2017年に入ってからミサイル発射など威嚇を続ける北朝鮮。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発にも成功した北朝鮮の脅威は世界中に衝撃を与えました。
韓国中央銀行によると7月、2016年の北朝鮮の経済成長率が17年ぶりの大きさとなる3.9%だったと複数の韓国メディアが明かしました。GDP算出にあたって、核ミサイル開発に関わる部品の製造なども含まれるため、金正恩体制以降の積極的な軍事拡張が、経済成長に大きく寄与したと考えられています。
経済制裁をもろともせずに成長を続ける北朝鮮。1人当たりの国民総所得は1136ドル(約12万円)といまだ低水準ですが、国際社会では急成長する北朝鮮経済に対して警戒する動きが広がっています。
本記事では韓国銀行発表数値と韓国メディアの情報をもとに北朝鮮国内の実情を詳しく見ていきます。
目次
- 1 北朝鮮のGDP、17年振りとなる高水準
- 1-1 北朝鮮の景気が良くなった訳ではない?
- 1-2 鉱工業、生活インフラ業が急成長
- 2 北朝鮮経済の基礎知識
- 2-1 経済建設と核武力建設を並進させる方針
- 2-2 低成長ながらも着実に経済規模を拡大
- 2-3 主要貿易相手国は中国、韓国、ロシア
1 北朝鮮のGDP、17年振りとなる高水準
2016年の北朝鮮の実質国内総生産(GDP)の成長率は、マイナスからプラスに転じ(前年比5.0ポイント上昇)、3.9%となりました。
一方、昨年の韓国の経済成長率は2.8%で、北朝鮮の経済成長率が韓国を上回ったのは、世界金融危機以降、8年ぶりとなりました。
・北朝鮮と韓国のGDPの推移
(赤い線が北朝鮮の経済成長率。青い線は韓国 参照:韓国銀行)
1-1 北朝鮮の景気が良くなった訳ではない?
韓国銀行発表の「2016年北朝鮮経済成長率推定結果」によれば、北朝鮮は1999年に成長率6.1%を記録して以来、17年振りとなる高水準になります。韓国と北朝鮮の1人当たりの所得格差は21.9倍となり、前年の22.2倍から縮まりました。
しかし、マイナス1.1%から3.9%に転じたことについて、韓国経済統計局は、「(北朝鮮の回復は)2015年に発生した干ばつなどの被害に経済が大きく萎縮したことにより、基底効果※に応じて大きく反動したことによるものなので、これをもって北朝鮮の経済が良くなったと見るのは難しい」と述べました。
さらに、韓国銀行は、2015年と2016年の2年間の年平均成長率は1.3%にとどまり、低成長基調が続いていると付け加えました。
昨年、北朝鮮の国民総所得(名目GNI)は36兆4000億ウォン(約3.6兆円)で、韓国(1639兆1000億ウォン)の45分の1の水準となりました。1人当たりの国民総所得は146万1000ウォン(約14.5万円)で韓国の4.6%にあたります。
1-2 鉱工業、生活インフラ業が急成長
昨年、北朝鮮では電気、ガス、水道業が22.3%の高い成長率を記録しました。また、鉱工業も6.2%増加し、過去17年間で最大の成長となりました。このほか、製造業の中では特に軽工業(0.8%→1.1%)よりも重化学工業(4.6%→6.7%)が大きく成長し、農林漁業(-0.8%→2.5%)はマイナスからプラスに転じました。
北朝鮮の産業構造では鉱工業が33.2%と大部分を占めます。また、サービス業は昨年から1.1ポイント下落し、31.3%となり鉱工業との差を縮めました。
韓国IBK経済研究所のチョ・ボンヒョン博士によると、昨年の北朝鮮のおもな成長要因には石炭輸出が挙げられると一部韓国メディアは報じました。2016年初め、石炭をはじめとする鉱業を中心とした輸出が好調だったため、それが経済成長率に大きく影響を与えたと考えられています。また、中国が北朝鮮に対して本格的な経済制裁措置を講じていないことも、北朝鮮の経済成長率に好影響をもたらしたと考えられています。
(出展:ABC10.com)
※ 基底効果(Base effect)とは、物価上昇率を前期比で示す場合に、前期の数字が変化したことの影響が上昇率の数字に影響してしまうこと。前期比上昇率の計算では、前期の原指数が低めの場合、前期比の上昇率が高く出てしまい、逆もまた起こりうる。(参照:浜松SCI )
2 北朝鮮経済の基礎知識
人口2489万7000人の北朝鮮は、韓国(5124万6000人)の半分程度とされています。日本と旧ソ連による統治を経て、1948年に北朝鮮政府が独立しました。
政治体制は、一院制で朝鮮労働党(687議席中601議席を占める)による一党独裁制が続いており、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記が代表を務めます。
日本の国会にあたる最高人民会議が、国権の最高機関であり、唯一の立法機関となります。
(最高人民会議の様子 / 出展:BBC NEWS)
2-1 経済建設と核武力建設を並進させる方針
外務省基礎データによると、北朝鮮は革命思想および先軍思想を主体とし、朝鮮労働の指導のもとすべての活動が行われるとされます。1950年の朝鮮戦争後、ソ連にならって計画経済体制を導入し、配給制度に基づいて、金正恩第一書記が経済全体を管理しています。
2011年に金正日総書記が亡くなったあとは、正恩が朝鮮人民最高司令官に就任し、2012年、朝鮮労働党第一書記及び国防委員会第一委員長に就任しました。
北朝鮮はこれまで3度(2006年、2009年、2013年)の核実験を行ったことで国連安保理により制裁が課せられています。2013年に開かれた労働党中央委員会全体会議(総会)では、世界の非核化が実現するまで核武力を質・量的に拡大・強化する方針を表明しました。
2-2 低成長ながらも着実に経済規模を拡大
過去5年間における経済規模(名目GNI)、一人当たりGNI、経済成長率をみると、低成長ながらも着実に拡大していることがわかります。
国民総生産(GNI) | 一人当たりGNI | 経済成長率 | |
---|---|---|---|
2010年 | 30.0兆ウォン | 124兆ウォン | △0.4% |
2011年 | 32.4兆ウォン | 133兆ウォン | 0.8% |
2012年 | 33.5兆ウォン | 137兆ウォン | 1.3% |
2013年 | 33.8兆ウォン | 138兆ウォン | 1.1% |
2014年 | 34.2兆ウォン | 138.8兆ウォン | 1.0% |
(韓国銀行および外務省基礎データより作成)
アジア通貨危機が押し寄せてきた1998年、韓国の成長率はマイナス5.5%まで落ち込みましたが、北朝鮮はマイナス0.9%にとどまっていました。
また、金融危機直前の2008年、外需に依存傾向のあった韓国経済の成長率は2.8%にとどまりましたが、北朝鮮は3.1%の成長率を見せました。
2-3 主要貿易相手国は中国、韓国、ロシア
(出展:WHGC, P.L.C)
韓国統一部発表による貿易額をみると、2010年〜2014年の5年間は輸出、輸入ともに拡大傾向にありました。主要貿易相手国は中国(65.5億ドル)、韓国(11.4億ドル)、ロシア(1億ドル)となります。
・北朝鮮の貿易額推移
輸出 | 輸入 | |
---|---|---|
2010年 | 26.6億ドル | 35.3億ドル |
2011年 | 37.0億ドル | 43.3億ドル |
2012年 | 39.5億ドル | 48.6億ドル |
2013年 | 38.3億ドル | 46.5億ドル |
2014年 | 43.6億ドル | 55.9億ドル |
(KOTRA、韓国統一部および外務省基礎データより作成)
昨年の北朝鮮の対外貿易は65億5000万ドル(7262億円)で、前年比4.7%増加となりました。2015年度、貿易規模が17.9%減少しましたが、昨年の北朝鮮の輸出は前年比4.6%増となる28億2000万ドル(3126億円)で、輸入は4.8%増となる37億3000万ドル(4135億円)でした。
この度の北朝鮮の経済成長は、4・5回目の核実験と相次ぐ弾道ミサイル発射に基づいて、国際社会の対北朝鮮制裁が大幅に強化されたなかで異例の結果となりました。
しかし今年の北朝鮮経済は、中国による石炭輸入の禁止の影響を受けることは不可避だろうと見られています。