配達業界、介護業界で人手不足が深刻化している一方、建設業界も同様の問題を抱えています。
2012年ごろから団塊世代の定年退職が始まったこともあり、平均年齢の高い建設業は人材を十分に確保するのが次第に困難となりました。東日本大震災による復興需要や2020年開催予定の東京オリンピックにより、建設需要は高い水準を維持しているものの、20代、30代の労働者は過去20年間で半減しました。 建設人材の不足が顕著となりました。
この問題に建設業界はどう立ち向かえばよいのでしょうか。
目次
- 1 需要はあるが人手不足な建設業界
- 1-1 建設業における高齢化
- 1-2 人手不足の要因とは
- 2 国交省の人材確保に向けた取り組み
- 2-1 2省連携による人材の確保・育成・移動
- 2-2 建設人材確保プロジェクトの実施
- 3 日建連会長、建設業の人手不足を否定
- 3-1 人手不足は虚像?
- 3-2 今後5年で週休2日制に
1 需要はあるが人手不足な建設業界
建設需要をあらわす建設投資は1992年をピークに右肩下がりの傾向が続いていました。しかし、2011年の東日本大震災を発端に上昇に転化、13年には名目建設投資額※は約50兆円まで回復しました。
・ 名目建設投資額の推移
(参照:国土交通省)
今後は震災復興事業の継続や20年東京オリンピック関連の民間投資の拡大が見込まれており、当面は建設需要は高い水準を維持できるものと見られています。
1-1 建設業における高齢化
ところが、肝心の建設人材の不足感が年々強まっています。
建設経済研究所による調査によれば、2020年の建設就業者数は、05年と比較して約20%減少し、539万人から295万人ほどになると予測されます。さらに減少率は5年間で拡大しており、今後もこの傾向が続けば現在の人口では対応できなくなる可能性も指摘されています。
・建設就業者数の推移
年度 | 2005年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 |
---|---|---|---|---|
建設就業者総数 | 539万人 | 448万人 | 364万人 | 295万人 |
5年間の減少率 | − | ▲17.0% | ▲18.7% | ▲19.1% |
(参照:国土交通省「建設業就業者数の将来推計」)
また、17年3月の建設労働需給調査※によると、建設業全体で0.5%の不足となり、特に鉄筋工(土木)で2.0%と不足率が大きいことがわかりました。
地域別にみると東北、北陸、近畿では過剰となり、沖縄で均衡、それ以外の地域では大工やとび職などの技能労働者が不足傾向でした。
今後の労働者の確保に関する見通しでは、「困難」とする割合が15.5%で、前年同月比で3.7ポイントの上昇となります。一方、「容易」としたのは13.6%で、対前年同月比で4.1ポイントの減少となりました。
・ 今後の労働力確保の見通し
今月 | 前年同月 | |
---|---|---|
困難 | 15.5% | 11.8% |
普通 | 63.1% | 62.8% |
容易 | 13.6% | 17.7% |
不明 | 7.9% | 7.7% |
(参照:国土交通省 平成29年3月調査 建設労働需給調査結果)
※建設労働需給調査とは建設技能労働者の需給状況を把握し、公共事業を円滑に執行することを目的とした調査。国土交通省が毎月1回調査し、公表している。建設労働需給調査の対象となっているのは、建設業法上の許可を受けた資本金300万円以上の法人企業で、調査対象職種の労働者を直用する約3000社となる。(参照:weblio辞書)
1-2 人手不足の要因とは
このように人手不足が拡大する要因として、若年就業者の減少と離職率の上昇が指摘されています。
そもそも建設業界の就業者は他業種と比べて55歳以上の高齢者割合が55%と高く、29歳以下の若年層の割合が11%と低いのが特徴です。
(参照:国土交通省)
全体の就業者数は1995年をピークに全年齢層で横ばいもしくは減少しており、現在は1970年前後に就職した45歳〜54歳の労働者の割合がもっとも高くなりました。現在、60歳以上の建設技能労働者は52万人存在し、全体の約18%に上ります。今後も引退による労働者数の減少は続くため、10年後には、大半が引退すると予測されます。
一方、20〜24歳の建設業界への若年入職者数は、1995年の64万9000人から2010年の15万5000人と、6割減少しました。15歳〜19歳も15年前の15万人から3万6000人へと大きく減少しました。
このほか建設業界独特の長時間労働や、危険、汚いといったネガティブなイメージが先行し、若者が建設業界に就職したがらないといった風潮もあり、イメージ払しょくに向けた人材確保に向けた政府の取り組みが期待されます。
※ 建設投資額は、国内の全建設活動の実績を出来高ベースで把握したものであり、建築着工統計、建設工事施工統計、建設総合統計や建設事業費の実績値などを基に計算される。
2 国交省の人材確保に向けた取り組み
建設業の人材不足問題を解決するため、国土交通省と厚生労働省は連携して建設業魅力発信キャンペーンなどの広報活動や若年入職者の実技指導などの人材育成に取り組んでいます。
2-1 2省連携による人材の確保・育成・移動
国交省と厚生省は、以下のような「人材確保」、「人材育成」、「人材移動の円滑化」の対策を連携して実施しています。
人材確保 | 「建設業魅力発信キャンペーン」「戦略的コミュニケーション」等戦略的広報の実施 |
---|---|
地域における元請・下請、行政、教育機関等の関係者間の連携による地域毎の人材確保策の推進 | |
公共職業安定所(ハローワーク)での「建設人材確保プロジェクト」の実施 | |
人材確保に資する助成制度の活用促進(業界への周知、活用ガイダンスの実施など) | |
社会保険未加入対策のさらなる推進(法定福利費確保の推進、未加入業者に対する指導など) | |
人材育成 | 地域における元請・下請、行政、教育機関等の関係者間の連携による地域毎の人材育成策の推進 |
人材育成に資する助成制度の活用促進(業界への周知、活用ガイダンスの実施等) | |
ものづくりマイスター制度を活用した、若年入職者の実技指導 | |
職業訓練施設の共同化、広域化等による機能強化に向けた検討 | |
人材移動の円滑化 | 設業務労働者就業機会確保事業の活用促進 |
(参照:国土交通省 報道発表資料 平成25年6月21日)
2-2 建設人材確保プロジェクトの実施
人材確保施策では、両省と業界団体が協力して広報活動を強化する目的で建設産業戦略的広報推進協議会※を立ち上げ、建設業の魅力を発信するキャンペーンなどを実施しています。関係団体や企業から情報提供のもと、現場で活躍する大工やとび職人を紹介する建設産業の総合HPを開設したり、ボランティアなど地域貢献活動を行うことで、身近な地域での情報発信を強化しました。
また、特に人材が不足している地域の公共職業安定所(ハローワーク)で「建設人材確保プロジェクト」を実施。事業主に対する求職者ニーズを踏まえた求人条件等の設定に関する相談・援助や、建設資格保有者に対する求人の業界動向に関する情報提供や面接会の開催などの取り組みを行っています。
このほか、新卒者、既卒者に対する就職支援や各種助成制度などさまざまな施策が行なわれています。
※ 建設産業戦略的広報推進協議会は「担い手確保・育成検討会」において取りまとめた「建設産業の魅力を発信するためのアクションプラン」を踏まえ、建設産業一体となった情報発信を継続的に進めるためを設置された機関のことである。2016年8月以降は、「企画・広報分科会」として開催されている。
3 日建連会長、建設業の人手不足を否定
各メディアが建設業界の人材難を指摘しているのとは裏腹に、昨年10月、日本建設業連合会は「技能労働者不足に関する考え方」というレポートを発表し、「(面処遇改善を行えば)供給力の不安はない」と主張し、人手不足による施工能力の低下を否定しました。
(参照:日本建設業連合会「技能労働者不足に関する考え方」)
3-1 人手不足は虚像
2015年と1996年との供給力の比較では、建設投資は38%、建築着工床面積は49%、新設住宅着工数は43%減少となりましたが、建設業許可業者数は17%、技能労働者は25%しか減っていないと説明。そのため、労働生産性を横ばいとしても、増加する建設需要への対応力は十分にあるとし、日本建設業連合会の山内隆司副会長は「人手不足は虚像だ」と強調しました。(参照:一般社団法人 日本建設連合会)
今後10年以内に訪れる100万人規模の大量離職時代については、高齢化の進行が他の業種と比べて著しく進んでいることを認め、2025年までの世代交代目標として、34歳以下の新規入職者90万人(うち女性20万人以上)を掲げました。さらに生産性向上による省人化35万人も目標としました。
※ 省人化とは作業改善や設備改善により、人を一人単位で省くこと。最終的な目的を果たすために必要のない仕事をやめること。仕事の目標を見直し、それに必要な仕事を組み立ててゆくことが必要である。もともとは一般の「省力化」では中途半端だという意味をこめたトヨタ用語で、「省力化」で0.9人分の仕事を減らしても0.1の仕事が残ればその人は減らせないが、確実に人が減る「省人化」をしなければ合理化には繋がらないという考え方。(参照:Kaize.net)
3-2 今後5年で週休2日制に
一方、日建連は、今年3月、働き方改革の取り組みとして今後5年間で週休2日制の定着を目指すと発表しました。労働時間が長時間化していることを背景に、あらゆる業種で週休2日が定着している中で建設業だけが遅れていると指摘。日経連は、「こうした労働環境を放置すれば10年を待たずに建設業の生産体制が破たんする」と懸念しており、政府が進める長時間労働是正を歓迎していました。
しかし、現在の復興事業や2020年には東京オリンピックを控えているため、急激に労働時間の短縮を進めることは非常に困難であるとしたうえで、時間外労働の上限規制の導入は、東京オリンピック以降を目標に、段階的に実施するとしました。また、民間工事の発注者には、週休二日を踏まえた適正な工期で発注するよう呼びかける方針であることを明らかにしました。
高齢化や人口減少によりさまざまな業種で人手不足が深刻化する日本。将来的に移民を積極的に受け入れて外国人労働者を大量に雇用することになるのか、それとも労働生産性を向上させるなどして自力で対処するのか、日本の底力が問われ始めています。