今日のビジネスでは、デジタル技術による業務改善や新事業の創出などへの活用が多く見られますが、中でも「IoT(モノのインターネット)」の活用が特に重要になってきました。現在、政府も注力しているDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の取組には「IoT」の活用が有効であり、導入される事例も少なくありません。
そこで今回の記事では、既存の会社や新設会社などがIoTを導入し、事業・業務などへ活用していく際に役立つ情報をご紹介します。IoTの特徴、メリットやDXとの関係等を知りたい方、その活用分野や活用事例、IoT導入の進め方を把握したい方は参考にしてみてください。
1 IoTの概要と現状
IoTとは、「Internet of Things」の略称で、一般的に「モノのインターネット」と表現されています。具体的には、インターネットにセンサー機器、駆動装置、車、家電製品や電子機器、などを接続させ、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスなどと相互に情報交換等をする仕組のことです。
現在の人々は、パソコンやスマホ等からインターネットに接続して情報のやり取りをしていますが、今日ではインターネットへの接続は家電、自動車、建物、設備・機器などの「モノ」も可能となりました。例えば、家電とスマホというようにモノ同士で情報のやり取りができるようになったのです。
機械同士の接続は工場などにおいてM2M(Machine to Machine)として利用されていましたが、これはインターネット経由ではありません。つまり、M2Mは工場内という限れたネットワーク環境でのモノ同士の情報交換の仕組です。
一方、IoTはインターネットという超広範囲なネットワークで利用できるモノ同士の情報交換の仕組であり、前者とは大きな違いがあります。
1)IoTの構成要素
IoTの主な構成要素は、デバイス、センサー、ネットワーク、アプリケーションです。デバイスは、情報をやり取りする機器などの「対象となるモノ」のことです。例えば、自動車、電化製品、スマホや工場等の機器・設備などですが、デバイスに次のセンサーや駆動装置(アクチュエータ)(モーター等)を含める場合もあります。
センサーは、デバイスやその付近に設置され、それらから得る物理量等のデータを取得・検知するものです。例えば、温度・湿度・光・圧力・音・振動などの物理量を検出して信号に変える検知器や感知器になります。
ネットワークは、センサーで取得したデータをクラウドサーバーやスマートフォンなどの装置に送信する通信手段のことです。具体的には、Wi-Fi(無線LANの規格)、4G・5G等の移動通信システム、Bluetooth(10M程度の無線通信)などが含まれます。
アプリケーションは、センサーで取得したデータを「可視化(使用状況の把握等)」「分析」「制御」するための手段のことで、PCやスマートフォンを使用するケースが多く見られます。
なお、これらに加えてデータを蓄積・分析するためのクラウドやサーバーが利用されるケースも多いです。
IoTの基本的な仕組を簡単にまとめると、
デバイス(モノ)に搭載されたセンサーでデータを取得
↓
それをネットワーク経由でPC、クラウドやサーバー等へ送信しデータを蓄積・分析
↓
その後は入手した情報をアプリケーションでデータを可視化・分析等
↓
デバイスの使用方法の最適化等、を実施する
という流れになります。
2)IoTで実施可能なこと
IoTでできることを簡単に紹介しましょう。
●データの蓄積
デバイスを通じて得られる多様で膨大、生成頻度が高いデータ(ビッグデータ)をクラウドのストレージなどに集めることが可能です。
●可視化
センサーデバイス等から取得した情報を元に対象のモノの状態や動作をモニタリングや可視化できます。
●制御
人間による遠隔操作のほか、プログラムからの指示でモノを制御することが可能です。
●自動化
データ分析を通じて、自動的にさまざまな処理や操作ができます。
●最適化
AI(人工知能)を活用すれば自動化のほか、条件や状況に対応した最適な処理が可能です。
●自律性
蓄積・モニタリング・可視化、制御、自動化、最適化などの機能が融合された場合に、それを有するモノは、高い自律性を備えられます。高い自律性を備えたモノは、人間の操作なしの(無人)運用も可能です。例えば、鉱山等の採掘作業において無人で建機を操作できます。
以上の機能を利用すると、IoTは以下のようなことが可能です。
(1)モノの遠隔操作
IoTは、「離れた場所に存在するモノを遠隔で操作する」ことを得意としています。例えば、自宅のエアコンや給湯器などを帰宅の途中でスマホから電源スイッチをONにして稼働させ、温度や風量等の設定を行う操作などが可能です。
また、自宅のビデオ(屋内用ネットワークカメラ)を外出先から操作して室内の様子の映像をスマホで見ることも可能で、屋内のペットや要介護者の様子を確認する「見守りカメラ」などが普及してきました。
(2)モノの状態や動作の検知
IoTは「離れた場所に存在するモノの状態や動作に対する検知」も得意です。先ほどのエアコン操作の例における温度や風量の調整はこの機能により実現されます。室内の温度を「検知」して、次の温度の「最適化」へ繋げられるわけです。
IoTでは家電などのモノに組み込まれたセンサーがモノや周辺状況等の情報を取得し、インターネット経由でそのデータを送受信するため、それらの状態や動きを把握できます。
そして、その取得・収集したデータを一定のルールに基づいて次の操作に繋げるという行為が実施されていくのです。
このモノの状態・動作を検知する機能もビジネス上有用です。工場の機械や消費者の自宅の家電などの製品について、この機能を利用すれば、その利用者やモノの利用状況(頻度や時間等)が把握できるため、より望まれる製品の開発に役立ちます。
既存製品の改善や新商品の開発に関するこれまでのマーケティングでは、使用者の意見をアンケート調査などで確認するといった手間・時間・コストがかかる方法が取られていました。
しかし、IoTの機能を活かせば、そうした情報を瞬時に低コストで入手できる上、客観性・信頼性が高い情報を根拠にした製品の改善・開発が可能となるのです。
(3)インターネット経由のモノ同士のデータ通信
「インターネットに接続したモノ同士でのデータ通信」も重要な機能ですが、この機能により、電子機器などの複数のモノの自動操作が実現します。
例えば、自動運転車への応用などです。IoT化された信号機と自動車の間では、信号機のデータが自動車で受信され、その情報に基づいて車が自動で速度を調整する、道路の混雑状況を共有し信号機が待ち時間を調整する、などの操作が実現されます。
また、スマートホームでは、IoT化されたAIスピーカー・家電・家具が連携し、AIスピーカーに指示を出せば、エアコンや照明のON・OFF、お風呂への給湯、カーテンの開閉などの自動操作が可能です。
こうしたモノ同士のデータ通信機能は、都度の人間の判断によらない自動操作、状況判断に基づく即時処理を可能とするため、多様なビジネス場面への活用が期待されています。
1-1 IoTの市場状況や利用分野等
IoT関連の市場や利用分野などを見てみましょう。
1)IoTの市場規模
IDC Japan株式会社が2022年4月4日に同社サイトで公表している情報によると、国内IoT市場におけるユーザー支出額は、2021年の実績(見込み値)で5兆8,948億円です。その後、2021年~2026年の年間平均成長率(CAGR)が9.1%で成長し、2026年には9兆1,181億円に達する、と同社は見込んでいます。
IoT市場を産業分野別で見た場合、2021年時点のインダストリー分野でのIoTに関して支出額が多い産業分野は、組立製造、プロセス製造、官公庁、公共/公益、小売、運輸、です。製造業の支出額が大きい理由として、以下の点が挙げられています。
・国内GDPに占める製造業の割合が大きい
・製造業向けの政府の支援施策が多い
・生産プロセスのスループット向上、最終製品の品質レベルの監視、生産に関係するリソースの最適化、エネルギーコストの削減、事業の持続可能性目標の達成、コンプライアンスへの柔軟な対応、生産設備のリモート診断/予知保全、障害発生時の原因究明、などの幅広い用途で活用が進んでいる
また、社会インフラの老朽化対策や交通システムの高度化施策の拡大、スマートグリッドに対する支出の継続的な増加、サプライチェーン間を横断するようなIoT活用の拡大などが、これらの産業の支出額を押し上げています。
加えて、こうした産業分野のIoTだけでなく、消費者のIoT支出額規模も、スマートホーム・オートメーション、スマートホーム・家電などのユースケース(使用者目線の実行内容や機能等)が牽引して、2023年以降には主要産業分野の中で最大規模の支出額になるとの予想です。
産業全般で見た成長性の高いユースケースでは、スマートホームのほか、院内クリニカルケア、小売店舗内リコメンド、スマートグリッド/メーター(その他)、テレマティクス保険(運転データに基づく保険)、コネクテッドビル(照明)、農業フィールド監視、などが挙げられています。
これらの分野は、2021年~2026年の予測として、CAGR 15%前後の高い成長が期待されているのです。
また、IoT市場に対するテクノロジー視点による考察では、クラウド、アナリティクス・AIなどの技術が飛躍的に発達したことで、それらの活用に関する技術/コストの障壁が急速に低下し、それにより全産業においてIoTが以前に比べ効果的かつ手軽に利用できる環境になってきたと指摘されています。
例えば、IoTクラウドプラットフォームやアナリティクスソフトウェア、それらに付随する各種の導入サービス/運用サービス、などに対する支出を継続的に増やすハードルが下がってきたのです。
その結果、製造業などでは、IoTを活用して従来型の「もの売り」ビジネスから脱却し、デジタルビジネス(デジタル技術の活用による新たな価値を生み出すビジネス)へのシフトが容易になってきました。
こうした背景から、IoT向けのソフトウェアやサービスといった技術グループへの支出額の割合が次第に増え、2026年には全体の50%以上に達するとの見込みです。
なお、同サイトでは「国内IoT市場技術別の支出額規模予測と支出額割合、2021年と2026年の比較」の資料が掲載されており、技術分野別の市場規模が確認できます。その内容よると、技術分野と市場規模は以下の通りです。
●ハードウェア(2021年:5兆8,948億円の45.2%→2026年(予想):9兆1,181億円の41.1%)
・センサー/モジュール
・セキュリティHW/その他HW
・サーバー
・ストレージ
●コネクティビティ(ネットワーク)(2021年:10.9%→2026年(予想):8.7%)
●ソフトウェア(2021年:15.2%→2026年(予想):17.8%)
・IoTプラットフォーム
・アプリケーションSW
・セキュリティSW/その他SW
・アナリティクスSW
●サービス(2021年:28.7%→2026年(予想):32.5%)
・導入サービス
・運用サービス
同社の調査および分析では、国内IoT市場技術別で見た場合、ハードウェア分野が40%台と最多の割合を占めています。2026年では同分野はやや減少し、サービス分野とソフトウェア分野が伸びるとの予想です。IoT関連の製品・ソフトウェア・サービスの分野へ進出する場合などはこうした市場状況も参考にしてください。
1-2 IoTのメリット・デメリット
IoTを導入する場合のメリット・メリット、導入しない場合の影響などを紹介しましょう。
1)メリット
●信頼性・客観性の高いデータの取得
生産等の業務プロセスをIoT化していくと、対象のモノから信頼性・客観性の高いデータを効率的かつ迅速に取得できます。ユーザーがどのように対象の製品等を使用しているか、それらがどのように稼働しているか、どんな状況で故障したのか、いつの時間帯に使用が集中しているか、など様々な情報がデータとして蓄積することが可能です。
それらのデータを分析し、製品の改善や新開発に活用したり、適切な使用方法を考案したりして、事業内容の質を向上できます。生産プロセスなどでの計測しにくいラインの作業状況もIoT化によるデータ収集・蓄積で実態が把握でき、データに基づく合理的な対策が実施できるのです。
●生産性の向上
IoT化によるデータの収集とその活用は、業務プロセスの改善に繋がり生産性向上に有効です。具体的には、IoT化による作業効率の向上、業務の省人化、故障の低減、などで生産性の向上が期待できます。
例えば、工場内の生産ラインや生産設備の稼働状況をリアルタイムで離れた場所からモニタリングできれば、点検や巡回の業務などで人員を適正化でき削減することも可能です。
設備・機器、ロボットなどの稼働データを取得して、故障やトラブル(不良品等の発生など)の予兆を検知するようにすれば、ダウンタイムの発生を防止し機会損失を低減できます。
もちろん設備・機器の制御をIoT化で自動化すれば、それまでの人間の操作に伴うミス・事故を防ぐことも可能です。また、担当者の知識や経験に基づく暗黙知に頼った作業なども、IoT化で客観的なデータに基づくシステム化された作業へとシフトできます。
●イノベーションや新ビジネスの創出
IoTの導入より業務プロセスの改善だけでなく、今まで想定されていなかったような高度な作業、パフォーマンスや安全性などを生み出すイノベーションの実現も可能です。
例えば、店舗、物流倉庫や工場などの在庫情報をネットワークから収集・一元管理して、それに営業情報(プロモーション情報等)を事前に加え生産計画に反映すれば、日々の生産量を自動で最適化できるようになります。そうすれば、品切れによる販売ロスを防ぎ、作り過ぎによるムダの削減も可能です。
また、設備機械や建機などの運用をIoT化すれば、稼働状況やそのモノの状態が把握できるようになるため、より効率的な稼働と適正な操作が可能となることから、機械等の長寿命化、点検・修理等のコスト削減等に加え事故の予防も期待できます。
こうした業務の効率化、コスト削減や故障の低減などは生産性の向上だけでなく、新たなビジネスにすることも可能です。自社のIoT化のノウハウを他社に提供するというIoT導入支援サービス(生産計画の最適化や歩留まりの向上などを目的としたIoT化等)や保守サービスなどが展開できるでしょう。例えば、販売した機器等に対するIoT活用の保守サービスをオプション等として提供すれば、自社への顧客満足度の向上に繋がり顧客を囲い込むことも期待できます。
また、対象物やシステムのIoT化により、それらから様々なデータを収集・蓄積することが可能となり、それらを数値化・可視化して新サービスとして提供することが可能です。例えば、体に装着できる器具(ウェアラブル機器)をIoT化すれば、それからの情報で体の状態を把握し健康に関するアドバイスを提供するというサービスに繋げられます。
2)デメリット
IoT導入には以下のようなデメリットも存在します。
●導入や維持にかかる費用
業務プロセスにIoTを取り入れる場合、センサー、制御装置(PLC)、ネットワーク、クラウド、サーバーやソフトウェアなどに関する初期費用が発生します。また、IoTの導入や運用に伴い人材の雇用も必要となるほか、運用してからの電気代や保守等に関する維持費用も避けられません。
IoTの導入費用は下がってきていますが、実現する機能や業務の内容などによりそのコストは大きく変わることになり、内容次第では大きな負担になりかねません。
例えば、特定の機器にセンサーを取り付け、稼働状況をモニタリングする程度なら低コストで済みますが、工場全体をIoT化する場合などは、億円を超える費用も必要です。また、工場全体を対象とする場合、生産システム全般を見直す必要があり、精緻な導入計画の策定が求められます。
それに伴って人員配置の見直しや従業員の訓練なども必要となる大掛かりなプロジェクトになるため、IoTの導入に対する費用対効果の確認が欠かせません。
●セキュリティの確保
IoTシステムはインターネットを利用したデータの送受信で稼働することから、サイバー攻撃等の不正アクセスからシステムを守る必要があります。サイバー攻撃によりIoTシステムが稼働できなくなるほか、自社情報や顧客情報などが流出するといった被害が生じる可能性も低いとは言えません。
実際、過去にIoTシステムを襲うサイバー攻撃(不正・有害な動作をもたらすソフトウェアのマルウェア等)が発生しています。IoTシステムはセキュリティ面での脆弱性があるにもかかわらず放置されているケースも多く、そうした状況により悪意のある者の標的とされやすいのです。
サイバー攻撃を受ければ、その業務システムがダウンするだけでなく、重要な情報が流出し大きな被害を受けかねないため適切なセキュリティ対策が求められます。
●IoT人材の確保
業務プロセス全体や工場全体などの高度なIoTの導入を進める場合、専門知識を持ったエンジニアなどのIoT人材の確保が必要です。自社内の技術者などを育成するか、専門知識を有する技術者等を採用するか、という課題に迫られることになります。
ただし、IoT導入が各産業で注目されていることもあり、対応できる専門人材の需要は大きく、新たな人材を採用することは容易ではありません。そのため採用にかかるコストと時間が大きくなることについて認識しておく必要があります。
なお、既存の従業員を育成する場合でも研修費用などのコスト負担は避けられません。
3)IoTを導入しない場合の不利益
IoTを導入しない場合、上記のメリットを享受できないため、導入している事業者と比べ競争力を低下させる恐れがあります。
業務プロセスのIoT化に伴い導入コストと運用コストはかかるものの、これまで以上の業務の効率性、生産性を高めることも可能となり、導入していない企業に比べ競争優位性を高めることが可能です。つまり、既存の市場競争で勝ち残れる可能性が高くなります。
逆に導入していない企業では競争力が相対的に低下し、市場から退出する可能性が高くなるというリスクが生じるのです。
また、IoT化を製品・サービスの品質向上に繋げれば、自社に対する顧客・ユーザーの信頼度が増し、これも相対的に自社を有利にします。他方、導入していない企業では、そうした信頼度に差がつけられるため、顧客等を失う可能性が高くなってしまうのです。
さらにIoTを導入していない企業では、IoTシステムから信頼性の高い様々なデータを集め分析・可視化してイノベーションや新ビジネスを創出する取組ができません。つまり、IoTを導入していない企業は、成長できる機会を相対的に少なくさせてしまうことになるのです。
1-3 IoTとDXとの関係
ここではIoTとDX(デジタル・トランスフォーメーション)との関係について簡単に説明しましょう。
DXとは、デジタル技術を活用して、業務プロセス、商品・サービス、事業・経営、社会制度、組織文化を変革する取組を指す概念です。一方、IoTはこれまで確認してきた通り、「モノにインターネットを接続してより便利に利用する、効率的に運用する」仕組を指します。
つまり、IoTはデジタル技術を活用して実現される仕組であり、DXの実現のために活用されることもあるです。従って、IoTはDXを実現するための1つの手段であり、構成要素の1つになります。
IoTを利用して、自社の業務プロセスに変革をもたらし、顧客や市場などに新しい価値を提供できるようにすれば、その取組はDXと呼べるでしょう。
2 IoTの活用方法と事例
ここでは製造業のほか、小売業や飲食業などでのIoTの導入事例を紹介し、その活用方法を説明しましょう。
2-1 製造業のIoT導入事例
経済産業省関東経済産業局が公表している「中小ものづくり企業IoT等活用事例 概要資料」(中小ものづくり企業取組事例)から事例を紹介します。
1)工作機械の稼働状況を可視化するIoTシステムの開発
●企業概要
・企業名:飯山精器(株)
・所在地:長野県中野市草間1162-15
・事業内容:油圧関連、情報通信関連、OA関連、その他産業機械部品製造
●IoT活用の経緯・概要
・IoT導入前の現状・課題
同社は、少量多品種生産体制への移行途上で、顧客から見積回答の迅速化、短納期対応が強く要請され、その結果、生産管理業務の煩雑さが問題になっていました。
・課題解決にIoTシステムを開発
上記の課題に対し、同社は生産管理システム「iPro」を独自開発しましたが、設備の稼働が見たいという現場からの要望に応えるため、工作機械の稼働状況を可視化するIoTシステム「i-Look」を開発したのです。
i-Lookは、三色灯(機械の稼働状況などを知らせる表示灯)の光をセンサーで読み取り、稼働状況を蓄積する機能を有しています。工作機械の電気的な信号を取得しない利用方法であるため、古い工作機械でも稼働状況の取得が可能です。
また、同システムは配線などの複雑な作業も不要で、取得情報は社内のPCに蓄積できるという扱いやすさも魅力となっています。設備の稼働状況については、「緑色=稼働中」、「黄色=電源がonだが停止状態」、「赤色=アラームが出ている設備」などの色で把握することが可能です。
また、過去の設備の稼働状況を時系列で表示できる、離れた場所から工作機械の稼働状況が分かる、という特徴もあり、同社以外の生産現場での利用が可能であるため、「i-Look」の外販が開始されました。
●IoT活用による効果
・工作機械の稼働状況の可視化により生産管理が向上
i-Lookの開発により、自社工場の工作機械の稼働状況が可視化でき、これまでの生産管理での煩雑さの改善に役立っています。
・IoTシステムの外販という新規ビジネスを開始
上記の通り、i-Lookは古い工作機械でも三色灯の利用により導入が容易に進められます。また、同システムの、三色灯の近くに取付けるだけの簡単な設置、複雑な配線作業等が不要、導入台数が100台まで対応可能、などの特徴も魅力です。
こうした特徴により外販ビジネスが開始され、その成長が期待されています。
2)部品の3Dデータ制作から試作品製作までの一貫サービスの開発
●企業概要
・企業名:Apex(株)
・所在地:東京都八王子市松木9-1
・事業内容:自動車部品の開発、製造および販売
●IoT活用の経緯・概要
・IoT導入前の現状・課題
同社は自動車向け部品の製造会社で、従来は、市場を見越して生産する企画型の後付け部品製造を行なっていました。その部品の試作品製造では、手作業による測定等の工程があり、十分な精度が得られず試作品の作り直しが問題となっていました。
・IoT導入
同社は数年前から新規事業である3次元技術ソリューションサービス(リバースエンジニアリング・モデリングによるデータ制作、測定したデータに基づいた試作等)を推進しています。
このサービスの拡大のため、国の補助金を活用して、最新の非接触三次元測定機、CAD、5軸マシニング切削加工機を購入し、測定から試作までを一貫して対応できる新ソリューションサービスを構築し提供できるようにしたのです。
具体的な内容は、5軸切削加工機を制御するプログラムを測定データから自動生成するソフトウェアの調達→自社で測定した3Dデータに基づく試作用の加工パスの作成→そのデータから切削加工を自動で行える仕組み「ダイレクト切削加工」の構築が進められました。
●IoT活用による効果
・精度向上による試作の迅速化および作り直しの低減
3次元計測データの利用により、劇的に試作品の精度が向上し、試作品を作り直す工程が不要になるほか、試作の納期が短縮化されています。
・属人的なスキルに頼らない業務へ
「ダイレクト切削加工」システムの構築により、属人的な加工スキルに依存しない業務が可能となり、熟練技能者の高齢化等に伴う人手不足へ備えることが可能となりました。
・他社との差別化
上記システムにより、試作品の納入スピードが強みとなり、他社との差別化が図れて事業拡大に活かされています。
3)成形機のデータの取得・管理から製品情報の迅速な追跡等へ
●企業概要
・企業名:(株)笠原成形所
・所在地:新潟県南魚沼市五日町335-1
・事業内容:プラスチック成形業
●IoT活用の経緯・概要
・IoT導入前の現状・課題
同社の主な事業は、射出成形による自動車分野のコネクタ部品や、医療分野の内視鏡部品の製造・仕上げ・検査です。
従来、製品製造に関する各種の管理が紙媒体で実施されており、その煩雑な作業により手間と時間を多く要するという問題が生じていました。そのため、各種情報の簡便な管理や製品情報の迅速な追跡システムが必要だったのです。
・IoT導入
同社は様々なメーカの射出成形機と接続できる生産管理システムMICSを12年前にムラテック情報システムから導入しました。同社では毎年カスタマイズを行い、従業員がデータ分析までできる仕組みを構築しています。
MICSは、成形品の製造時に金型のショット信号を取得する機能を持ち、そのショット信号等データから、どの製品をどれくらい製造しているかを検知し、生産管理とリンクさせることが可能です。具体的には、各機械の稼動中、停止中等を色別に可視化して稼動状態の追跡ができます。
こうした生産データの蓄積によって、直近数カ月間の注文・生産データの分析ができるようになっており、今後の受注動向の予測や、効率的な製品管理が可能となりました。
●IoT活用による効果
・製品情報をリアルタイムで追跡可能
上記システムにより、データで各種生産情報を管理できるようになり、情報同士が繋がって製品情報を即座に追跡することが可能となっています。そのため、従来の紙媒体による管理に伴う手間や時間から解放されたのです(生産性の向上、コスト削減)。
・データに基づく在庫管理
データの蓄積により、データに基づいた在庫管理が実現でき、今後の受注動向予測、それに基づく材料在庫の確保や、製品製造量の調整、など効率的な製品管理の実現に役立っています(在庫コストの削減、適正生産の実現)。
・認証取得時にも有効
受注から発注までの全データをシステム内で管理できるため、ISO等の認証取得時の審査において、実績の提示等が容易となり円滑な対応が可能です。
2-2 IoT導入支援企業の事例
IoT導入を支援する企業の事例を紹介しましょう(先ほどの経済産業省の資料から)。
1)現場のデバイス制御も可能なIoTプラットフォームの提供
●企業概要
・企業名:(株)インフォコーパス
・所在地:東京都目黒区下目黒三丁目5番1号 梶浦ビル5階
・事業内容:エンタープライズIoTプラットフォーム、IoTサービス開発、IoTコンサルティング
●IoT活用の経緯・概要
・IoT導入前の現状・課題
同社は、国内でのIoTの普及が進展しない理由として、どのようなシステムを作ればいいか、何から着手すればよいかが分からない、検証環境の構築コストが高すぎる、などが理由と認識し、そうした導入を希望する企業の課題を解消するためにIoTプラットフォームが有効であると考えて開発を進めました。
・IoT導入支援
同社は、センサーデータの収集から蓄積、可視化のほか、フィードバック/フィードフォワード制御までの機能をワンパッケージ化し、クラウドサービスとして提供可能な、IoTプラットフォーム「SensorCorpus」を開発し、そのサービスを提供しています。
●活用するユーザーのメリット
・IoTシステムに必要な機能をオールインワンで利用可能
同社のIoTシステムは、取得データの可視化、通知、分析等の諸機能のほか、クラウド上でデータ分析した結果を元に、現場のデバイス等の制御機能まで、IoTの実現に必要な機能がオールインワンで実装されています。そのため、ユーザーにとっては導入での技術やコスト面の負担が小さいです。
・気軽に試せる安価なサービス
同システムは、データ流量に応じた従量課金、クラウド環境を選ばない自由度の高さ、などユーザーが気軽に試せる優しいサービスとなっています。
・外部ツールとの優れた連携性
CRMなどの各種ツールと拡張API(インターフェース)で連携ができるため、ユーザーにとって利便性の高いシステム導入が可能です。IoTシステムの技術、導入コストや運用などに不安のある企業は、こうしたIoTプラットフォームの活用は有効であるため、このサービスのニーズは今後も高まっていくでしょう。
2-3 小売業のIoT導入事例
製造業だけでなく流通業などにおいてもIoTの導入・活用が進展しています。
1)IoTを活用した「次世代型コンビニエンスストア」の共同実証実験
●企業概要
・企業名:株式会社ファミリーマートとパナソニック社による共同実証実験
●IoT活用の経緯・概要
・IoT導入の目的
パナソニック社がファミリーマート社とフランチャイズ契約を締結し、ファミリーマート佐江戸店を実際に運営する実証実験が開始されました。
実際の店舗運営の経験をもとに、パナソニック社の強みであるエッジデバイス(末端の装置)が活用され、現場データの収集から、それを店舗運営の効率化や売上アップに繋げるソリューションへの活用、データ経営の実践・検証を目的として、この取組が進められました。
・IoT導入
店内に80台以上のカメラやセンサーを設置し、来店者の動きや商品の売れ行きなどの詳細なデータを収集し、以下のような取組を通じて業務の効率化が進められたのです。
(1)顔認証決済/物体検知による新しい買物体験の提供
画像処理によるレジでの商品読み込みや、顔認証技術による入店管理・決済が実施されました。顔認証は顔の向きや経年変化、メガネなどにも影響されにくいため、円滑で確かな買物体験が実現でき、店舗付加価値の拡大と従業員の業務省力化に役立ちます(パナソニック社員限定で実施)。
(2)業務アシストシステムによるタイムリーな店舗内状況の把握
カメラやセンサーによるセンシングで、店舗のデジタル化が実施されました。従業員は、欠品情報や混雑状況などが表示される小型のウェラブル端末を装着することで、リアルタイムで店舗内状況を把握できます。
このシステムにより販売ロスの減少、的確な業務の実施が可能となり、業務の省力化と店舗QSC(品質・サービス・清潔さ)レベルの向上に役立っています。
(3)店内POP・電子棚札の設置による作業の効率化
以前は手作業で行っていた商品の価格表示や店内POPの作成・入れ替え業務が、約2000個の電子棚札を活用して電子化され、確認・実施の作業が効率的になるなど、店舗オペレーションが大幅に効率的になりました。
(4)様々な情報の取得からデータマーケティングに活用
従来のPOSデータ、店舗内のカメラやセンサーによる情報、スマホアプリによるアンケートのデータ、などの情報が組み合わせられ、お客にとって利用しやすい店舗レイアウトや棚割り、品揃えなどに活かされています。
こうした店舗等の各種データの活用により、店舗運営の最適化や販売促進の向上も可能です。
(5)モバイルオーダーと商品デリバリーで商圏拡張を実現
店外からスマホアプリによる注文・決済が可能となっており、業務の効率化に役立っています。注文を受けた商品のデリバリー対応は、商圏の拡大にも有効です。
●IoT活用による効果
上記の取組は実証実験として実施されたものです。コンビニなどの小売業の店舗では店舗オペレーションの省力化が課題となっており、IoTを活用した各種のソリューションが店舗オペレーションの改善に貢献することが期待されています。
2-4 飲食業のIoT導入事例
ここでは飲食業でどのようなIoTシステムが活用されているか、その内容を紹介しましょう。
1)リストバンド型のコールシステム
AIやIoTが飲食店のオペレーションで利用されていますが、その1つが「リストバンド型のコールシステム」です。
これは、お客が注文すると、スタッフは装着したリストバンドでそのオーダーを受信し、お客の要望を迅速に把握できます。例えば、株式会社エスキュービズムの「noodoe(ヌードー)」というIoT製品では「お客が卓上のサービスキューブを倒すだけで、店員に要望を伝える」ことが可能です。
キューブの各面には、「お水」「次の料理」「片付け」「会計」「呼び出し」などの用件が表示されており、お客は自分の要望に合致する表示内容の面を上にして置くだけで、瞬時に店員のリストバンドにその用件とテーブル番号が表示されます。
そのため「いちいち店員を呼んで用件を伝える」という手間が省略され、店舗オペレーションの効率化や、お客の待ち時間の削減などが可能になります。また、待ち時間などを計測し対応履歴としてデータベース化ができるため、そのデータ分析によるオペレーション改善にも利用できるのです。
2)店内カメラによる業務の最適化
店内に設置したカメラをIoTシステムとして利用すれば、飲食店での業務オペレーションの向上やセキュリティ強化が期待できます。
例えば、レジでの会計でお客を待たせる、注文を聞くのが遅い、料理を出すのが遅れる、などが飲食店で多く見られますが、カメラを利用したIoT化で店内業務を改善することが可能です。
店内のレジやお客のテーブル、料理場などにネットワークカメラ(防犯と店内ビューの兼用等)を設置すれば、バックオフィスや店外でその状況が確認できます。
店内の込み具合、スタッフの稼働状況や顧客対応などが把握でき、お客への店内の混み状況の案内、店舗オペレーションの改善やスタッタ教育などに利用することが可能です。
また、AIセンサー付き(顔認証エンジン搭載のAI等)のカメラとレジを連携すれば、来店客数と売上の管理、売上の予測分析などができます。性別・年代・新規/リピーターなどで分類してデータを可視化すれば、マーケティングに活用することも可能です。
さらにレジ回りのカメラでは、会計での不正行為などトラブルの対応にも役立ち防犯面の強化に繋がります。
3)スマホ1つでの注文から決済
飲食店の注文から決済までが、お客のスマホで完結できるIoTシステムが登場してきました。例えば、Bluetoothを用いたビーコン技術で、お客のスマホとの連携を図り、その情報とPOSシステムとの連携を取ることで、お客の来店の認識、スマホからのメニューの選択および注文、決済ができるのです。
お客はスマホから注文して決済まででき、レジでの支払なしで店を去ることが可能で、店側ではスタッフが注文の聞き取りやレジ業務から解放されるというメリットが期待できます。
3 IoTのビジネス活用における成功ポイント
各企業がIoTを導入して、そのビジネスで成功するための重要なポイントを説明しましょう。
3-1 IoTの理解
IoTを活用してビジネスで成功するためには、IoTがどのようなシステムで、何ができて、どんな効果が得られるか、という理解が不可欠です。
IoTは「モノのインターネット」と言われるように、器具や機械等のモノをネットワークに繋ぎ、それから得られるデータを集め分析するなどして、何かを実施しようとする一連のシステムと言えます。
その「何かの実施」には、データの蓄積や可視化、機械等の制御、生産工程等の自動化や最適化、建機等の自動運転、などが含まれ、活用範囲は幅広いです。
そうした活用の結果、業務の効率化や高度化だけでなく、これまでの業務プロセスで不可能だったことや思いもしなかったことが実現できることも少なくありません。
そのため自社の状況とIoT化の方法がマッチすれば、会社に利益をもたらし成長へと導いてくれます。しかし、逆に言うと、様々なことができる一方、マッチしない内容で導入していけば、そうしたメリットが得られません。
そのため、成果を得るにはIoTに対する的確な理解が第一に優先されます。まず、IoTの仕組、構成要素、やれること、得られる効果を把握しましょう。
3-2 業種業態や各企業の状況とIoTの適合
モノをネットワークに繋ぎそのデータを活用すれば、何らかの効果が期待できますが、業種業態や各企業の状況と導入するIoTシステムが適合しなければ、良好な効果は得られません。
IoTの実現にはその業務プロセスに適した技術要素を含むシステムが必要であり、業種業態のほか、各企業の状況にマッチした構成内容等が求められます。
業種や業態が異なれば、ビジネスにおけるユースケース(ある機能の実行内容)や商流、レギュレーションも変わるはずです。また、各企業の業務プロセスの内容、IT化のレベルなどの状況のほか、競争環境、経営の目的や課題なども異なってくるため、IoT化の内容は各企業により違ってきます。
IoT導入を進める場合、自社の社員が中心となって進める、IoT導入支援会社のサポートを受けて進める、などのやり方がありますが、どちらにしても上記の状況等の違いなどを反映した導入が欠かせません。
3-3 価値と競争優位の創造
IoT導入では、業務の効率化、利便性の向上に留まらず、ビジネスでの成功に直結する競争優位性の獲得やイノベーションの実現に繋げることが重要です。
IoT導入は、既存の業務プロセスに様々な効果をもたらしますが、その事業でのコスト・時間・品質などの面で格段の向上を実現し、かつてなかった価値を提供できることがあります。
その価値が顧客満足度を高め、結果的に自社の競争優位性を高めて成長に繋がるようになるのです。
また、こうした新たな価値の創造は、別の事業として展開できることもあります。自社が開発したIoTシステムを異業種などに展開するというコンサルティングビジネスや、そのIoTシステムを活用した他業種への進出、なども不可能ではありません。
IoTで実現できることは様々ですが、IoT導入の最終的な目標の中に、新たな価値の創造や競争優位性の獲得を含め、段階を踏みつつ目指していきましょう。
3-4 段階を踏んだ導入
IoTを含む業務プロセスのIT化やIT投資には、その企業の実情に見合った導入が不可欠です。
IoT導入にあたっては、それに関する技術や運用ノウハウが必要となるとともに、導入や運用のコストもかかります。そのため、現状では不可能なこと、運用が困難なこと、効果が低いことなどに、取り組めば時間、労力と資金を無駄に費やすことになりかねないため、自社の実力や状況に適した導入が必要です。
自社の社員が中心となって進める場合は当然ですが、サポート会社やIoTプラットフォーム会社などの支援のもとで進める場合でも、目標を高く掲げ過ぎずに段階を経て運用能力等を高めつつ確実に進めることが望まれます。
例えば、特定のプロセスや機械等に関する作業の効率化から始め、次に複数のプロセス等への展開、さらに得られたビッグデータに基づくプロセスの変革や新たなビジネスの創造、などへと進めるとよいでしょう。
4 IoTを導入する際の進め方
既存の企業や新設会社などがIoT導入を進める際の手順ついて、経済産業省中国経済産業局の「中小企業IT/IoT導入ロードマップ【本編】」をもとに説明しましょう。
4-1 検討体制の整備と計画の作成
最初の作業は、自社のIoT導入に向けた検討体制を整備し、着実に検討を進めていくためのスケジュールや計画を策定することです。具体的には以下のような項目で進めます。
1)検討リーダーの選定
IoT導入を検討していくためには、社内の各部門から導入に関連する情報を収集しながら進めていかなければなりません。また、ITベンダーなどのサポート会社の支援を受ける場合では彼らとの情報のやり取りも発生します。
IoT導入は、様々な人・組織との連携や協力などによって推進されることになるため、導入プロジェクトを円滑に進めるには、IoT導入の検討に従事するリーダーも必要です。
プロジェクトの規模や内容によりますが、リーダーの作業量が多くなる場合には、検討チームの形成も考えましょう。
2)スケジュールの作成
ここで示すIoT導入の全行程は5つですが、各工程とその作業について目標時期(目安となる時期等)を設定することが不可欠です。ただし、詳細なスケジュールに関しては、検討を進める段階で精緻化すればよいでしょう。
4-2 問題提起と課題発掘
以下の作業を進めて行きます。
1)導入目標の設定
自社にIoT導入を行う目標を設定します。一般的には、自社で発生している問題点やニーズなどを現場目線で幅広く洗い出して設定する「ボトムアップアプローチ」と、経営層の主導により設定する「トップダウンアプローチ」が利用されるケースが多いですが、自社に適したほうを採用するとよいでしょう。
●ボトムアップアプローチの進め方
自社の事業活動の様々な場面から、現状の問題点、今後期待されるニーズなどを幅広く抽出し、IoTの利活用が望まれるIoT導入目標を設定します。
自社の各種の部門から意見を集め、その意見を「適宜グルーピング→問題点やニーズの分類→期待される分野の特定」という手順で目標の設定へと繋げるのです。
なお、ここでは、1つの分野に関して詳細に洗い出すのではなく、自社で発生している事項を網羅的に抽出するように努めましょう。
●トップダウンアプローチの進め方
経営者層がIoT導入目標を設定し、検討リーダーに指示する、という方法がトップダウンアプローチです。自社で作成している経営計画などの経営目標を踏まえ、その達成に結び付くIoT導入の目標が設定されます。
2)課題抽出と最重要課題の設定
IoT導入目標の実現のために解決しなければならない課題を、社内で協力を得て抽出しましょう。そのために以下のような作業が必要です。
●現状調査
課題抽出を効果的に実施するには、業務フローやシステム構成資料などを準備して現状を把握する必要になります。システム構成資料などは、それらを開発したITベンダー等の納品物に含まれていることが多いため確認しましょう。
また、現状分析には、類似の導入目標に取り組んでいる同業他社の事例や、既存のシステム事例などを調査するのも有効です。
●課題の洗い出し
設定した導入目標を達成する上で、自社業務や取扱商品・サービス、顧客との関係などで、発生している課題を幅広く洗い出す必要があります。課題の洗い出しでは、検討チームメンバーによる業務内容の把握が基本になりますが、必要に応じて関係部門の担当者へのヒアリング等も行い抽出するとよいでしょう。
各部門からの情報提供が多いほど、重要課題を漏れなく抽出できるはずです。
●課題のグループ化および因果関係の整理
まず、各部門から得られた課題について、類似するものをグルーピングして、課題の数を絞ります。なお、その課題については、各々の関連性や因果関係を確認して整理しておくと、解決策を効率的かつ的確に検討することが可能です。
●最重要課題の設定
次に、洗い出した課題の中で、導入目標を達成するうえで特に解決が必要な最重要課題を設定します。多数の課題が抽出された場合、全ての解決策を検討するのは困難になるため、以下のような条件に該当する課題などは一旦外して、課題を絞り込むことも必要です。
- 課題を解決してもIoT導入目標の達成効果が小さい場合
- 想定される解決策が、費用・時間・技術などの面において実現性が低いと想定される場合
4-3 IoT導入の必要性の検討
IoT導入の必要性を明確にします。
1)解決策の検討
IoT導入目標の達成には最重要課題の解決が優先されるため、その解決策を以下のような手順で洗い出します。
●最重要課題に対する解決策の検討
まず、最重要課題の解決策の検討が必要です。なお、解決策として、IoTの利活用以外の方法が有効であるケースも少なくないです。課題の解決が優先され、その最も適した方法を採用することが重要であるため、IoTありきで解決策を検討するのは適切ではありません。
人的な対応が中心の方法でも有効ならIoTシステムと切り離しての検討もしましょう。
●解決策の評価
課題や解決策が多くある場合、限られた経営資源(人材・資金)の中で実施する必要があるため、解決による効果や実現可能性・取組の容易性などを評価し優先順位を付けておくことも必要になります。
なお、精緻な評価は最後の工程の「導入効果・費用対効果試算」で行うため、ここでは、プロジェクトメンバーなどの経験に基づく簡易的な評価が中心です。ただし、実現可能性などの技術面の評価では関連する分野の専門家・専門会社等に確認する必要はあります。
2)最優先解決策の検討
IoT導入目標を達成するために、まず最優先解決策を決定しましょう。方法としては、前項の解決策の評価結果をもとに、各解決策を比較し、優先して取り組むべき最優先解決策を決定します。メンバーで協議して決定した後、経営層に確認してもらうことも重要です。
4-4 IoT導入構想
以下の内容を中心に導入の構想を策定しましょう。
1)IoT導入構想の立案
これまでの検討結果に基づきIoT導入構想をまとめます。その際、ITベンダー等の専門的な知識を活用するなどして、IoT導入構想書の精度を高めることが重要です。
●IoT導入構想書
これまでの検討結果を踏まえ、IoT導入により、どのようなデータを利活用してどう処理するのか、またどの機器でIoTを利活用するのか、などのIoTシステムを導入していくための要件を、「IoT導入構想書」として作成します。
なお、IoT導入の実現方法は、利用する技術・方法などによって多数存在することから、採用する内容により、IoTの導入コストに大きな差が生じることも多いです。
そのためIoT導入構想の作成にあたっては、費用対効果の高い方式を選定することが求められるため、ITベンダー等に導入の実現方式や導入および維持(概ね5年間)コスト等の情報提供を求めることも必要となります。
●RFI(情報提供の依頼やその書類)の実施
(1)RFI依頼文書の作成
IoT導入構想書に基づき、ITベンダー等へ依頼するためのRFIを作成します。RFIには、回答期限、コストやスケジュール等の求める情報の内容・事項の記載が必要です。
(2)ITベンダー等へRFIを送付
上記のRFIに先のIoT導入構想書を添付し、検討しているITベンダー等へ発送し、回答してもらえるよう依頼します。
(3)ITベンダー等からの回答の確認・比較
次の作業は、上記で依頼した各ITベンダー等からの回答結果について、各社の提案内容の確認・比較です。なお、費用面の詳細な検討は次工程の「導入効果・費用対効果試算」で行います。
そのため、ここでは各社の提案内容がIoT導入構想書から外れていないか、提案内容の異なるポイントは何か、などを比較して把握します。
4-5 導入効果と費用対効果試算
1)費用試算
各ITベンダー等からの回答内容の違いを確認した後、各社が提案する実現方式について、いくらのIoT投資が必要となるか試算し比較します。なお、費用の試算については、以下の2つのポイントに留意しましょう。
●開発から稼働後までのコストを比較
IoT導入を実現するための費用は、開発中の費用(=初期費用)だけではなく、稼働後に発生する費用(=運用費用)も含めて比較しなければなりません。システムのライフサイクルは一般的に5年程度であるため、開発費用と5年間の運用費用の合計費用を最低でも比較しましょう。
●システム構成要素に対応したコスト比較
IoT導入の実現に係る費目は、IoTシステムを利活用するための「付帯機器・備品」(タブレット端末、ICカード、カードリーダー、ノートPC等)の費用と、機能や処理を実行するための「業務アプリケーション」の費用、そのアプリケーションを稼働させるためのサーバーやソフトウェア等の「サーバー機器等」の3つの費用に分類されます。
そして、この3つの費目について、開発の費用と稼働後の費用を細分化し、各見積を比較するのです。
2)費用対効果の分析
次は、IoT導入による費用対効果を分析する作業になります。分析結果をもとに、そのIoT導入が投資する価値を本当に有するのか、導入案の可否を判断しましょう。
なお、適正な費用対効果の分析には、経営への影響評価を含めるほか、自社の状況にマッチする効果の評価軸を設定し、費用対効果を試算する方法を検討・決定しなければなりません。そのため、専門家の協力なども得て分析方法を確立する必要があります。
3)IoT導入計画の作成
IoTを導入する場合、導入から稼働するまでのスケジュールや調達方法、費用等について、その内容をまとめ実行していくための計画書の作成が必要です。なお、計画内容ついて、問題や実現が困難なことがないか、外部の専門家などに意見を聞くこともケースによっては求められます。
以上の内容を参考に、検討リーダーおよびチームは経営層の指揮・関与のもと、社内の各部門やITベンダー等の協力を得ながらIoT導入を実現できるように取り組んでください。
5 まとめ
日本の各産業界は様々な課題を抱えていますが、共通の重要課題は「生産性の向上」「イノベーションの実現」「人手不足の対策」などです。これらの課題は相互に関連しますが、DXやその要素の1つであるIoTの推進により解決が期待できます。
IoTの導入により、従来の業務プロセスを効率化できれば、生産性が高まり人手不足を補うことも可能です。また、IoTの活用でイノベーションを創出し、今までにないビジネスシモデルを実現できれば、ビジネス上の大きな飛躍も望めます。
IoTを導入してDXに取り組み、コロナ禍や物価高騰などの不確実性の高い環境の中でも成長を持続させることが大切です。