金融とテクノロジーの融合に次々と新たな金融サービスを展開しているフィンテック。注目度は日増しに高まり、国内でもみずほファイナンシャルグループが米投資会社とフィンテック分野での新会社の設立に向けて協議を始めました。
フィンテックという言葉は、IT技術を生かして革新的なサービスを生み出そうとアメリカで2008年頃に使われ始め、日本では2014年頃から頻繁に見かけるようになったという経緯があります。
しかし、金融業界以外ではまだ馴染みが薄く、一般家庭にまで浸透しているとは言えません。グーグル、アップルなど多くの有名企業が競うように投資するこの期待の新分野に注目しない理由はありません。
目次
- 1 金融(finance)×情報技術(technology)=fintech
- 1-1 代表例はモバイル決済サービス
- 1-2 仮想通貨もフィンテックの1つ
- 2 すでに金融サービスにイノベーションを起こしている
- 2-1 2021年度に808億円
- 2-2 高度な金融サービスを実現する銀行APIの公開
- 3 みずほグループ、フィンテックの新会社設立へ
1 金融(finance)×情報技術(technology)=fintech
アメリカで誕生したとされるこの造語は、身近な日常生活において既に導入されています。
スマートフォンとクレジットカードを組み合わせたモバイル決済サービスはフィンテックの代表例ともいえます。
1-1 代表例はモバイル決済サービス
スマホに専用のカードリーダーを取り付けるだけでクレジットカードによる決済を受け付けることができ、従来店舗で利用されてきた決済システムよりも手数料が安いため、モバイル決済サービスの導入が進んでいます。
たとえばグーグルによる決済アプリ「グーグルペイ」(Google Pay)ではスマートフォンを決済端末にかざすだけでクレジットカードやデビットカードでの決済をすることができます。
このほかアップルペイ(Apple Pay)、ラインペイ(LINE Pay)などもモバイル決済アプリとして有名です。
( ▲ アップルによるモバイル決済「アップルペイ」 / 出展:NextPowerUp)
またクラウド会計ソフトもフィンテックの代表例といえます。クラウド会計ではレジなどから取得した会計情報をもとに自動で経理・会計事務を処理することができます。会計事務の手間を省いてくれるため、中小企業の経営者やはじめて確定申告する個人事業主向けの会計ソフトなどが豊富に用意されています。
1-2 仮想通貨もフィンテックの1つ
このほか最近話題の仮想通貨もフィンテックにおける注目のサービスとなります。仮想通貨は現在600種類以上あるといわれており、インターネットを通じてモノやサービスの対価に使用することができる通貨です。
仮想通貨の1つであるビットコインは、基礎技術であるブロックチェーンが市場の関心を集めています。昨年5月には改正資金法改正で仮想通貨業者に対して登録制度を設けるなど法整備が着々と進められています。
ブロックチェーンとは、日本人技術者によって考案されたとされるビットコインの根幹技術であり、分散型台帳技術と訳すことができます。低コストでのシステムの運用が可能で、さらにアイデアの革新さに加えて、幅広い用途への応用が可能なことから、ブロックチェーンのもたらすビジネスインパクトに多くの企業が注目しています。
・ブロックチェーンを活用している企業
日本企業 | NTTサービスエボリューション研究所 | ブロックチェーンを活用したコンテンツ利用許諾管理に関する研究結果を公表 |
---|---|---|
ソフトバンク | ブロックチェーン技術を活用してインターネット上で信頼性の高い取引を実現するプラットフォームの研究開発を実施 | |
三菱東京UFJ銀行 | 「MUFGコイン」と名付けた独自の仮想通貨を開発 | |
みずほファイナンシャルグループ | カレンシーポート、日本マイクロソフト等と協働し、シンジケートローン業務を対象とした実証実験を実施 | |
海外企業 | ガイアックス | CtoCのマッチングや取引を行うシェアリングサービスにおいて、ブロックチェーンを活用した本人確認サービスの実証実験を実施 |
デロイトトーマツ | メガバンク3行とともに、銀行間振込業務に焦点をあてたブロックチェーンの実証実験を実施 | |
ブロッカイ | ブロックチェーンに登録された著作物について、著作権の証明書を発行するサービスを提供 | |
ファクトム | 電子文書をブロックチェーンで管理することで、公証を実現するサービスを提供 |
(参照:金融庁 「フィンテックに関する現状と金融庁における取り組み」)
このほか、マネーフォワードを代表する個人財務管理や、オンライン融資、個人向けおよび中小企業向けの投資支援サービスの分野でもアドバイザーの役割を果たしています。
2 すでに金融サービスにイノベーションを起こしている
近年では、フィンテックは巨額の投資を呼び込み、金融サービスにとどまらず国内外で実証実験などさまざまな動きが活発化。矢野経済研究所によれば2021年度には国内の市場規模は808億円に達すると見られています。
2-1 2021年度に808億円
2015年度は、法律的・技術的・物理的環境の整備が進み、国内市場規模は48億8500万円でした。特にソーシャルレンディング(融資)とクラウド会計ソフトが市場を牽引したと矢野経済研究所は分析します。
また、今後の傾向について、
「ビットコイン等の仮想通貨の急速な拡大が期待できる点に加え、ブロックチェーンを活用した実証実験や商用事例の増加、ベンチャー企業同士の連携が進む。また支援体制も金融機関や大手システムインテグレーター※によるベンチャー企業との協業が進んでいるほか、銀行法改正や改正資金決済法(仮想通貨法)の成立などの法改正に加えて、銀行APIの公開など、更なる環境整備が進むと考える。こうしたことを背景に、2021年度には808億円に達すると予測する」
と述べました。
・フィンテックの国内市場規模推移
(単位:百万円)
(参照:矢野経済研究所 「国内FinTech(フィンテック)市場に関する調査を実施」)
2-2 高度な金融サービスを実現する銀行APIの公開
APIとはアプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、銀行APIは、銀行が外部の企業にコードを公開することを指します。公開されたコードを利用すればシステム開発の手間を省くことができ、企業は消費者に特化した金融サービスを提供することができます。
昨年、住信SBIネット銀行が国内銀行としてはじめてAPI接続による同社の残高照会や入出金明細照会などの銀行機能を提供するサービスを開始しました。住信SBI※によれば、マネーフォワード社が提供する個人向けの自動家計簿・資産管理サービスとのAPI接続により、利用者口座の残高や入出金明細などを正確かつセキュアに取得できるようになると説明しました。
(参照:住信SBIネット銀行 プレスリリース 平成28年3月25日付)
※ システムインテグレーターは主に企業を顧客として情報システムの企画・運用・管理の業務を一括して請け負う業者を指す。
※ 住信SBIは2015年12月、フィンテック事業領域の有望なベンチャー企業への投資を目的とした「フィンテックファンド」を設立し、2016年には、300億円を調達し、フィンテック関連企業への投資を開始。(参照:金融庁 「フィンテックに関する現状と金融庁における取り組み」)
2-3 急騰するビットコイン、一時30万円台に
フィンテック市場が急速に拡大するなか、とくに仮想通貨ビットコインの価格上昇が止まりません。
今年1月、1ビットコインの価格が15万円を突破し最高記録を更新しましたが、今月に入り、一時は30万円台にまで急騰しました。
・ビットコイン価格の推移
(参照:ビットコイン日本語情報サイト)
急騰した要因に4月から施行された改正資金決済法が関係しており、これまで仮想通貨に興味のなかった利用者の間で安全に使用できるとの見方が広がりっています。
3 みずほグループ、フィンテックの新会社設立へ
みずほファイナンシャルグループは5月、米投資会社WiL(ウィル)とフィンテック事業を支援する合弁会社を設立する意向であることがわかりました。
ブルームバーグによると、新会社が創出支援する新事業の売り上げ増加やコスト削減効果などを合わせると、2020年度には1000億円の付加価値を生み出す予定です。
新会社の資本金は1億円とされ、出資割合はWiL50%、みずほ15%未満となります。このほか伊藤忠商事や第一生命なども出資しており、今後は地方銀行にも呼びかけフィンテックを駆使した実証実験に取り組む方針だとしました。
みずほ2016年11月、ソフトバンクとみずほ銀行は、FinTechを活用したレンディングサービスを提供することを目的として、合弁会社「J.Score」を設立。計50億円を出資するなど、フィンテック分野に積極的に出資をする日本企業。
しかし欧米と比較すれば、アメリカ12億2100万ドル、イギリス9億7400万ドル、日本6500万ドルと、フィンテックへの投資額はまだまだ小規模。先行する米英に追いつくためにも、官民一体となって、フィンテック事業を推し進める必要がありそうです。
(参照:アクセンチュア「フィンテック、発展する市場環境:日本市場への示唆」)