法務省の発表によれば、2018年末における外国人の中長期在留者数は240万9,677人、特別永住者数は32万1,416人で、在留外国人数は計273万1,093人となり、前年末と比較して約17万人(6.6%)増加して、過去最高を記録しています。
邦人の人口が減少する中、中長期の外国人滞留者の増加は、日本の経済にとっては明るい材料と言えるかもしれません。また、この傾向が続けば、日本での起業を企図する外国人が増えることも想定されます。今回、外国人が日本国内で会社を設立する際の手順や注意点についてまとめました。日本でのビジネスを検討している方は是非ご一読下さい。
1 データーで見る外国人起業家の状況
近年、政府の外国人観光客増加への取り組みが一因となって、外国人のいる風景は日常的なものとなりました。また、政府は外国人の観光面の集客策に取り組む一方、日本国内の外国人による会社設立の整備策も進めています。ここでは外国人起業家のデーターから見る推移や、外国人起業家に多い業種や特徴、そして外国人起業家が抱える問題点と今後の課題を見ていきます。日本における外国人起業家の現状を見ていきましょう。
まず初めに、外国人の起業家数を在留資格の「経営・管理」で計算します。在留資格とは、外国人が日本に在留するための入管法によって定められた資格で、「経営・管理」とはその在留資格の中の一つです。
在留資格には、就労が認められていない「留学」や「家族滞在」など、そして就労が認められている「報道」や「医療」などがあります。就労が認められているもののうち、会社の経営を行うための在留資格が「経営・管理」となります。
法務省の2013年12月末版「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」によると、在留外国人数は合計2,066,445人とされています。同資料を用いて、地域・国籍別トップ3の内訳を見てみましょう。
アジア | 1,676,343人(中国:649,078人、韓国・朝鮮:519,740人、フィリピン:209,183人) |
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ヨーロッパ | 59,248人(英国:14,881人、フランス:8,877人、ロシア:7,513人) |
アフリカ | 11,548人(ナイジェリア:2,453人、ガーナ:1,834人、エジプト:1,538人) |
北米 | 62,749人(米国:49,981人、カナダ:9,025人、メキシコ:1,927人) |
南米 | 243,246人(ブラジル:181,317人、ペルー:48,598人、ボリビア:5,315人) |
オセアニア | 12,694人(オーストラリア:9,016人、ニュージーランド:3,109人、フィジー:201人) |
無国籍 | 617人 |
合計 | 2,066,445人 |
また、同資料による在留資格「投資・経営」(在留資格「経営・管理」の当時の名称、後述。)の地域別取得者数と国籍のトップ3は次のようになります。
アジア | 11,297人(中国:5,057人、韓国・朝鮮:2,918人、パキスタン:759人) |
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ヨーロッパ | 1,022人(英国:226人、フランス:223人、ロシア:144人) |
アフリカ | 61人(ナイジェリア:13人、エジプト:12人、ガーナ:9人) |
北米 | 786人(米国:654人、カナダ:118人、メキシコ:7人) |
南米 | 37人(ブラジル:16人、チリ:5人、コロンビア・ペルー:4人) |
オセアニア | 231人(オーストラリア:186人、ニュージーランド:44人、フィジー:1人) |
無国籍 | 5人 |
合計 | 13,439人 |
在留資格「投資・経営」の全体に占める割合は、在留外国人の全体計2,066,445人のうち「投資・経営」取得者数計13,439人ですので、0.65%です。
2013年12月時点で最も多い在留資格は「永住者」で、当在留資格取得者数は合計655,315人となっており、全体に占める割合は31.71%です。この「永住者」の割合と、在留資格が27種類に分かれていることを考えた場合、全体に占める「投資・経営」の割合は高いとはいえません。
それでは次に、5年後となる2018年12月末版法務省「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」を見てみましょう。在留外国人合計は2,731,093人に増えており(2013年12月末時点+664,648人)、その地域別内訳と国籍別トップ3は下記の通りです。
アジア | 2,279,097人(中国:764,720人、韓国:449,634人、ベトナム:330,835人他) |
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ヨーロッパ | 80,221人(英国:17,943人、フランス:13,355人、ロシア:8,987人他) |
アフリカ | 16,622人(ナイジェリア:3,025人、ガーナ:2,341人、エジプト:1,931人) |
北米 | 73,603人(米国:57,500人、カナダ:10,713人、メキシコ:2,696人) |
南米 | 265,214人(ブラジル:201,865人、ペルー:48,362人、ボリビア:5,907人) |
オセアニア | 15,660人(オーストラリア:11,406人、ニュージーランド:3,501人、フィジー:276人) |
無国籍 | 676人 |
合計 | 2,731,093人 |
そして、上記のうちの在留資格「経営・管理」取得者数の地域別、及び国籍別トップ3は次のようになります。
アジア | 23,144人(中国:13,397人、韓国:3,104人、ネパール:1,531人他) |
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ヨーロッパ | 1,232人(フランス:282人、英国:265人、ロシア:149人他) |
アフリカ | 107人(エジプト:22人、南アフリカ共和国:15人、カメルーン:14人) |
北米 | 862人(米国:706人、カナダ:134人、メキシコ:11人) |
南米 | 46人(ブラジル:16人、チリ:7人、ボリビア:6人) |
オセアニア | 277人(オーストラリア:235人、ニュージーランド:39人、フィジー:2人) |
無国籍 | 2人 |
合計 | 25,670人 |
在留資格「経営・管理」取得者数計25,670人の在留外国人計2,731,093人に占める割合は0.94%となりました。5年前と比べると、資格者数・割合ともに増えていることが分かります(+12,231人、+0.29%)。
なお、2018年12月時点最も多い在留資格は、2013年12月と同様に「永住者」です。同在留資格の2018年12月時点取得者数は合計771,568人で、全体に占める割合は28.25%となります。割合としては2013年12月時点の31.71%よりも減っています。
また、在留資格「経営・管理」(2013年時点では「投資・経営」)取得者数の男女別内訳は、2013年12月時点計13,439人では、男10,476人(78%)、女2,963人(22%)です。2018年12月時点25,670人では、男19,305人(75%)、女6,365人(25%)となり、女性の比率が高まっている傾向にあります。
次に、2007年から2017年までの5年毎の関東、中部、関西、そして全国の在留資格「経営・管理」取得者数の推移を見てみましょう。この数字は法務省「2006~2017年在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」によるものです。人数の後ろのパーセンテージは同資格保有者数の5年前からの増加率となります。
2007年 | 2012年 | 2017年 | |
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関東 | 6,312人 | 9,686人(153.5%) | 17,652人(182.2%) |
中部 | 340人 | 698人(205.3%) | 1,111人(159.2%) |
関西 | 798人 | 1,319人(165.3%) | 3,046人(230.9%) |
全国 | 7,916人 | 12,609人(159.3%) | 24,033人(190.6%) |
この推移からは、全国的に増加の一途であることを読み取ることができます。人数別では関東が最も多く、増加率では関西が顕著です。
2 外国人起業家増加の背景
外国人起業家が増加している背景要因の一つには、先述の在留資格「経営・管理」の取得要件緩和を挙げることができます。元々「投資・経営」という名称のこの在留資格は、2015年4月に施工された法改正の際に「経営・管理」へと名を改めました。
そして、その法改正では名称の変更だけではなく、在留資格を得るための取得要件も変更(緩和)対象となっています。
取得要件変更の一つは、会社設立時期の変更です。変更前の「投資・経営」では、「当在留資格を取得するにはあらかじめ会社を設立していること」が条件でしたが、変更後は、「定款などで会社を設立しようとしていることを証明すること」が条件となっています。
また、変更時に在留期間4ヶ月間という期間が新設されました。この4ヶ月の間に住民登録、そして印鑑登録を行って会社設立を完了させることで、在留期間の更新を申請できるよう変更されています。
この一連の措置以外にも、外国人起業家の増加を後押しする制度が設けられています。2015年9月から始まった、福岡市・広島県・今治市・愛知県の一部・東京都・新潟市・仙台市による、国際戦略特区を活用した「外国人創業活動促進事業」がそれです。
元々在留資格「経営・管理」の取得をするためには、「日本国内に事業運営の事業所を用意すること」、「資本金500万円以上」、「2人以上の社員」といった諸々の要件を満たす必要があります。
「外国人創業活動促進事業」では、この事業制度において定められている創業活動計画などを提出し、自治体が事業計画などの確認を行うことで、上記の「経営・管理」を取得する要件を満たしていなくても、6か月間の在留が認められます。
更に2018年12月には、経済産業省と法務省による、外国人の起業を押し進める「スタートアップビザ」制度が設けられました。
これは、外国人の起業支援を目的とする地方公共団体が策定した「外国人起業活動管理支援計画」を、経済産業省で認定し、認定した計画に基づいて地方公共団体が外国人起業家を管理支援し、それによって外国人起業家は最長で1年間の在留資格を得る、というものです。
前述の「外国人創業活動促進事業」が、原則として新規入国外国人を対象としていたいのに対して、「スタートアップビザ」制度では留学生も対象となっており、より対象者の広い制度となっています。
在留資格「経営・管理」取得数の増加には、これらの施策を一因とすることができます。
3 外国人起業家のタイプ別特徴と外国人起業家の会社に多い業種
外国人起業家は3つのタイプに分けることができます。1つ目は、先ほども触れた「スタートアップビザ」制度を活用した留学生タイプです。
留学生タイプに多い特徴としては、日本語能力が比較的高いこと、学生経験を経ているため日本文化の造詣が深く理解をしており、日本社会に既に馴染んでいることを挙げることができます。一方、留学生であるため、在留資格「経営・管理」の要件である500万円の資本金を用意することは厳しい要件となっています。
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の調査を引用すると、留学生の内63.6%が日本国内で就業希望しており、10.8%は日本において起業を希望しています。留学生の数も年々増加していますので、今後も若い日本内の外国人起業家は増えるでしょう。
2つ目は起業そのものを来日の目的とするタイプです。このタイプに多い特徴には、日本語があまり得意ではないこと、来日したことはないものの日本のアニメやマンガが好きで日本に元々強い興味を持っていたこと、日本の企業風土の理解が乏しいことなどがあります。
資金面において2つ目のタイプは、自国で潤沢な資金を有している場合は別として、資金を多く保有していないケースが目立ちます。また、日本語能力が高くないため法人口座の解説までに時間がかかり、会社の設立までに時間を要することが、このタイプに共通する問題点です。
3つ目は日系企業で就業した後、日本で起業をするタイプです。このタイプの特徴には、日本語能力が高いこと、人脈や日本での社会経験が豊富で、日本における企業風土も理解していることなどがあります。
また、就業しながらの起業であるため資金準備も留学生ほど困難ではなく、人脈作りを平行しつつ起業に向かって準備をすることができます。
外国人起業家の会社に多い業種を見てみましょう。「輸出・輸入業、及びその商品の販売業」、「飲食業」、「語学教室」、「医療・美容関係」などが外国人起業家の多くが選択する業種です。
この内、特に多いのは「輸出・輸入業、及びその商品の販売業」です。海外から商品を輸入して販売するだけではなく、日本で気に入った商品、興味深く感じた商品を輸出して販売する事業を営む人もいます。
扱う商品には、玩具やガジェット品、食料、衣料、そして中古の自動車や機械設備などがあり、多岐に渡っています。
飲食店の経営に関しては、中華料理や韓国料理など、母国の料理店を営んでいるケースが多数となります。インドカレー料理店の経営者は、先述の2018年12月在留資格「経営・管理」取得者数アジア地区の国籍別第3位のネパール人を実態としている場合があります。
また飲食店の場合、その店舗が同国出身の人が集うコミュニティとなり得ること、経営が順調であれば店舗数を増やすことも可能であることが、飲食業を外国人起業家に人気のある業種としています。
医療や美容関係では、海外からの日本の医療機関や美容関係サービスを目的に来日する人へ向けた通訳やツアーコンダクトを営んでいます。
4 外国人が会社を設立する際の障壁と今後の課題
最後に、外国人が起業する際に直面する障壁や問題点と、今後の課題を見てみましょう。
まず、在留資格「経営・管理」の取得要件が厳しい、という意見は多く聞かれるところです。要件の一つである資本金の500万円という額は、日本人が株式会社を設立するために必要な資本金が最低1円ということからも、余計に厳しく映ります。
その他の要件の、事務所と常勤職員2名以上の確保も障害の一つです。どちらも外国人であることから生じる言葉の問題や人脈作りの難しさが、この要件を高い壁として立ちはだからせています。
起業をする際、あるいは在留資格を得る際の各種資料作成時に必要となる日本語の読み・書きも障壁の一つです。外国人起業家のための法整備は進んでいますが、自治体や金融機関の窓口での外国人対応が進んでおらず、言葉の壁は依然として残ったままというのが実情です。
融資を受ける際には、在留期間に定めがあることが金融機関側の融資可否の判断にマイナスに働きます。在留期間が定められているということは、長い期間の融資は難しいと判断されるためです。
そして、在留期間の期間制約面には、金融機関や投資家からの信用を構築することが困難、という問題も引き起こしています。
これら外国人起業家が直面する障害や問題点に対して一部の外国人起業家は、起業にあたって日本人配偶者を得ることで起業や資格取得の支援をして貰うことができたと語っています。
ただ、配偶者の支援とは外国人起業家の自助努力に他なりませんので、今後外国人が日本で会社を設立するための課題としては、公民両方によるサポート体制の強化を挙げることができるでしょう。今後一層のグローバル化は必至です。外国人起業家が増えることは、経済面において、そして日本社会においてもますます重要となっていくことでしょう。
5 外国人でも会社設立できる?
外国人が日本国内で会社を設立することは可能ですが、外国人特有の法的・制度的な制約があるため、一定の要件をクリアしなければなりません。法的には、「出入国管理及び難民認定法(以下、入管法と言います)。」で規制され、訪日外国人は、いわゆる「在留資格」で活動を制限されることになります。外国人が日本において会社を設立し、事業を進めていくためには、そのための在留資格が必要となります。以下、入管法と在留資格について解説します。
5-1 日本の在留資格制度
日本の在留資格制度は、24種類(身分・地位によるものを除く)の「在留資格」を規定し、これに適合しない人物の入国を拒否若しくはビザ(査証)の発給をしない方法により、出入国を管理する制度となっています。日本に入国する外国人は、入管法の規定に基づく審査を受け、個々の事情に適合する在留資格許可を得ることで、その資格ごとに定められた範囲内で活動を行うことができます。
この在留資格は、「就労が可能な資格」、「就労できない資格」、「就労に制限のない資格」、「就労の可否が個々に判断される資格」に区分できますが、この記事のテーマで見ると、外国人が日本において会社を設立するためには、「経営・管理」という在留資格が必要となります。まずは、法務省が公表している在留資格の一覧でその内容を確認してみましょう。
(表1-1)在留資格一覧(活動制限あり)《表1-1・1-2ともに法務省公表資料の一部を加工して作成》
区分 | 在留資格 | 本邦において行うことができる活動 | 該当例 | 在留期間 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
就労が認められる在留資格/活動制限があります | 1 | 外交 | 日本国政府が接受する外国政府の外交使節団若しくは領事機関の構成員、条約若しくは国際慣行により外交使節と同様の特権及び免除を受ける者、又は、これらの者と同一の世帯に属する家族の構成員としての活動 | 外国政府の大使、公使等及びその家族 | 外交活動の期間 | |
2 | 公用 | 日本国政府の承認した外国政府若しくは国際機関の公務に従事する者、又は、その者と同一の世帯に属する家族の構成員としての活動(この表の外交の項に掲げる活動を除く。) | 外国政府等の公務に従事する者及びその家族 | 5年、3年、1年、3月、30日又は15日 | ||
3 | 教授 | 本邦の大学若しくはこれに準ずる機関、又は、高等専門学校において研究、研究の指導又は教育をする活動 | 大学教授等 | 5年、3年、1年又は3月 | ||
4 | 芸術 | 収入を伴う音楽、美術、文学その他の芸術上の活動(この表の興業の項に掲げる活動を除く。) | 作曲家、画家、作家等 | 5年、3年、1年又は3月 | ||
5 | 宗教 | 外国の宗教団体により本邦に派遣された宗教家の行う布教その他の宗教上の活動 | 外国の宗教団体から派遣される宣教師等 | 5年、3年、1年又は3月 | ||
6 | 報道 | 外国の報道機関との契約に基づいて行う取材その他の報道上の活動 | 外国の報道機関の記者・カメラマン | 5年、3年、1年又は3月 | ||
7 | 高度専門職 | (1号)高度な専門的な能力を有する人材として法務省令で定める基準に適合する者が行う次のイからハまでのいずれかに該当する活動であって、我が国の学術研究又は経済の発展に寄与することが見込まれるもの
|
ポイント制による高度人材 | 5年 | ||
(2号)1号に掲げる活動を行った者であって、その在留が我が国の利益に資するものとして法務省令で定める基準に適合する者が行う次に掲げる活動
|
無期限 | |||||
8 | 経営・管理 | 本邦において貿易その他の事業の経営を行い、又は、当該事業の管理に従事する活動(この表の法律・会計業務の項に掲げる資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く。) | 企業等の経営者、管理者等 | 5年、3年、1年、4月又は3月 | ||
9 | 法律・会計業務 | 外国法事務弁護士、外国公認会計士その他法律上資格を有する者が行うこととされている法律又は会計に係る業務に従事する活動 | 弁護士、公認会計士等 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
10 | 医療 | 医師、歯科医師その他法律上資格を有する者が行うこととされている医療に係る業務に従事する活動 | 医師、歯科医師、看護師 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
11 | 研究 | 本邦の公私の機関との契約に基づいて研究を行う業務に従事する活動(この表の教授の項に掲げる活動を除く。) | 政府関係機関や企業等の研究者等 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
12 | 教育 | 本邦の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、専修学校又は各種学校若しくは設備及び編成に関してこれに準ずる教育機関において語学教育その他の教育をする活動 | 高等学校、中学校等の語学教師等 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
13 | 技術・人文知識・国際業務 | 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思想若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(この表の教授、芸術、報道、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。) | 機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
14 | 企業内転勤 | 本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が、本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技術・人文知識・国際業務の項に掲げる活動 | 外国の事業所からの転勤者 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
15 | 介護 | 本邦の公私の機関との契約に基づいて介護福祉士の資格を有する者が介護又は介護の指導を行う業務に従事する活動(※2017年9月1日施行) | 介護福祉士 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
16 | 興行 | 演劇、演芸、演奏、スポーツ等の興業に係る活動又はその他の芸能活動(この表の経営・管理の項に掲げる活動を除く。) | 俳優、歌手、ダンサー、プロスポーツ選手等 | 3年、1年、6月、3月又は15日 | ||
17 | 技能 | 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動 | 外国料理の調理師、スポーツ指導者、航空機の操縦者、貴金属等の加工職人等 | 5年、3年、1年、又は3月 | ||
18 | 技能実習 | 1号 |
|
技能実習生 | 法務大臣が個々に指定する期間(1年を超えない範囲) | |
2号 |
|
技能実習生 | 法務大臣が個々に指定する期間(2年を超えない範囲) | |||
3号 |
|
技能実習生 | 法務大臣が個々に指定する期間(2年を超えない範囲) | |||
就労が認められない在留資格/注1 | 19 | 文化活動 | 収入を伴わない学術上若しくは芸術上の活動又は我が国特有の文化若しくは技芸について専門的な研究を行い、若しくは専門家の指導を受けてこれを修得する活動(この表の留学、研修の項に掲げる活動を除く。) | 日本文化の研究者等 | 3年、1年、6月又は3月 | |
20 | 短期滞在 | 本邦に短期間滞在して行う観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動 | 観光客、会議参加者等 | 90日若しくは30日又は15日以内の日を単位とする期間 | ||
21 | 留学 | 本邦の大学、高等専門学校、高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)若しくは特別支援学校の高等部、中学校(義務教育学校の後期課程及び中等教育学校の前期課程を含む。)若しくは特別支援学校の中学部、小学校(義務教育学校の前期課程を含む。)若しくは特別支援学校の小学部、専修学校若しくは各種学校又は設備及び編成に関してこれらに準ずる機関において教育を受ける活動 | 大学、短期大学、高等専門学校、高等学校、中学校及び小学校等の学生・生徒 | 4年3月、4年、3年3月、3年、2年3月、2年、1年3月、1年、6月又は3月 | ||
22 | 研修 | 本邦の公私の機関により受け入れられて行う技能等の習得をする活動(この表の技能実習1号、留学の項に掲げる活動を除く。) | 研修生 | 1年、6月又は3月 | ||
23 | 家族滞在 | この表の教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、文化活動、留学の在留資格をもって在留する者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動 | 在留外国人が扶養する配偶者・子 | 5年、4年3月、4年、3年3月、3年、2年3月、2年、1年3月、1年、6月又は3月 | ||
注2 | 24 | 特定活動 | 法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動 | 外交官等の家事使用人、ワーキングホリデー、経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者等 | 5年、3年、1年、6月、3月又は法務大臣が個々に指定する期間(5年を超えない範囲) |
(注1)就労が認められない在留資格
基本的には就労が認められないものの、資格外活動許可を受けた場合は、一定の範囲内で就労が認められます。
(注2)就労の可否は指定される活動によるものとなります。
(表1-2)身分・地位に基づく在留資格(活動制限なし)
在留資格 | 本邦において有する身分又は地位 | 該当例 | 在留期間 |
---|---|---|---|
永住者 | 法務大臣が永住を認める者 | 法務大臣から永住の許可を受けた者(入管特例法の「特別永住者」を除く。) | 無期限 |
日本人の配偶者等 | 日本人の配偶者若しくは特別養子又は日本人の子として出生した者 | 日本人の配偶者・子・特別養子 | 5年、3年、1年又は6月 |
永住者の配偶者等 | 永住者等の配偶者又は永住者等の子として本邦で出生し、その後引き続き本邦に在留している者 | 永住者・特別永住者の配偶者及び本邦で出生し引き続き在留している子 | 5年、3年、1年又は6月 |
定住者 | 法務大臣が特別な理由を考慮し、一定の在留期間を指定して居住を認める者 | 第三国定住難民、日系三世、中国残留邦人、外国人配偶者の連れ子等 | 5年、3年、1年、6月又は法務大臣が個々に指定する期間(5年を超えない範囲) |
5-2 在留資格に該当するための要件
このように、いくつもの在留資格がある中、外国人が日本で会社を設立するための要件として、「経営・管理」という在留資格が必要であることがわかります。この在留資格を取得するための許可基準は法務省令で定められており、その内容は以下のとおりとなっています。
(表2)在留資格「経営・管理」の許可基準
次のいずれにも該当していることが必要です。
- 1.申請に係る事業を営むための事業所が日本に存在すること(ただし、その事業が開始されていない場合は、その事業を営むための事業所として使用する施設が確保されていること)。
- 2.申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること。
イ.その経営又は管理に従事する者以外に日本に居住する2人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
ロ.資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
ハ.イ又はロに準ずる規模であると認められるものであること。 - 3.申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について3年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し、かつ、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
5-2-1 許可基準(事業所の定義)
この許可基準の最初の項目である「事業所」については、法務省が定義を公表していますので、その内容を下記に整理しました。比較的細部まで言及していますので、手続きに当たっては遺漏の無いよう注意が必要です。
(表3)事業所の定義
外国人が日本で事業を興し、経営又は管理に従事する場合の要件の一つである「事業所」については、法務省はガイドラインで、次のように示しています。
- 〇経済活動が単一の経営主体の下において一定の場所、すなわち「一区画を占めて」行われること。
- 〇財貨及びサービスの生産又は提供が、「人及び設備を有して」、「継続的」に行われていること。
これは、総務省が定める日本標準産業分類一般原則第2項において定めた事業所の定義であり、この2点を満たすことで「事業所の確保」に適合することになります。しかし、「経営・管理」の在留資格に係る活動については、事業が継続的に運営されることが求められるため、月単位の短期間賃貸スペースを利用したり、容易に処分可能な屋台等を利用したりする場合は、要件に適合しているとは認められない点に注意が必要です。
〔賃貸物件を使用する場合の具備要件〕
- 〇当該物件に係る賃貸借契約において、その使用目的を、「事業用」、「店舗」、「事務所」等事業目的であることを明らかにし、賃貸借契約者についても、「当該法人等の名義」とし、当該法人等による使用であることを明確にする必要があります。
- 〇住居として賃借している物件の一部を使用して事業が運営されるような場合は、以下の要件を満たしていなければなりません。
-
- (1)住居目的以外での使用を貸主が認めていること(事業所として借主と当該法人の間で転貸借されることを貸主が同意している。)
- (2)借主も当該法人が事業所として使用することを認めていること。
- (3)当該法人が事業を行う設備等を備えた事業目的占有の部屋を有していること。
- (4)当該物件に係る公共料金等の共用費用の支払に関する取り決めが明確になっていること。
- (5)看板類似の社会的標識を掲げていること。
〔インキュベーターの支援がある場合〕
申請人から、当該事業所に係る使用承諾書等の提出があったときは、(独)日本貿易振興機構対日投資ビジネスサポートセンター、その他インキュベーションオフィス等の一時的な住所又は事業所であって、起業支援を目的に一時的に事業用オフィスとして貸与されているものの確保をもって、「事業所の確保(存在)」に適合するものとして取り扱われます。
※インキュベーターとは
企業家精神を持つ実業家に、場所・資金・人材・経営コンサルティングなどを提供して、企業の発足を助ける施設や機関・団体をいいます。
5-2-2 許可基準(事業規模)
次に事業規模については、イとロで具体的な数値が示されていますが、ハの、イまたはハに「準ずる規模」について明確にしておく必要があります。まず、イの要件ですが、ここでいう2名の常勤職員とは、「法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く」となっていますので、(表1-1)で示した在留資格者ではなく、日本人のほか、外国人の場合は、(表1-2)の在留資格者である必要があります。
ロの要件は、株式会社の場合は、常勤職員を2名以上置かない場合には、500万円以上の投資に耐えられる規模という意味での資本金等の額となります。ハの、2名以上の常勤職員の雇用か500万円の資本金等の額に準ずる規模とは、常勤職員が1名であるときの資本金の額が250万円程度である場合と考えられます。
5-2-3 許可基準(実務経験)
許可基準の3番目にあげられている、いわゆる実務経験については、日本又は外国の大学院において、経営又は管理に係る科目を専攻して教育を受けた期間は、3年の実務経験のうちに算入されます。大学院で所定の科目を2年間で修了した外国人は、経営・管理に係る実務を1年間経験すれば許可基準を満たすことになります。
5-3 複数の外国人が共同で経営する場合の在留資格
複数の外国人が共同で事業を興し、全員が役員に就任する場合には、それぞれの外国人が従事しようとする具体的な活動内容をもって、在留資格に該当するか否かが審査されることになります。この場合、大前提として、当該の外国人が事業の経営または管理に実質的に参画していなければなりません。
このため、事業や会社の運営に係る重要事項の決定や、業務の執行または監査の業務に従事する活動実態があることが要件となり、単に役員に就任しているというだけでは、この在留資格に該当するとは言えない点に注意が必要です。
6 必要になるビザと在留資格
外国人雇用や外国人の日本での起業について準備しようとすると、しばしば、ビザ(査証)と在留資格が混同された説明を聞かされることがあります。まずは、この「ビザと在留資格」の違いを明確にしておきましょう。
6-1 ビザと在留資格
まず、基本的な準備として、外国人が日本で滞在するためには、活動目的を明らかにし、審査を受けて「在留資格」を得る必要があります。その上で、日本へ入国するわけですが、この入国する時に必要となるのが「ビザ(査証)」で、入国するための通行証明書という位置づけです。そして、日本国内で滞在して活動を行うために必要なのが「在留資格」です。
したがって、ビザと在留資格は別物であり、申請・審査も別々に行われるものです。ここで、問題をややこしくしているのが、ビザと在留資格の審査を行う官庁の違いです。ビザは、基本的な手続きとしては、外務省の所管である日本国在外公館(日本大使館、日本領事館等)で受付・審査が行われ、在留資格は、日本の法務省で審査が行われることになります。
ビザの審査では、日本への渡航目的(活動内容)や人物を確認して許可の可否を決めますが、在外公館では、日本国内での外国人の就労等の活動に係る在留資格の審査はできないため、ビザ申請を受け付けた場合、在外公館⇒外務省⇒法務省という流れで連絡され、ようやく「在留資格審査」が行われるという手順となり、その後にビザの審査ということになるため、非常に時間がかかることになります。
このため、外国人が就労等の活動を行う場合は、日本入国後の勤務先となる会社が、外国人を雇用するための雇用契約書等を法務省所管の入国管理局へ提出して「在留資格認定証明書」の交付申請を行い、当該証明書が交付された後、この原本を当該外国人に送付して、当該外国人が在外公館でビザの申請をするという流れが一般的となっています。
在留資格認定証明書を在外公館に提出してビザを申請すれば、入国後の活動内容は法務省が証明しているわけですから、在外公館は、その人物の日本への入国の適否のみを判断すればよいため、短期間での審査が可能となるわけです。起業して会社を設立する場合は、外国人本人が、何らかの在留資格で一旦日本へ入国し、弁護士等の協力を得て在留資格認定証明書の交付申請を行うか、インキュベーターの支援を得る方法が考えられます。
6-2 在留期間更新許可申請
このように、在留資格を得て日本に入国することになるわけですが、この在留資格は、(表1-1・1-2)で確認できる通り、「永住者」と「高度専門職2号」を除き「在留期間」が設けられています。長いもので5年、最も短いもので3カ月(興行における15日を除く)という期間となりますが、これらの在留期間を延長して引き続き日本での在留を希望する場合は、在留期間が切れる前に、居住地を管轄する地方出入国在留管理官署へ、所要の必要書類を添えて「在留期間更新許可申請書」を提出し、手続きをしなければなりません。
申請期間については、在留期間の満了する日以前となっていますが、6カ月以上の在留期間を有する者にあっては、在留期間の満了する概ね3カ月前から受け付けています。ただし、入院、長期の出張等の特別な事情が認められる場合は、3カ月以上前から申請を受け付けることもありますので、事前に、地方出入国在留管理官署で確認すると良いでしょう。また、3カ月以内の在留期間の場合は、その在留期間の概ね二分の一以上を経過したときから申請が可能です。
この在留期間の更新許可については、後述する「在留資格の変更」とともに法務省におけるガイドラインが設けられており、その内容は以下のとおりとなっています。
(表4)在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドラインの内容
項目 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 行なおうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること | 在留資格の該当性であり、許可の必要条件です。別表第一及び第二のそれぞれの活動であるか否か。 |
2 | 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること | ここで言う上陸許可基準は、外国人が日本に入国する際の上陸審査の基準ですが、在留資格の変更及び在留期間の更新においてもこの基準に適合していることが求められます。 |
3 | 素行が不良でないこと | 「善良であること」が前提であり、良好でない場合はネガティブ要素として評価されます。具体的には、「退去強制事由」に準ずるような刑事処分を受けた行為、不法就労をあっせんするなど、出入国管理行政上看過できない行為を行なった場合が該当します。 |
4 | 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること | 生活状況として、日常生活において公共の負担となっておらず、かつ、その有する資産又は技能からみて将来において安定した生活が見込まれることが求められます(ただし、公共の負担となっている場合であっても、在留を認めるべき人道上の理由が認められる場合は、その理由を勘案して判断することになります)。 |
5 | 雇用・労働条件が適正であること | アルバイトを含め、雇用・労働条件が労働関係法令に適合していることが必要です。 |
6 | 納税義務を履行していること | 納税義務がある場合には、その納税義務を履行していることが求められます。納税義務を履行していない場合は、ネガティブ要素として評価されることになります(納税義務不履行による刑を受けているような場合) |
7 | 入管法に定める届出等の義務を履行していること | 入管法の在留資格をもって日本に中長期間在留する外国人は、入管法に定める、「在留カードの記載事項に係る届出」、「在留カードの有効期間更新申請」、「紛失等による在留カードの再交付申請」、「在留カードの返納」、所属機関等に関する届出などの義務を履行していることが必要です。 |
6-3 在留資格変更許可申請
既に、在留資格を有して日本国内に在留している外国人が、起業して会社の設立を企図する場合は、前述の通り、「経営・管理」という在留資格が必要となります。現に有している在留資格の下では行うことができない他の在留資格に属する活動を行なおうとするわけですが、この場合、日本から一旦出国して改めて在留資格審査を受けなくとも、在留したまま別の在留資格への変更許可申請が可能です。以下、在留資格変更許可申請の手続きについて解説します。
この手続は、入管法第20条に基づいて行うことになります。手続きの対象者は、「現に有する在留資格の変更を受けようとする外国人」で、「永住者の在留資格への変更を希望する場合」を除きます。申請期間は、在留資格の変更の事由が生じたときから在留期間満了日以前とされていますが、本来の在留資格に基づく活動を行っていない場合は、在留資格そのものが取り消される場合がありますので、注意が必要です。
在留資格変更手続きにおいては、(表1)の就労関係の在留資格とその活動内容に応じた資料の提出が求められます。在留資格によって、使用する様式や添付資料が異なります。ここでは、会社の設立が可能となる「経営・管理」という在留資格への変更手続きに必要な提出資料を紹介します。
(表5)在留資格「経営・管理」に変更する際に提出すべき資料(法務省HP掲載資料をもとに作成)
カテゴリー1 | カテゴリー2 | カテゴリー3 | カテゴリー4 | |
---|---|---|---|---|
区分・所属機関 |
|
前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表中、給与所得の源泉徴収合計表の源泉徴収税額が1,500万円以上ある団体・個人 | 前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体・個人(カテゴリー2を除く) | 左のいずれにも該当しない団体・個人 |
提出資料 | 【共通】
|
|||
【カテゴリー1及びカテゴリー2については、その他の資料は原則不要です。】
|
7 会社設立の流れと必要書類
在留資格の問題がクリアできれば、基本的に会社設立の手続きは日本人が行う場合と同様です。日本の会社の種類は、2006年5月に施行された会社法で4つに定義付けされています。すなわち、「株式会社」、「合資会社」、「合名会社」、「合同会社」です。
7-1 株式会社と合同会社
外国人が、日本で起業し会社を設立する場合、まずは、この会社の種類を決めることから始めることになります。日本では、株式会社が最も知名度が高く、将来への展望を含めて起業家にとってステイタスの高い存在であると言えます。一方で、会社の設立手続きの簡易さと、設立後の経営の自由度の高さから、近年は、「合同会社」の設立を選択する起業家も増加しています。
合同会社は、合資会社及び合名会社とともに持分会社と呼ばれ、株式会社とは性格を異にする法人形態です。しかし、出資者責任で見ると、合資会社が有限責任社員と無限責任社員で構成され、合名会社は無限責任社員のみで設立されるのに対し、合同会社は有限責任社員のみで設立されるという点において株式会社と同様であり、持分会社の中では特異な存在であるといえます。
また、合同会社は、会社法施行を機に、米国のLLC(Limited Liability Company)をモデルとして創設された新しい法人形態であり、設立手続きの面においては、ほぼ株式会社と同様の手順を踏むことになりますが、株式会社に必要な、公証人による定款の認証を要しないなど、手続き面全体が簡略化され、設立費用も株式会社の三分の一程度で済みます。このような点において、合同会社をもって起業促進を図る国の政策的な側面を垣間見ることができます。
7-2 株式会社設立手順
この記事では、最も知名度が高く、会社設立手続きの全ての要素を網羅している株式会社について解説します。
株式会社は、「発起設立」と「募集設立」という二つの設立方法がありますが、このうち発起設立は、発起人が設立時発行株式を全部引き受ける方法で、発起人一人だけで設立が可能であることから、多くの起業家は「発起設立」の方法を選択しています。これは、小規模な会社の設立に適しているため、在留資格に基づく会社設立においても適しているといえます。
このような事情も踏まえ、発起設立の方法によることを前提に解説を進めることにします。まず、株式会社の設立に係る手順を以下に示し、ポイントを見ていきます。
(表6)株式会社設立登記までの手順(この表では、会社法の条項を「法〇条」とします。)
順番 | 手続項目 | 備考 |
---|---|---|
1 | 業務開始日の決定 | 新たに在留資格を取得する場合、既有の在留資格を変更する場合を含め、実際に業務を開始する日を決めて手続きを進めることが重要です。 |
2 | 在留資格の確認・変更等 | 在留資格の変更を要する場合は、(表5)を参照して遺漏の無いよう手続きを進めなければなりません。 |
3 | オフィス・事業所等の確保 | (表2)在留資格「経営・管理」の許可基準のとおり、(表3)の事業所の定義に適合したオフィスを用意しなければなりません。 |
4 | 創業融資制度等の確認と準備 | 日本政策金融公庫には創業関連融資が用意されていますので、利用を予定するなら事前に要件等を確認しておきます。 |
5 | 資本金の決定と調達 | 会社法により、資本金の額は1円でも会社を設立できますが、外国人の場合は、(表2)の許可基準に示すように事業規模が定められており、資本金500万円という要件がありますので注意が必要です。 |
6 | 発起人の決定 | – |
7 | 商号の決定 | 不正競争防止法、商業登記法、商業登記規則などの規制があるため、法令に準拠した商号を決定しなければなりません。 |
8 | 機関設計 | 株主総会や取締役、監査役など、会社を運営するために必要な機関を編成します。 |
9 | 定款の作成 | (法第26条・27条)基本的には、すべてはここから始まります。 |
10 | 定款の認証 | (法第30条)公証人による認証を受けなければなりません。 |
11 | 検査役の選任 | (法第33条)現物出資がある場合に必要な手続き。 |
12 | 設立時発行株式に関する事項の決定 | (法第32条)発起人の引き受ける株式や資本金及び資本準備金の額等を決めます。 |
13 | 発起人の出資履行 | (法第34条)出資引受け後遅滞なく履行しなければなりません。 |
14 | 設立時役員の選任 | (法第38条)出資の履行完了後遅滞なく設立時取締役を選任しなければなりません。 |
15 | 設立時取締役等による調査 | (法第46条)設立時取締役は、選任後遅滞なく、設立手続きが法令・定款に適合しているか調査しなければなりません。 |
16 | 設立登記 | (法第49条)設立登記によって会社が成立します。 |
実務的には、定款の作成から始めることになりますが、この設立時の定款を原始定款といい、発起人は、定款に「発起人」として署名し、会社設立に係る手続きの責任者として法的な責任を負います。定款は、公証人の認証を経て初めてその効力を有することになりますが、公証人の認証が必要とされるのは、この原始定款のみであり、それ以後の変更等に関してはこのような認証は不要です。
定款の記載事項には、法令上必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、記載しなければその効力を生じない「相対的記載事項」、そして、任意に記載することができる「任意的記載事項」があります。記載事項については省略します。
7-3 会社設立に必要な書類等
会社を設立する際に必要となる書類等並びに、設立後に届出が必要となる書類等については以下のとおりです。
(表7)会社設立時の必要書類等
書類等 | 摘要 | |
---|---|---|
設立時必要書類等 | 1 法人の実印 | 会社の実印にする印を作製しておき、印鑑届出書によって法務局に実印登録します。 |
2 印鑑届出書 | ||
3 発起人及び取締役個人の実印 | 発起人等の国が印鑑登録制度を採用していない場合、当該外国人の在外公館においてサイン証明書を発行してもらえます。 | |
4 印鑑証明書原本(または、各国の印鑑公証書又はサイン証明書 2通 | ||
5 資本金を振り込んだ銀行口座のコピー | 「表紙」、「表紙裏」、「振込が確認できるページ」をコピーします。このコピーを「資本金払込証明書」に添付します。払込証明書には、払込金額合計額、株数、1株あたり払込金額、日付、本店所在地、商号等を記載します。 | |
6 資本金払込証明書 | ||
7 設立登記申請書 | 法務局のHPから所定の様式をダウンロードします。 | |
8 公証人による認証済み定款 | 株式会社の場合は、公証人による認証が必須です。 | |
9 発起人決定書 | 会社の基本事項(・商号 ・会社の目的 ・設立時発行株式に関する事項 ・設立時役員に関する事項 ・本店所在地)を決定し、「発起人決定書」とします。 | |
10 役員就任承諾書 | 役員として就任する意思を確認するための書面です。 | |
11 印鑑カード交付申請書 | 会社の印鑑証明書を取得する際に必要なカードです。 | |
設立後届出が必要な書類等 | 〔税務関係〕
|
法人設立届出書は、税務署、都道府県税事務所、市町村に届け出ることになります(様式がセットになっています)が、東京都の場合は、23区への届出は不要です。 消費税については、特定の場合を除いて、当初は消費税の免税事業者となりますので、簡易課税制度等についてもよく検討する必要があります。 |
〔社会保険関係〕
|
社会保険関係は、会社を設立すると、役員は必ず加入しなければなりません。また、事業規模の関係で2人以上の職員を雇用することにも配意が必要です。 労働関係保険は、一人でも従業員を雇用すると対象となりますので、手続きに遺漏のないよう注意が必要です。 |
8 まとめ
いかがでしょうか。外国人が日本において会社を設立する際の注意事項は把握できたでしょうか。在留資格の取得若しくは変更が必須要件となりますが、会社を設立・運営するための活動に適合した「経営・管理」という在留資格さえ取得できれば、あとは、日本人が行うのとほぼ同じ手順で会社設立手続きを進めることができます。会社設立後も、在留資格期間の問題はついて回りますが、適時に適正な手続きを行なえば、更新を続けることが可能です。