
産経新聞(9月12日付記事)は、9月、政府が電波(周波数)の利用権利を入札にかける「周波数オークション」制度の導入を検討していると報じました。電波の経済的価値を反映した負担を求めることによる電波の能率的な利用や、免許手続きの透明性確保など、国民共有の財産を国民全体のために活用することが導入目的とされています。
「周波数オークション」はアメリカ、イギリス、ドイツなどの先進諸外国で採用されており、例えば、携帯電話などは周波数オークションの対象とされています。
一方、特定の有力事業者による買い占めなど「公正な競争が歪められないか」「落札額が高騰しないか」いった課題もあり、今後は、政府の規制改革推進会議にて公共用電波の民間開放に向けた議論を深める方針です。
新たな財源としての役割も期待される「周波数オークション」。本記事では、総務省資料をもとに各国で実施されているオークション制度の詳細を見ていきます。
1 周波数を入札にかける目的とは
電波はそもそも経済的価値を持った国民共有の希少な資源とされ、国民全体のため公正に利用されることが求められています。
近年では、スマートフォンの普及によって動画や音声などのリッチコンテンツが電波ネットワーク上に頻繁に流通するようになりました。電波需要は今後さらに高まっていくことが予想され、希少性を増した電波の有効活用が望まれていました。
1-1 電波を有効的に利用するため
日本における電波の取り扱いは、総務省が特定の周波数帯の利用に関して審査で選び、免許を割り当てる「比較審査方式」を採用しています。
しかし、政府の裁量に一任されるため、政府と事業者の癒着が指摘されることも少なくありません。そのため効率的な電波分配をして公正で自由な競争を促すために、周波数オークション制度の導入が議論されてきました。オークションの制度設計や実施方法によっては、新規参入や市場競争を促進し、イノベーションの促進や国際競争力の強化につながることも考えられます
さらに、オークションの払込金収入により、国の新たな財源の確保といった経済的効果をも期待されています。
1-2 競売の対象となる周波数は?
周波数オークション制度は、周波数の経済的価値を最も高く評価したものを競売で選出するという趣旨ですが、その対象は一定の周波数帯を専有する無線システムとされます。たとえば、公益目的で使用する防災行政無線、人工衛星の無線局のような無線システムは、通常競売の対象とはならないようです。諸外国を見ても電気通信事業用の移動通信システムを対象とする国が多いのが実情です。
(出展:Commercial Integrator)
2 諸外国における周波数オークション
OECD加盟国をはじめとした欧米諸 国における導入率が高く、34カ国中31カ国が採用しています。ここでは、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国における周波数オークション制度の事例を見ていきます。
2-1 各国の導入目的
周波数オークションの導入目的に関して、アメリカとイギリスでは法律の規定により、国庫収入の増加を主目的に置くことを否定するとの内容を明文化しています。
ドイツ、フランス、韓国では周波数オークションの目的を明示した規定はありませんが、「競争の促進」「手続きの簡素化」「経済的価値の増大」「透明性・公正性の向上」などを目的としています。
・ 各国の周波数オークション導入目的
アメリカ | 「周波数オークションの実施にあたり、公共の利益等の判断の基礎を周波数オークションによって得られる歳入の期待に置いてはならない」米国連邦通信法309条(j)(7)より |
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イギリス | 「オークションの主目的は歳入の増加にあるのではなく、 将来の希少な周波数の効率的利用を確保することにある」電波通信庁報告書より |
ドイツ | 明示なし。1996年にオークション制度導入 |
フランス | 明示なし。導入目的は法案提出時の趣旨説明にて述べる |
韓国 | 明示なし。放送通信委員会が、「周波数の市場価値を反映 し、割当過程の透明性及び公正性を向上するために市場基盤の競売制を導入したもの」だと説明 |
(総務省資料より作成)
2-2 オークション収入の使い道
周波数を使用する際に事業者が払うべき金額は、各国で「免許料」「使用料」「周波数割当代価」など、呼び方が異なります。
オークションで得られた収入については、一般財源とする国が多いなか(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど)、韓国などは使い道が決まっている特定財源としています。
・ オークション収入を一般財源とするか特定財源とするか
アメリカ | 一般財源 ※特別法により、特定財源とする場合あり |
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イギリス | 一般財源 |
ドイツ | 一般財源 |
フランス | 一般財源 |
韓国 | 特定財源 ※通信・放送などの振興に使用する |
(総務省資料より作成)
※ 一般財源とは、使途が特定されず、どの経費にも自由に充当できる収入で、日本では地方税、地方譲与税、地方交付税、利子割交付金、地方消費税交付金、特別地方消費税交付金、ゴルフ場利用税交付金、自動車取得税交付金などがそれに当たる。
※ 特定財源とは、使途が特定されている収入で、日本では国・県支出金、地方債、分担金・負担金、使用料・手数料、寄附金等などがそれに当たる。
2-3 有効期間は10〜20年
周波数オークションにより獲得した独占利用権の有効期間は、諸外国では10年〜20年の間となります。
たとえばアメリカでは、有効期間は周波数オークション毎に定められており、2008年に実施された700MHz帯オークションでは、2009年から10年を超えない期間と設定されました。
また、イギリスでは、一部有効期間を無制限とするも、一定期間の経過後は周波数管理を理由として免許を取り消すことを可能としています。
ドイツでは、2010年に実施したLTEの有効期間を2025年までの15年間としています。
アメリカ | 周波数オークション毎に定められる。 (例)700MHz帯オークションを2009年6月から10年を超えない期間と設定。 |
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イギリス | 周波数オークション毎に定められる。 (例)第三世代携帯電話を免許期間無制限に設定。2017年から5年の猶予期間をもって、通知により周波数管理を理由として免許を取り消すことが可能。 |
ドイツ | 周波数オークション毎に定められる。 (例)LTEを2025年までの15年間に設定。 |
フランス | 周波数オークション未実施。 第三世代携帯電話の場合、周波数利用許可の有効期間は 20年間。 |
韓国 | 周波数オークション未実施。 韓国電波法第15条によれば、20年の範囲内で個別に定められる。 |
(総務省資料より作成)
2-4 オークション方式は「複数ラウンド」「ファーストプライス」
オークション方式は、オークションを複数のラウンドに分けて行う「複数ラウンド方式」で、価格の決定方法は、落札者の支払金額について落札者が付けた金額を支払う「ファーストプライス方式」で行う国が多いようです。
たとえばアメリカでは、700MhZ帯のオークションを時間的間隔を挟んだ複数のラウンドに分け、各ラウンド毎に入札を行います。その後、最高入札者と最高金額を公表し、落札者が付けた金額を支払います。
国 | 周波数帯 | オークション方式 | |
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回数 | 価格決定方法 | ||
アメリカ | 700MHz | 複数ラウンド方式 | ファーストプライス方式 |
イギリス | 3G | 複数ラウンド方式 | ファーストプライス方式 |
LTE | 複数ラウンド方式 | ファーストプライス方式 | |
ドイツ | 3G | 複数ラウンド方式 | ファーストプライス方式 |
※ セカンドプライス方式とは、落札者の支払金額について、次点の入札者が付けた入札額を支払う方式(参照:総務省)
3 インドにおける導入状況
このほか、インドでは2010年に初めて3G周波数オークション(2100MHz帯と2300MHz帯)を実施しました。以降、2012年には2G周波数(1800MHz帯)、2013年に800MHz帯、2014年には900MHz帯と1800MHz帯、2015年には800MHz帯、900MHz帯、1800MHz帯、2100MHz帯の4種類の周波数オークションを実施しました。
・ 電波オークション導入の推移
2010年 | 2100MHz帯、2300MHz帯 |
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2012年 | 1800MHz帯 |
2013年 | 800MHz帯 |
2014年 | 900MHz帯、1800MHz帯 |
2015年 | 800MHz帯、900MHz帯、1800MHz帯、2100MHz帯 |
2016年 | 700MHz、800MHz、900MHz、1800MHz、2100MHz、2300MHz、2500MHz帯 |
(総務省資料より作成)
総務省によれば、インド政府は、通信キャリアが新たに周波数をオークションによって獲得することなく周波数を利用することができる周波数共用ガイドラインを発表しました。周波数の売り手が保有する権利と義務を買い手に委譲することが可能となり、周波数利用権の二次取引が可能になりました。
次々と進む各国の周波数オークション制度。ICT先進国として日本も、できるだけ早くオークション導入に向けた法整備・環境整備が求められます。
(出展:The Verge)