「世界と競争できる起業家を育てるには」の記事の中で、日米欧の会社の起業率を比較しました。日本の起業率は、欧米の半分となっており、そのため産業の新陳代謝が進んでいないという状況です。
日本の新規開業率は長年に渡って低水準にとどまっており、改善していません。比較対象としてたびたび取り上げられるのがアメリカやヨーロッパの開業率です。環境的・文化的にどう違うのか、国の支援制度は何が違うのか。アメリカや欧州で起業率が高い理由を探りました。
目次
- 1 日本の起業率
- 1-1 欧米とは大きな差がある
- 1-2 事業規模別に検証する
- 2 本当に欧米の起業率は高いのか
- 2-1 零細の起業率が突出して高いアメリカ
- 2-2 ヨーロッパの新規起業率
- 2-3 フランスの起業率が高いワケ
- 3 日本の起業率が欧米を追い抜くには
- 3-1 目標は欧米並みの起業率10%
- 3-2 学生の起業を支援する会社が続々登場
1 日本の起業率
1-1 欧米とは大きな差がある
起業率は経済が順調に循環をしているかを測る指標の一つとして、参照することができます。起業率の低さは産業の新陳代謝が進んでいないことをあらわし、話題となった労働生産性の低下にもつながります。
中小企業庁が発表した日本の起業率(開業率)は2012年で4.6%、アメリカ9%、フランス15.3%となっています。
これを事業所規模別にさらに詳しく見ていきます。
1-2 事業規模別に検証する
総務省統計局が行った調査によれば、従業員1〜4人の零細企業の開業率は2.19%とかなり低い結果となります。5〜9人での開業率が2.92%ともっとも高く、100〜199人が最も低くなりました。
・日本の事業規模別の新規開業率(2009年)
新規開業率 | 事業所の割合 | |
---|---|---|
全事業規模 | 2.41% | 100.00% |
1~4人 | 2.19% | 59.52% |
5~9人 | 2.92% | 19.58% |
10~19人 | 2.73% | 11.21% |
20~29人 | 2.61% | 3.88% |
30~49人 | 2.21% | 2.76% |
50~99人 | 1.98% | 1.73% |
100~199人 | 1.82% | 0.68% |
200~299人 | 1.98% | 0.18% |
300人以上 | 2.06% | 0.20% |
(参照:総務局統計局「平成21年経済センサス基礎調査」)
2 本当に欧米の起業率は高いのか
2-1 零細の起業率が突出して高いアメリカ
アメリカの中小企業庁が取りまとめたデータによれば、全事業所平均では6.09%で、日本と比べれば高い数値です。
新規開業率 | 新規開業数 | 事業所数 | |
---|---|---|---|
全事業規模 | 6.09% | 40,7490 | 6,694,141 |
1~4人 | 12.47% | 348,299 | 2,793,861 |
5~9人 | 3.18% | 34,156 | 1,073,851 |
10~19人 | 2.14% | 14,066 | 657,224 |
20~99人 | 1.35% | 9,161 | 679,651 |
100~499人 | 0.45% | 1,571 | 349,007 |
500人以上 | 0.02% | 237 | 1,140,547 |
(参照:アメリカ労働統計局)
しかし、従業員数1~4人の零細企業以外の開業率は低く、日本とほぼ変わりません。
アメリカの開業率を引き上げているのが1〜4人の事業規模の会社で、12.47%となっています。
アメリカの起業率が日本よりも高いと言われる原因は、4人以下の零細企業を立ち上げる数が突出して多いからということがわかりました。
2-1 ヨーロッパの新規起業率
零細企業の開業率が高いのはヨーロッパにおいても同じです。
4人以下の会社を立ち上げる割合が高く、特に旧共産圏だった東欧諸国の起業率は15%を超えるところもあります。
2-2 ヨーロッパの規模別新規開業率(サービス業)
1-4人 | 5-9人 | 10人以上 | |
スイス | 5.56% | 1.05% | 0.31% |
スペイン | 11.64% | 4.56% | 2.36% |
オーストリア | 11.01% | 3.92% | 1.96% |
ポルトガル | 12.01% | 3.94% | 2.32% |
スウェーデン | 13.22% | 2.98% | 0.72% |
スロベニア | 12.53% | 3.45% | 1.25% |
イタリア | 12.63% | 2.83% | 2.17% |
エストニア | 15.48% | 4.64% | 1.71% |
チェコ | 13.56% | 4.99% | 2.88% |
ルクセンブルグ | 16.08% | 4.66% | 1.55% |
ハンガリー | 16.90% | 4.28% | 2.66% |
ルーマニア | 14.60% | 4.11% | 2.41% |
(参照:OECD「Entrepreneurship at a Glance 2012」)
2-3 フランスの起業率が高いワケ
前述のヨーロッパの開業率の表にフランスはありませんが、フランスはヨーロッパ随一の起業大国として知られています。
2009年に発生した世界的な金融危機のなか、フランスでは約58万社が新たに起業しました。前年比75.1%の増加だったため、ヨーロッパ中は驚きました。さらに2010年には約62万社が起業し、過去最高記録を更新しました。
金融危機の最中、起業する人たちが急増した背景には、2009年1月にフランスで導入された「個人事業主制度」が大きく関係していると言われています。
個人事業主制度では次のような対策を打ち出しました。
① 資本金不要
誰もが簡単に起業できるよう、資本金等を不要としました。
さらに、起業の手続きを簡略化し、自宅からインターネットで起業の手続きをできるようにしました。
実際、インターネットで起業の手続きを済ませた登録者は全体の4分の3にも及んだそうです。
② 売上が0だったときの税金を免除
売上に応じて13%~23.5%の所得税を課していましたが、売上がゼロだったときの所得税や社会保障費を免除。起業家の間では起業のリスクが最小限に抑えられると歓迎されました。
③ そのほかの税優遇措置
地方税である地域経済拠出金の支払いを3年間免除したほか、付加価値税の徴収も免除しました。
(参照:愛知産業労働部レポート)
世界的な大不況だったにもかかわらず、フランスの起業率が急増した理由には国による魅力的な起業支援策があったからだと言われています。
3 日本の起業率が欧米を追い抜くには
日本の新規開業率が低かったことの要因として、「日本人は総じて、パパママショップ的な零細ビジネスの起業を欧米人ほどには好まないという推測があるが、もう一つの可能性として、零細企業の新規開業数の統計的捕捉が欧米諸国ほどには十分でないという可能性も考えられる。」と財務省特別研究官の松本和幸氏は指摘します。
3-1 目標は欧米並みの起業率10%
たしかに、サラリーマンのかたわら副業をしており、税務署に開業届を出していない人も少なくありません。
その理由として起業の準備段階で、起業に伴う費用や手続きの煩雑さなど多くの問題があるからです。中小企業庁によれば、費用が高い、手続きが面倒くさいといった理由で起業を断念しそうになった人は相当数存在しているとしています。
政府は、成長戦略で日本の開業率を欧米並みの10%に引き上げることを目指しています。起業促進策として、エンジェル税制などの制度もありますが、利用している企業は2013年時点で48社に過ぎません。日本の起業率が欧米を追い抜く日はいつになるのでしょうか。
3-2 学生の起業を支援する会社が続々登場
スマートフォン向けのオンラインゲームの開発を手がけるコロプラは、投資事業を展開する学生起業家支援に特化した投資会社コロプラネクストを設立。
世界で通用する日本発のベンチャー企業の輩出を目的としています。コロプラネクストは、代表者が学生であることやインターネットを使った事業を展開していることなどを条件として、学生起業家への投資を行っています。
(参照:MarkeZine)
また、25歳以下の学生や若手起業家を対象に支援・投資する会社「CROOZ VENTURES」は、役員による事業指導や資金援助、シェアハウスの基本無償提供、在学時の学費や生活費に当てる奨学金や住居の提供をしています。
参考文献 松本和幸『企業数と新規開業率の国際比較』