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人類最強の囲碁棋士・柯潔、AIに手も足も出ず完敗

(出展:AllTechAsia)
(出展:AllTechAsia)

もはや碁盤で人類はAIに勝つことができないのでしょうか。
5月23日から27日に渡って開催された囲碁の3番勝負において、中国トップの囲碁棋士・柯潔(かけつ)九段と、DeepMind社が開発した最強とも言われる人工知能棋士「アルファ碁(AlphaGo)」が対戦した結果、AIの3戦全勝で幕を閉じました。

 

世界も固唾を飲んで見守った“人類vsAI”は、人類の圧倒的敗北を喫しました。
第3局では柯潔九段が涙ぐむ姿まで見られ、その壮絶な戦いぶりを伺わせました。
アルファ碁は昨年も韓国最強の棋士・李世ドル(イ・セドル)九段と対戦し、4勝1敗でなんなく勝ち越したばかり。2〜3年前までは、人工知能にとって囲碁は“難問”とされ、アマチュアレベルに達するのがやっとと言われていただけに、この世界中の人がAIの急激な進化に驚きました。

 

なぜアルファ碁はこれほど強くなることができたのか。人類はもはや碁盤で勝つことはできないのでしょうか。

 

 

目次

  1. 1 アルファ碁の強さの秘密を探る
  2. 1-1 ディープラーニングとは
  3. 1-2 怒涛のタイトル奪取
  4. 2 囲碁界トップが敗れた日〜中国・柯潔九段に圧勝~
  5. 2-1 残りの持ち時間に圧倒的な差
  6. 2-2 アルファ碁、囲碁からの引退を突如発表
  7. 3 今後のアルファ碁のゆくえ

 

1 アルファ碁の強さの秘密を探る

人工知能のアルファ碁は、碁の世界チャンピオンを打ち負かすことを目的に開発された最初のコンピュータープログラムで、今や人類の誰も肩を並べることのできない最強棋士となりました。

 

開発を手がけたグーグル傘下のディープマインド社は、ヒトの“やり方”を模倣して学ぶことができるニューラルネットワークの開発を得意とし、2014年にグーグルに買収された後※、2015年に初めて碁のプロ棋士を破ったことで話題となりました。

 

※ グーグルは、2014年1月、ディープマインド・テクノロジー社を5億ドルで買収したと発表。ディープマインドは、アマゾン、グーグル、フェイスブック、アイビーエム、マイクロソフトとともに、「AIのパートナーシップのメンバーとなっている。

 

 

1-1 ディープラーニングとは

囲碁は数あるボードゲームの中でも、最も高度な戦略的思考や創造性を要すると言われており、その局面の多さから、従来のAIメソッドでは通用せず、ディープマインド社含めた他のAI開発企業は“囲碁に強いプログラム”の開発に苦悩していました。

 

それまでアマチュア5段レベルが最高だった囲碁プログラムは、2012年〜2013年まで置き碁※のハンディキャップで対局していました。

 

しかし、2014年に入ってからアルファ碁の研究プロジェクトチームがDeep Learning(ディープラーニング)を使ったニューラルネットワーク※の開発に着手したところ、以前よりも大幅な改善がみられ、他の囲碁プログラムとの対戦で500試合中499試合で勝利を収めました。

 

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(出展:Medium)

 

NTTコムウェアはディープラーニングについて次のように解説します。

 

「ディープラーニングは、脳の神経回路にヒントを得た「ニューラルネットワーク」をベースにした手法であり、回路の中間部分を多層からなる構成にすることで、データの特徴を多段階でより深く学習します。近年、画期的な学習手法が開発されたことで、データの特徴をより深いレベルで学習することが可能となり、また、コンピュータの処理能力が向上したことで実用的な時間で処理が可能となりました。また機械学習では学習するデータが必要になりますが、大量かつ多様なデータをインターネットで得られるようになったこともディープラーニングの実用化に寄与しています。このような時代背景にともなって技術革新が進んでおり、さまざまな応用が実用化または検討されています。」(参照:NTTコムウェア

 

ディープラーニングにより驚異の進化を遂げたアルファ碁は、2015年、欧州チャンピンの樊麾(ファンフイ)との対戦に臨むことになります。

 

※ 置き碁とは、棋力に差がある者同士が対局する場合、ハンデとしてあらかじめ碁盤に石を置いて対局すること。対局者の実力差に応じて2~9子(碁石の数のこと)の間で調整される。
※ 樊麾(ファンフイ)は1981年生まれ。中国出身、フランス在住のプロ囲碁棋士。ヨーロッパ最強の囲碁プレイヤーと称されている。
※ ニュートラルネットワークとはヒトの脳の神経回路を数式で表したモデルである。

 

 

1-2 レジェンドとの対戦

米Nature誌によると、ファンフイとアルファ碁の対局は、AIの5戦全勝という衝撃的な結果となりました。人工知能がハンディキャップなしで人間に勝つのははじめてで、ニュースでも大きく取り上げられました。

 

欧州チャンピオン相手に勝利を挙げたディープマインド社は、過去18回世界王者に輝いた韓国のイ・セドル九段に勝負を挑みました。ファンフイはヨーロッパチャンピオンとはいえ、世界ランク600位前後、中国プロ二段だったのに対し、イ・セドルは紛れもなく世界トップクラスと評される実力者です。

 

賞金1億円、視聴者2億人以上と世界も注目した対局は、韓国・ソウルで3月9日から15日まで1週間に渡って行われました。結果、アルファ碁が4勝1敗で勝ち越し、歴史的な勝利を収めました。イ・セドルは第4局でなんとか1勝をもぎ取り、第5局で接戦に持ち込むものの、終盤に盛り返され、あえなく投了。アルファ碁は最高ランクである9段に認定されました。

 

対戦中の様子を報じた日刊工業新聞(2016年3月16日付)では、

 

「アルファ碁がイ九段を圧倒する場面では、観戦する棋士から『セドル九段相手に指導碁を打っているようだ』とため息が漏れたほどだ。第4戦でイ九段が一矢報いるまで『アルファ碁の強さの底が見えない』と悲鳴にも似た声が上がっていた」

 

と、語られました。

 

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(▲敗戦後、頭を抱える韓国・イ・セドル九段 / 出展:Phil’s Stock World)

 

トップクラスの実力者の敗北を受けて、観戦していた視聴者からは“ついに人類がAIに負けた”と嘆く声が多く聞かれました。人類のプライドはイ・セドルと双壁をなす中国・柯潔九段に託されました。

 

 

2 囲碁界トップが敗れた日〜中国・柯潔九段に圧勝~

ディープマインド社は4月、アルファ碁の次戦の対戦相手が、名実ともに世界トップである中国の柯潔九段となったことを発表します。柯潔九段は対戦前、「(アルファ碁は)イ・セドルに勝てても俺には勝てない」と豪語しており、対局に自信をのぞかせていました。

 

 

2-1 残りの持ち時間に圧倒的な差

中国浙江省で5月23日から27日に渡って開催された3番勝負はAIの3戦全勝で幕を閉じ、人類の完敗が決まった瞬間となりました。

 

第1局目で柯潔九段は粘るものの、AIが186手目で半目勝利、初戦は完敗となります。第2局目ではアルファ碁が155手で中押し勝ちし、勝ち越しを決めました。第3局目では、柯潔九段が289手で黒で1目半負けました。終始劣勢を強いられた戦いぶりに、「こんなにおされる柯潔はみたことがない」との声も聞かれました。

 

対戦の様子について韓国紙・ハンギョレは

 

「柯潔の考慮時間は長かった。双方に3時間の制限時間が付与されたが、開始から3時間半が経過した午後2時時点で、柯潔の持ち時間は30分、アルファ碁は2時間を残していた。対局が終わる頃、柯潔とアルファ碁には、それぞれ13分17秒と1時間29分6秒が残っていた。柯潔は判断が速いという従前の評価とはまったく異なる姿だった。速度だけではなかった。柯潔は序盤に固有のスタイルを捨てて極端に実利を追求したのに、終始劣勢を免れなかった」(参照:ハンギョレ

 

と報じました。

 

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(▲敗北後、落胆する中国・柯潔(かけつ)九段 / 出展:The Jakarta Post)

 

 

2-2 アルファ碁、囲碁からの引退を突如発表

ディープマインド社CEOのデミス氏はアルファ碁を囲碁から引退させる方針であることを発表しました。

 

中国と韓国のトップ棋士との2連勝を受けて、デミス氏は「最後の5日間で最高の試合を目撃することができたことを光栄に思う」と話し、今後は新たな医療方法の発見など、さらに複雑な問題である「次のレベル」に移行するため、碁からは手を引くとしました。

 

「Alpha碁の研究チームは、病気の新たな治療法の発見、エネルギー消費の大幅な削減、革新的な新素材の発明のような複雑な問題に取り組む科学者を助けることができる高度な一般アルゴリズムの開発に注力していきます。AIシステムが、こういった領域でも新しい知識や重要な戦略を発見することができれば、画期的な進歩につながることができるのです。我々は次に来るものが何なのかを待ち切れません」(参照:Google in Asia

 

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(▲ディープマインド社CEOのデミス氏 / 出展:L’Opinion)

 

人類がアルファ碁にリベンジするチャンスは与えられず、アルファ碁は次のスーテジへと歩み始めました。

 

 

3 今後のアルファ碁のゆくえ

ディープマインド社による囲碁での挑戦は、医療やエネルギー問題など実用分野で活躍するための“実験台”だったのかもしれません。開発チームは「アフファ碁のストーリーは始まりに過ぎない」とも語っており、今後の科学的分野での活躍が期待されています。

 

 


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