ベルギー・ブリュッセルで行われていた日欧経済連携協定(EPA)交渉の閣僚会議は7月、大枠合意に達したと発表しました。世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める巨大経済圏の誕生に、米中にも大きな衝撃が走っています。
難航していた交渉は、日本側が提示した妥協案をEU側が受け入れた形で、7月6日、EU本部で岸田外相とマルムストローム欧州委員の間で大枠合意の確認が行われました。
交渉の焦点となっていたワインの関税は即時撤廃が決まっており、チーズや乗用車についても段階的に関税を撤廃することで合意。また、EUがかけている日本酒や緑茶についても即時撤廃が決まりました。
日本とEUのEPAが発効すれば世界貿易の約4割を占めると言われます。TPP離脱を表明したアメリカを尻目に世界経済は大きく動き始めました。
目次
- 1 貿易品目の99%が関税撤廃
- 1-1 そもそもEPAとは
- 1-2 取り組みが遅れていた日本
- 2 個別に見る合意内容をわかりやすく解説
- 2-1 EUからの輸入品に対する関税
- 2-2 EUへの輸出品にかかる関税
- 3 世界のGDPの3割の巨大経済圏の誕生
1 貿易品目の99%が関税撤廃
約4年に渡って行われた日欧EPA交渉。7月6日に行われた日欧首脳会談で、安倍首相と欧州委員会委員長はEPAの大枠合意を確認し合いました。交渉を行った岸田外相は「日本とEUのEPAは大規模な先進経済圏の間での、初めての経済連携協定となる。合意内容は世界に範を示すに足る包括的で、レベルが高く、バランスのとれたものだと自負をしている」と述べました(参照:NHK NEWS WEB)。
最終的には日本、EU間の貿易品目の99%で関税が撤廃される見通しで、ワインなど一部品目については即時撤廃が決まっています。
1-1 そもそもEPAとは
自由な経済・貿易関係を作ることを目的として、貿易や投資の自由化を進める協定がEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)です。
FTAが物品の関税やサービス貿易の障壁をなくすことを目的としているのに対して、EPAは物品の貿易の自由化に加えて投資や人の移動、知的財産の保護などの強化を目的としています。
日本のEPA、FTAは、発行済および署名済みの国・地域は、EUを含めれば17となります。(シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、EU、TPP)
・日本のEPA締結国
シンガポール | 2002年発効 | フィリピン | 2008年発効 |
---|---|---|---|
メキシコ | 2005年発効 | スイス | 2009年発効 |
マレーシア | 2006年発効 | ベトナム | 2009年発効 |
チリ | 2007年発効 | インド | 2011年発効 |
タイ | 2007年発効 | ペルー | 2012年発効 |
インドネシア | 2008年発効 | オーストラリア | 2015年発効 |
ブルネイ | 2008年発効 | モンゴル | 2016年発効 |
ASEAN | 2010年発効 | TPP | 2016年署名 |
EU | 署名予定 |
・ EPA交渉中の国・地域
日ASEAN・EPA(投資サービス交渉)、日・カナダEPA、日・コロンビアEPA、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日・トルコEPA、日GCC・FTA、日韓EPA
アジアにおける経済連携協定として、日本は東アジア包括的経済連携協定(RCEP)を結ぶことを提案しており、日本、中国、韓国、ASEAN、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計16カ国をメンバーとします。
1-2 取り組みが遅れていた日本
世界では主要国間でのFTA、EPAの取り組みが盛んで、とくにアメリカ、EU、韓国は協定相手国との貿易額全体に占める割合が30%を超えていました。一方、日本は20%程度にとどまっており、自由貿易への取り組みの遅れが指摘されていました。
現在では20か国と16のEPAが発効済・署名済で、EPA相手国との貿易が貿易総額に占める割合は39.5%に達します。
・ 日本の貿易総額に占める国・地域の貿易額の割合
(参照:外務省経済局)
2 個別に見る合意内容をわかりやすく解説
大枠合意では、聖域とされる米について関税削減・撤廃の対象外となりました。
乳製品のうち、チーズについては国内酪農家が今後も生産を維持できるように段階的に関税を引き下げていくことで合意しました。バター・脱脂粉乳については、6年目に1万5000トンのEU枠を設定するなど、限定的な民間貿易枠の設定にとどめました。
肉類については、牛肉は長期的な関税削減期間を設定し、輸入急増対策としてセーフガード※を設けました。豚肉も同様に段階的な引き下げとセーフガードを設け、さらに差額関税制度※を維持しました。
ワインについては、関税を双方で即時撤廃することとなりました。
また、EU側の関税については、牛肉、茶、水産物などの輸出重点品目を含め、ほぼすべての品目で関税撤廃を獲得、農林水産省はEU5億人の市場に向けた日本の輸出促進に向けた環境を整備することができたと述べました。
2-1 EUからの輸入品に対する関税
日本のEUからの輸入品に対する関税は次のようになります。
品目 | 合意内容 |
---|---|
コメ |
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麦、麦芽 |
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砂糖 |
|
豚肉 |
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牛肉 |
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乳製品 |
|
パスタ、チョコレート、その他加工品 |
|
ワイン |
|
林産物 |
|
水産物 |
|
(参照:農林水産省発表資料より作成)
2-2 EUへの輸出品にかかる関税
日本のEUへの輸出品にかかる関税については次のようになりました。
品目 | 合意内容 |
---|---|
醤油などの調味料 | 即時撤廃 |
アルコール飲料(日本酒など) | 即時撤廃 |
緑茶 | 即時撤廃 |
牛肉 | 即時撤廃 |
豚肉 | 即時撤廃 |
鶏肉 | 即時撤廃 |
ぶり | 即時撤廃 |
ほたて貝 | 8年目に関税撤廃 |
鶏卵 | 即時撤廃 |
乳製品 | 即時撤廃 |
青果物(かんきつ類、ながいも) | 即時撤廃 |
林産物(木材・木材製品) | 即時撤廃 |
(参照:農林水産省発表資料より作成)
※ セーフガードとは、特定品目の貨物の輸入の急増が、国内産業に重大な損害を与えていることが認められる場合に、損害を回避するための数量制限や関税を新たにかける措置のこと。そもそもEU産牛肉の輸入は、日本から距離が離れており、消費期限との関係から船便では冷凍牛肉しか輸入できないため、最大でも985トンしか輸入実績がなく、今後も輸入量は限定的と見込まれるが、念のためセーフガードを確保した(参照:農林水産省)。
※ 差額関税制度とは、輸入品の価格が低いときは輸入価格に満たない部分を関税で徴収し、輸入価格が高いときは、低率な従価税を適用する制度。国内養豚農家を保護する一方で、関税負担を軽減して消費者の利益を図りバランスをとっている。
※ 糖価調整制度とは、輸入品と国産品の価格調整を通じて国内生産の安定を図るための制度。
※ 関税割当制度とは、一定の輸入数量の枠内に限り無税又は低税率(一次税率)を適用し需要者に安価な輸入品の供給を確保する一方、一定の輸入数量の枠を超える輸入分には高税率(二次税率)を適用する制度。国内生産者の保護を図ることが目的。
3 世界のGDPの3割の巨大経済圏の誕生
EUは、総人口約5.1億人、世界のGDPの約22%、日本の輸出入総額の11%を占める主要な貿易・投資相手です。
EPAが発効すれば、巨大なEU市場の取り込みことが実現し、総人口約6.4億人で、世界のGDPの約28%、世界貿易の約37%を占める世界で最大級の規模の経済圏が新たに誕生することになります。
(参照:外務省資料)
政府は「EPAは、相互の市場開放等による貿易・投資の活発化、雇用創出、企業の競争力強化等を含む日EU双方の経済成長に資するもの。EUとの戦略的関係を強化するのみならず、我が国の成長戦略の重要な柱である」とコメントしており、2019年の早い時期の発効を目指すとしました。