航空会社と乗客によるトラブルがここ最近相次いで発生しています。5月8日、米LCC(格安航空会社)のスピリットが、搭乗直前で欠航を決めたため、待機させられていた乗客たちが激怒し一部で乱闘騒ぎが発生する事態となりました。
CNNによれば、スピリットでは待遇改善を求めてパイロットによるボイコットが続いており、欠航は過去7日間で300便に上るとされます。
このほかにも乗務員が乗客を無理やり機内から降ろしたり、暴言を吐いたりとトラブルが絶えません。なぜこうしたトラブルが頻発するようになったのでしょうか。乗務員のみならず利用客のモラル低下が指摘されるなか、格安航空業界における人材不足の問題も一因となっているようです。
目次
- 1 米スピリット航空による欠航騒ぎ
- 1-1 原因はバイロットのボイコット
- 1-2 安月給で働く航空職員たち
- 1-3 LCCは人材確保が急務
- 2 こんなに多い?最近の航空トラブル一覧
- 2-1 航空会社による強制降機例
- 2-2 なぜ乱暴な客室乗務員が増えたのか
1 米スピリット航空による欠航で乱闘騒ぎ
乱闘が発生したのは8日の米フロリダ州フォートローダーデール空港で、数百人の搭乗予定客と同空港の職員および警察官が衝突しました。
空港関係者によると、騒ぎがあった当日、スピリット航空※のパイロットによるフライトキャンセル(運航拒否)がすでに数回発生していました。搭乗できなかった利用客は空港で何時間も待機することになり、9つ目の欠航発表後、業を煮やした一部が暴徒化。発券カウンターに詰め寄る乗客とそれを制止する警官らとの間でもみ合いとなり、20代の若者3人が逮捕された模様です。
スピリット航空は、現在、待遇改善に関してパイロット組合と交渉中で、その最中でのパイロットによるフライト拒否は協定違反だとして連邦裁判所に訴えを起こしました。
連邦裁判官は乱闘騒ぎから1日も経たないうちに、パイロットに対してフライト拒否のボイコットをやめるよう命じ、パイロット組合はこれを受け入れる声明を発表しました。
※ スピリット航空は1964年創業の格安航空会社で、フロリダ州ミラマーに本拠地を置く。現在、米国とカリブ海、メキシコ、ラテンアメリカ、南米で定期便を運航している。
1-1 原因は低賃金による人手不足
アメリカとカナダの5万5000人以上からなるALPA(パイロット組合※)によれば、スピリット航空とパイロットは2015年2月から待遇改善などを盛り込んだ新契約の交渉に臨んでいました。
組合によれば、スピリット航空は平均以上の利益を出しているのにも関わらず、パイロットに対して業界最低レベルの賃金しか払っておらず、組合側は給与の増額とそのほか、休暇日数などの条件改善を求めていました。
(▲ストライキを起こすスピリット航空のパイロットたち / 出典:Zimbio)
※ ALPAは1931年に設立された世界最大のパイロット組合で、米国およびカナダの30の航空会社から55,000人以上のパイロットが所属している。
1-2 スピリット、最も好まれない航空会社に
2017年5月以降は、ボイコットによりパイロットの数が大幅に不足し、CBSによれば、5月7日に定期便の約17%となる81便をキャンセル、合計300件以上のフライトがキャンセルされ、2万人以上の乗客に遅延や混乱を招き、その費用は850万ドルにのぼりました。
その結果、スピリットは、米顧客満足度指数において航空会社のなかで最も好まれない(least favorite)航空会社と評価され、スピリットの株価も、5%近く下落して54.80ドルに下がりました。
スピリット航空のロバート・L・フォーナロ最高責任者(CEO)は、同社が最低評価を受けたことについて、「(最も好まれないとの評価からの)ブランドの改善はサービス水準の向上よりもはるかに時間がかかる」とコメントしました。
さらに、パイロット組合はCBSの取材に対して「(組合と)スピリットパイロットは、過去数日間重大な問題を経験した同社の事業を回復させるために、可能な限りすべての努力を続けている」と述べました。
1-3 LCCは人材確保が急務
機内サービスの省略や座席の増設など徹底したコストカットにより実現している格安航空LCC。飛行機は、一昔前は、富裕層だけ利用できる高級な乗り物でしたが、LCCの普及により庶民の足へと変貌しました。
しかし、拡大する航空需要に人員が追いついていないと経済界の記事で指摘されています。
「LCCの隆盛は世界中の航空需要を拡大させ、飛行機を庶民の足にした。その最大のウリである低運賃を実現させたのが、低コストの経営だ。しかし一方で、安全に関して言えばLCCもフルサービスのキャリアも違いはない。同じライセンスで、同じ安全基準が求められる」
LCCのパイロット確保については
「ご存じのように、パイロットの養成には多額の投資と長い年月を必要とする。大手の航空会社であれば自社養成も可能だが、LCCのビジネスモデルでは不可能な話である。つまり、LCCではパイロットをどこかからか見つけてこなければならないのだ。ところがそう簡単には見つからない」
と指摘。続けて
「日本には日本の、米国には米国の、欧州には欧州の資格が必要であることや航空機も機種ごとのライセンスがあるため、機種それぞれに取得しなければならないからだ。しかもパイロットは高度な専門職だけに人件費は高く、人材の確保に余裕を持たせると経営を圧迫しかねない。足りないわけにはいかないし、かといって人余りにさせておくわけにもいかない。LCCはいつも人材に頭を悩ませていると言っていい」(参照:経済界 5月16日付)
と述べました。
人件費のなかでも最も高額なパイロット報酬は、LCCにとっては悩みの種。大手航空会社に比べて資金力で劣る格安航空会社の人材難は今後も続くことが予想されています。
2 こんなに多い?最近の航空トラブル一覧
(出典:CNN)
今年4月以降、米ユナイテッド航空が乗客を半強制的に引きずり下ろした事案を皮切りに、アメリカン航空によるベビーカー取り上げ騒動、デルタ航空による乗客家族の強制降機が相次いで発生しました。
2-1 最近の航空会社と乗客のトラブル
・ ユナイテッド航空によるトラブル
日付 | 内容 | 原因 |
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3月26日 | 米ユナイテッド航空がレギンスを履いていたという理由で少女2人の搭乗を拒否。騒動受けてユナイテッドは「適切な服装でない乗客に対しては搭乗を拒否する権利がある」としつつ、「一般のお客様のレギンスは歓迎します」とのコメントを発表した。 | 従業員特典付き航空券のドレスコード(服装規定)違反のため |
4月9日 | 米ユナイテッド航空が地元警察に要請し、乗客のアジア人男性を機内から無理やり引きずり降ろす。その際、男性は頭部を殴打し、出血する様子が動画投稿サイトに公開されたことで話題となった。のちにユナイテッドはこのアジア人男性に対して「深く謝罪します」とのコメントを発表した。 | パイロットが搭乗する分をオーバーブッキング(過剰予約)したため |
4月14日 | 米ユナイテッド航空がビジネスクラスに搭乗していたオーストラリア出身で、要介護の高齢女性をエコノミークラスに強制的に移動させた。高齢女性の家族は、女性が関節と首に疾患を抱えており、少しでも快適に旅行をしてもらいたいとの思いから、ビジネスクラスのチケット用意していた。 | 客室乗務員が高齢女性の介護の手伝いを拒否したため |
4月18日 | 米デルタ航空を利用した男性が、離陸前に機内のトイレ使用後、機内から降りるよう促された。男性は自発的に機内を降り、チケット買い直し、再び同じ機内に搭乗した。デルタは「離着陸のきわめて重大な段階では、乗客は乗務員の指示に従う必要がある」とコメントした。 | 飛行機が誘導路にあるとき、乗客はシートベルトを着用し、座席にいなければならないため |
4月22日 | 米アメリカン航空は、女性が機内に持ち込もうとしたベビーカーを取り上げたところ、女性は取り乱し、さらに居合わせた男性乗客と「殴ってみろ」など挑発して激しい口論に発展。その様子がSNSに投稿され波紋が広がった。その後、同社は女性とその家族に謝罪した。 | 折りたたみのベビーカーのみ持ち込み可能。大型の ものは預ける決まりのため |
2-2 なぜ乱暴な客室乗務員が増えたのか
度重なる乗務員による強制降機に対して乱暴で横柄なCAが増えたと嘆く声が多く聞かれます。
そもそもフライトにおけるオーバーブッキングは、航空会社が座席を埋めるため、定員以上のチケットを販売こともあるので、これ自体は珍しいことではありません。
米ユナイテッド航空は、オーバーブッキングについて次のような規定を設けています。
ユナイテッド航空規定 |
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航空券をお持ちで、時間どおりにチェックインされても、まれに対象フライトの座席をお客様にご提供できない場合ありますが、その際はユナイテッド航空の規定に従ってください。このような状況をオーバーブッキングと言い、対象フライトを安全に運航するために制限が適用される場合、当初予定していた大型の機材より小さい機材を使用しなければならない場合、あるいはご用意できる座席数より多くのお客様のチェックインと搭乗手続きを行ってしまった場合に発生します。 |
フライトのオーバーブッキングが発生した場合でも、コンファーム済みの座席をお譲りくださる方がいらっしゃるかどうかをお尋ねする前に座席のご利用をお断りすることはありません。 座席を放棄していただけるお客様が十分に見つからない場合、搭乗優先順位に関する当社のポリシーに基づき、お客様の搭乗を拒否させていただくことがあります。チェックインとその他の規定に従ってお客様の搭乗をお断りせざるを得ない場合は、お客様の権利とオーバーブッキング時の搭乗優先順位の決定方法を明記した声明書をお渡しいたします。お客様は補償の対象となり、振り替え便が用意されます。 |
補償に関する規約全文と搭乗優先順位に関するポリシーについては、当該空港でご案内いたします。ユナイテッド航空は、この規約に従ってお客様に適正な対応をいたします。定刻にチェックインしていらっしゃらないなど、規定を満たさない場合、あるいは元のフライトの到着予定時刻より1時間以内に目的地または最初の経由地に到着する代替輸送を提供する場合は、お客様の搭乗を補償なしでお断りすることがあります。」 |
(参照:UNITED AIRLINE)
ユナイテッド航空の場合、オーバーブッキング発生時には利用客の搭乗を拒否できると明記されています。つまり、乗客はいかなる理由があっても、航空会社の命令に従わなければなりません。理不尽とも思える航空規定ですが、ユナイテッドは搭乗客を目的地にまで安心・安全に届けるために必要な権利であると語ります。
一方、全日空(ANA)や日本航空(JAL)は、オーバーブッキング対策としてフレックストラベラー制度を導入しています。
フレックストラベラー制度 | 利用客の数が座席数を上回り、座席が不足した場合、当該便を予約済みの利用客の中から、航空会社が提示する協力金額および代替交通手段に同意し、自主的に便の変更等について了承する者を募集し、協力できる利用客に対して、協力金の支払いおよび代替交通手段の提供を行う制度 | |
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協力金 | 当日 10,000円 | |
翌日以降20,000円 | ||
マイル | 当日 10,000円 | |
翌日以降20,000円 |
実際、搭乗客による身勝手な行動により航路を変更したり、緊急着陸する例は少なくなく、航空業界では万が一のリスク回避のため、規定に違反する乗客には厳正に対処するという習慣があります。
とはいえ、相次ぐ遅延やキャンセルなど航空トラブルに対して批判的な声も多く、特に乗客との問題が立て続けに発生しているユナイテッドについては運航免許を剥奪するべきだとの厳しい意見も飛び出しました。
近年は新幹線内で座席を倒す際に後ろの人に一声かけるかどうかが話題となるなど、マナーの問題がよく取り上げられます。安全で安心な旅行を楽しむためにも、あらためて乗務員と乗客の双方に冷静な対処が求められています。