韓国財閥企業総資産ランキング
(参照:konest)
※ 正式には「相互出資の制限および債務保証制限企業集団」と言われ、昨年10月、韓国公取委は、現代グループを相互出資の制限および債務保証制限企業集団指定から除外すると発表。公正取引法上、資産が7兆ウォン(約6500億円)を超えるグループは、相互出資制限、および債務保証制限企業集団に指定しているが、現代グループは現代商船や現代証券が系列会社から外れ、資産規模がこの基準を満たさなくなったためと言われている。(参照:ハンギョレ)
3 禁断の財閥改革を宣言した文在寅
文在寅大統領は、10日に行われた就任演説で、深刻化する雇用状況と経済成長低迷を打破するため、財閥と政治の癒着を正す改革に乗り出すことを表明しました。
有力韓国紙ハンギョレによれば、財閥改革はサムスン・現代自動車、LGなど4大財閥ほか、10大財閥グループを中心に進められるものとみられており、禁断とも言える領域に踏み込んだ、文在寅大統領の手腕が問われています。