イギリスの国際的シンクタンクの経済平和研究所(IEP)は6月、2017年版の世界平和度ランキングを発表しました。1位は前年と変わらずアイスランドが維持、2位ニュージーランド、3位ポルトガルはともに前年より順位を2つあげました。
日本は前年より1つ落として10位で、5段階評価では平和度が最も高い「Very high」に位置付けられました。
一方、最下位グループはイラク、アフガニスタン、シリアなどの紛争地域が占めました。
2007年から調査が始まった世界平和度ランキング。果たして今年はどのような結果になったのでしょうか。
目次
- 1 世界平和度ランキングの概要
- 1-1 93カ国が改善、68カ国が悪化
- 1-2 悪化する中東と北アフリカの平和度
- 2 地域ごと(アジア、アメリカ、ヨーロッパ)の平和度指数
- 2-1 アジアは世界で3番目に平和な地域
- 2-2 世界で最も平和なヨーロッパ地域
- 3 順位を11下げたアメリカ~トランプ政権が原因?~
1 世界平和度ランキングの概要
シドニーに本部を置く経済平和研究所(IEP=The Institute for Economics and Peace)は、世界的な指標な開発や、暴力による経済コスト、国家レベルのリスク分析など幅広く行う研究機関です。
調査レポートの一つである「世界平和度指数(GPI)」は、163カ国を対象に平和の程度に応じてランク付けをします。順位は、暴力・犯罪など内的要因と、近隣国との関係、戦争など外的要因からなる24の指標をもとに判断されます。今年で11回目のレポートであり、各国の政府機関やシンクタンク、学会など幅広く使用されています。
(参照:The Institute for Economics and Peace)
1-1 93カ国が改善、68カ国が悪化
2017年版では世界の平和レベルは93カ国で改善した一方、68カ国で悪化したと報告しました。また全体では0.28%の改善となりました。
世界でもっとも平和な国はアイスランドで、2008年以来、首位を維持しています。このほか上位10カ国にランクインしたのは、2位ニュージーランド、3位ポルトガル、4位オーストラリア、5位デンマーク、6位チェコ、7位スロベニア、8位カナダ、9位スイス、10位日本およびアイルランドとなりました。
・ 世界平和度指数の上位10カ国
順位 | 国・地域 | スコア | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | アイスランド | 1.111 | − |
2 | ニュージーランド | 1.241 | ↑2 |
3 | ポルトガル | 1.258 | ↑2 |
4 | オーストリア | 1.265 | ↓1 |
5 | デンマーク | 1.337 | ↓3 |
6 | チェコ共和国 | 1.36 | − |
7 | スロベニア | 1.364 | ↑3 |
8 | カナダ | 1.371 | − |
9 | スイス | 1.373 | ↓2 |
10 | 日本 | 1.408 | ↓1 |
〃 | アイルランド | 〃 | ↑2 |
(参照:IEP「GLOBAL PEACE INDEX2017」より作成)
1-2 悪化する中東と北アフリカの平和度
報告書によれば、2015年以来、中東と北アフリカは世界で最も平和的な地域はありません。近隣諸国間の関係も悪化しており、サハラ以南のアフリカ、中東、北アフリカ地域はスコアが最も低下しました。
・ 世界平和度指数の下位10カ国
順位 | 国・地域 | スコア | 前年比 |
---|---|---|---|
153 | コンゴ共和国 | 3.061 | ↓1 |
154 | ウクライナ | 3.184 | ↑2 |
155 | 中央アフリカ共和国 | 3.213 | ↑2 |
〃 | スーダン | 3.213 | − |
157 | リビア | 3.328 | ↓3 |
158 | ソマリア | 3.387 | − |
159 | イエメン | 3.412 | ↓1 |
160 | 南スーダン | 3.524 | ↑2 |
161 | イラク | 3.556 | − |
162 | アフガニスタン | 3.567 | ↓2 |
163 | シリア | 3.814 | − |
(参照:IEP「GLOBAL PEACE INDEX2017」より作成)
主に紛争地域で占められた下位10カ国は、戦闘が未だ続くシリアが最も平和度指数が低い国となりました。このほか、153位コンゴ、154位ウクライナ、155位中央アフリカおよぶスーダン、157位リビア、158位ソマリア、159位イエメン、160位南スーダン、161位イラク、162位アフガニスタンとなりました。
最下位シリアは、2011年3月中旬以降、各地で反政府デモが発生し、さらに反政府勢力に過激派武装勢力なども参加し、当局との間で暴力的衝突に発展。その結果、全土で約25万人の死者、約650万人の国内避難民が発生(2016年6月時点)し、周辺諸国に約480万人の難民が流出しています。
また、161位イラクでは2014年6月以降、モースル市を始めとするイラク北部・西部の多くの都市がISを始めとする武装集団により占拠され、現在もイラク国軍・治安部隊との間で戦闘が継続中です。(以上、外務省HPより)。
(出展:Jornal O Globo)
2 地域ごと(アジア、アメリカ、ヨーロッパ)の平和度指数
レポートは、地域別にみた平和度指数では、アジア太平洋地域がヨーロッパと北米に次いで3位にランクされ、その大部分の国・地域は全体的に改善しているとしました。
2-1 アジアは世界で3番目に平和な地域
138位フィリピンと150位北朝鮮は、アジアで最も平和的では国となりますが、ニュージーランド、日本、オーストラリアは世界2位、10位、12位にとどまっているため、アジアの平和ランク維持に貢献していると分析されました。
・ アジア太平洋地域ランキング
アジア内順位 |
国・地域 |
スコア | 世界順位 |
---|---|---|---|
1 | ニュージーランド | 1.241 | 2 |
2 | 日本 | 1.408 | 10 |
3 | オーストラリア | 1.425 | 12 |
4 | シンガポール | 1.534 | 21 |
5 | マレーシア | 1.637 | 29 |
6 | 台湾 | 1.782 | 40 |
7 | ラオス | 1.800 | 45 |
8 | モンゴル | 1.801 | 46 |
9 | 韓国 | 1.823 | 47 |
10 | インドネシア | 1.850 | 52 |
11 | 東ティモール | 1.866 | 53 |
12 | ベトナム | 1.919 | 59 |
13 | カンボジア | 2.065 | 89 |
14 | パプアニューギニア | 2.095 | 97 |
15 | ミャンマー | 2.179 | 104 |
16 | 中国 | 2.242 | 116 |
17 | タイ | 2.286 | 120 |
18 | フィリピン | 2.555 | 138 |
19 | 北朝鮮 | 2.967 | 155 |
(参照:IEP「GLOBAL PEACE INDEX2017」より作成)
2-2 世界で最も平和なヨーロッパ地域
世界平和度において、ヨーロッパは最も平和的な地域となります。半分以上の国がトップ30以内であり、100以上の国は2つしかありません。
世界ランキングトップのアイスランドを筆頭に、2位ポルトガルもヨーロッパ内で最大の改善を見せました。
一方、33位ポーランド(地域内22位)では、2015年に民主化後初めて成立したPiS党単独政権による強硬政治に抗議する反政府デモが後を絶たず、内部対立が深刻化したことが平和度指数に影響し、地域内で最大の下げ幅となりました。
また、EUからの離脱交渉を進めているイギリスは、41位(地域内26位)となり、平和度指数は前年から改善しています。不安定だった国内政権は、メイ首相就任後、比較的安定しました。
ヨーロッパ全体として紛争のリスクは低いものの、昨年、北欧諸国とロシアの緊張が高まったことがデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど近隣諸国に影響を及ぼしたとレポートでは指摘されました。
・ ヨーロッパ地域TOP10とWORST10
ヨーロッパ内順位 | 国・地域 | スコア | 世界順位 |
---|---|---|---|
1 | ニュージーランド | 1.241 | 1 |
2 | ポルトガル | 1.408 | 3 |
3 | オーストリア | 1.425 | 4 |
4 | デンマーク | 1.534 | 5 |
5 | チェコスロバキア | 1.637 | 6 |
6 | スイス | 1.782 | 7 |
7 | アイルランド | 1.800 | 9 |
8 | ノルウェー | 1.801 | 10 |
9 | ハンガリー | 1.823 | 14 |
10 | ドイツ | 1.850 | 15 |
・ ・ ・ |
|||
32 | ギリシャ | 2.179 | 73 |
33 | コソボ | 2.242 | 76 |
34 | ボスニア・ヘルツェゴビナ | 2.286 | 84 |
35 | マケドニア | 2.555 | 102 |
36 | トルコ | 2.967 | 146 |
(参照:IEP「GLOBAL PEACE INDEX2017」より作成)
3 順位を11下げたアメリカ~トランプ政権が原因?~
北アメリカでは、カナダが8位と上位を維持する一方で、アメリカが前年より11つ順位を下げて114位となりました。
・ 北アメリカ地域ランキング
北アメリカ内順位 | 国・地域 | スコア | 世界順位 |
---|---|---|---|
1 | カナダ | 1.371 | 8 |
2 | アメリカ | 2.232 | 114 |
(参照:IEP「GLOBAL PEACE INDEX2017」より作成)
レポートによれば、アメリカ社会を分断した昨年の米大統領選挙以降、内部対立は一層強まっており、平和度指数にも影響しました。また政権に対する国民の信頼も低下、人種間の緊張も高まっているため、引き続きランキングに影響を及ぼす可能性は高いと指摘します。このほか、主要都市での殺人率の上昇なども指標に影響しました。
(出展:Boston 25 News)
2017年版では、世界の9つの地域のうち6つの地域で改善が見られ、最大の改善を見せたのは南米となりました。安全とセキュリティの分野で大きく改善し、ガイアナ、アルゼンチン、ペルー、パラグアイなどにおけて平和度指数が上昇しました。全体として、南米11カ国のうち8カ国が平和度指数を向上させました。