パナソニックは、6月、宅配ボックス実証実験の最終結果報告を行い、4ヶ月間の平均再配達率が49%から8%に減少したと発表しました。
パナソニックグループのエコソリューションズ社によると、同社が参画していた福井県あらわ市の「働く世帯応援プロジェクト」で、共働き世帯を対象に宅配ボックス設置による再配達の検証実験を行ったところ、4割以上減少したことがわかりました。
再配達は宅配業者にとって単なる“二度手間”として、コスト増大や労働時間の増加など業界全体の問題となっていました。パナソニックの実証実験は、宅配ボックスの有用性を裏付けるものであり、設置により労働時間の削減やCO2の削減にもつながることがわかりました。
長時間労働など過酷な労働環境として知られる宅配ドライバー。宅配ボックスは宅配業界の“救世主”となることができるのでしょうか。
目次
- 1 再配達率が49%から8%に減少
- 1-1 大幅な労働時間とCO2の削減も達成
- 1-2 モニター世帯の98%が「満足」と回答
- 1-3 受け取る側のストレスも減少?
- 2 再配達削減に向けて動き出した政府
- 2-1 再配達で年間9万人相当の労働力が発生
- 2-2 荷物の受け取り方法を多様化する
1 再配達率が49%から8%に減少
国内で共働き率が最も高い福井県では、昨年10月より「宅配便の再配達がない」まちづくりに取り組むため、人口約2万8000人のあわら市の戸建て住宅100世帯を抽選で選び、パナソニックの宅配ボックスを提供するプロジェクトを進めていました。
(▲モニター募集を呼びかけるチラシ 参照:パナソニック)
モニターの対象となったのは、1. あらわ市在住市民で、2. 共働きのため、日中の宅配便の受け取りが困難な家庭で、3. 宅配ボックスが設置可能な家庭、4. 宅配ボックス設置工事が可能な家庭、5. 法人・各種事務所などではない個人世帯主などが条件となりました。
・ モニター対象者
1 | あらわ市在住市民 |
---|---|
2 | 共働きのため、日中の宅配便の受け取りが困難な家庭 |
3 | 宅配ボックスが設置可能な家庭 |
4 | 宅配ボックス設置工事が可能な家庭 |
5 | 法人・各種事務所などではない個人世帯主 |
1-1 大幅な労働時間とCO2の削減も達成
宅配ボックス設置前は、再配達で受け取るケースが全体の49%を占め、1回で受け取るケースを上回っていました。
ところが、パナソニックによれば、2016年12月~2017年3月末の実証実験をまとめた最終結果報告では、宅配ボックス設置により4ヶ月間平均で再配達率が49%からで8%に減少しました。
また、配達ドライバーの約222.9時間分の労働時間削減、約465.9kgのCO2削減を実現となったことも合わせて報告されました。
10月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
再配達率 | 49% | 8% | 9% | 6% | 10% |
再配達削減回数/ 総配達数 | 0回/ 583回 | 300回/ 779回 | 235回/ 519回 | 209回/ 418回 | 269回/ 542回 |
宅配業者の労働削減時間想定値 | 0時間 | 66.0時間 | 51.7時間 | 46.0時間 | 59.2時間 |
CO2削減量想定値 | 0kg | 約138.0kg | 約108.1kg | 約96.1kg | 約123.7kg |
昨年10月の時点で49%だった再配達率は、2ヶ月後には8%まで減少し、その後4ヶ月間平均で8%となりました。また累計1013回の再配達数削減を達成し、223時間におよぶ宅配業者の労働時間の削減、124キログラムのCO2削減となりました。
・宅配ボックス設置前後の荷物の受け取り状況比較
(参照:パナソニック)
1-2 モニター世帯の98%が「満足」と回答
実際宅配ボックスを設置した家庭に使用満足度を聞いたところ、「かなり満足」が74%、「やや満足」が24%となり、計98%が満足であると応えました。
一方、配達ドライバーが宅配ボックスをしなかった理由の調査では、荷物の種類が「冷蔵・冷凍」だった、「大きすぎて入らなかった」など分かれました。
また、宅配業者が「ボックスに入れてくれなかった」「ボックスがすでにいっぱいだった」などの意見も多く見られました。
原因・理由 | 回答割合 |
---|---|
宅配業者がボックスに入れてくれなかった | 23.5% |
ボックスがいっぱいだった | 23.0% |
冷蔵・冷凍 | 14.2% |
大きすぎて入らなかった | 12.6% |
その他(代引・書留など) | 26.8% |
1-3 受け取る側のストレスも減少?
このほか、調査では荷物を受け取る側のストレスも軽減したことが明らかになっています。「宅配ボックス設置後、受け取りについてのストレスは変化したか?」との質問では、「かなり改善された」が68%、「やや改善された」26%で、合わせて94%がストレスが軽減したと応えました。
・宅配ボックス設置の荷物受け取りに関するストレス状況
かなり改善された | 68% |
やや改善された | 26% |
どちらとも言えない | 2% |
ややまだストレスを感じる | 3% |
かなりまだストレスを感じる | 0% |
モニターとなった世帯からは「時間指定にしても急な用が出来たり、ストレスがあった。設置して本当に良かった」「通販が多いときは、かなり役に立つ。運送会社の負担軽減のためにも、もっとPRしていくと良いと思う」「玄関に出なくて良いので嬉しい」など、受け取る際の手間が軽減されたことに喜ぶ声が多く聞かれました。
・設置された宅配ボックス
(出展:パナソニック)
2 再配達削減に向けて動き出した政府
国土交通省は宅配業界における再配達の削減に向けた検討会議を昨年11月に発足。宅配便の取り扱い件数の増加とともに、全体の2割を占めるとされる再配達を削減し、物流を効率化する政策の検討を始めました。
2-1 再配達で年間9万人相当の労働力が発生
宅配便の取り扱い件数はここ5年間で15%増加し、36.1億に上ります(2014年時点)。ドバイバー不足が深刻するなか、宅配便荷物の約2割が再配達となっており、これにより年間9万人に相当する労働力と年間1.8億時間が消費されていると国交省は報告します。
さらに、再配達により配達トラックから発生するCO2排出量は約42万トン増に達します。これは営業用トラックのCO2排出量の約1%、JR山手線の内側の約2.5倍の面積の杉林の年間吸収量に相当するとされます。
2-2 荷物の受け取り方法を多様化する
政府は、再配達による社会的損失の発生とドライバー不足対策、さらに地球温暖化対策の必要性を考慮し、消費者の受取への積極的参加の推進のための環境整備に取り組む方針であることを明らかにしています。
具体的な方策として、1回の配達で済んだ場合、ポイントを付与するなどのメリットを付けるサービスや、コンビニ受取の利便性向上、宅配ボックスの普及、配達日時指定の変更容易化、配達日時指定の無料化などを挙げました。
この度のパナソニックによる実証実験は、宅配ボックスの意義を広く市民に知らせるきっかけとなりました。国交省は、今後、再配達対策がさらに推進されるよう、宅配事業者、通販会社等で構成される委員会を設置し、宅配の受取方法の多様化の促進等を通じた再配達の削減に向けた現状把握、要因分析を行っていくとしています。(参照:国土交通省 「宅配の再配達削減に向けた検討について」)