アメリカ・ニューヨークのコーネル大学とイスラエル工科大学による起業家育成が話題を呼んでいます。
コーネル大学らは共同でテクノロジー系の大学院「コーネル・テック」を設立。同大学院には各国からトップレベルの学生が集い、次世代を担うIT起業家の育成が行われています。コーネル・テックはニューヨーク版のシリコンバレーとなることはできるのでしょうか。
目次
- 1 スタートアップ育成の大学院
- 1-1 コーネル・テックが提供する起業プログラムとは
- 1-2 日本の企業も共同研究に参加
- 2 路面電車でスタートアップの加速化!
- 3 イスラエルのITベンチャーが今アツい
- 3-1 イスラエルがITに強い理由
- 3-2 今後のイスラエルと日本企業の関係は?
1 スタートアップ育成の大学院
(出典:THE BRIDGE)
もともとコーネル・テックは、起業が盛んで有名なスタンフォード大学に対抗する目的で設立されました。各学部の棟、2つの居住棟、ホテル、コワーキングスペースやスタジオなど合計10の施設が連なり、企業と学生が共存できる設計となっています。
同大学院の狙いは、ニューヨーク中から集まる革新的なアイデアをもった若者に、大手企業やテック系投資家と共同してスタートアップ※させることです(参照:THE BRIDGE)。コーネル・テックキャンパスはテクノロジーの中心地としてニューヨークの名をさらに高めるだろうと期待されています。
また、マンハッタンのルーズベルト島に建設中のキャンパスが2017年に完成する予定。さらにイスラエル工科大学は応用科学の大学院を中国の広東省にも設置する計画があります。
※スタートアップとは単なる起業を意味するものではなく、新しいやり方・ビジネスモデルで、大きな成長を狙うこと。あるいはその組織集団。
1-1 コーネル・テックが提供する起業プログラムとは
コーネル・テックでは「起業精神を持つテクノロジー製品マネージャーの育成」を大学理念に掲げています。学生の多くは科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の学問を一括に扱うSTEM系と呼ばれる学位を専攻。ハイテク分野に特化した学生を育てるのが目的で、アメリカ教育界も熱心に力を注いでいます。(参照:東洋経済オンライン)
1-2 日本の企業も共同研究に参加
(出典:イノラボ)
株式会社電通国際情報サービスはコーネル・テックと共同してキャンパスに集まる人に最適な情報を提供するプラットフォームの構築に取り組んでいます。同社は「いま、キャンパスで起きているコト(=イベント)」を可視化させ、利用者はキャンパス内のイベントをマップ上に表示して告知することができるサービスを研究。おもに学問や研究のために存在する大学をビジネスマンや地域住民など広く活用出来る場所にするのが目的です。(参照:イノラボ)
2 路面電車でスタートアップの加速化!
(photo from Friends of the Brooklyn Queens Connector)
昨年2月ニューヨークのビル・デ・ブラシオ市長は、スタートアップ企業が集結するブルックリン区とクイーンズ区※の2つを路面電車で結ぶ構想を発表。2019年に建設に着手し、2024年の開通を目指します。
同計画は走行距離16キロメートル、費用25億ドル(約2580億円)の巨大プロジェクトで「ブルックリン・クイーンズ・コネクター(BQX)」と呼ばれています。ニューヨークを第二のシリコンバレーにするべく市内のスタートアップ企業を後押しする狙いです。
計画を主催するNPO法人のフレンズ・オブ・ザ・ブルックリン・クイーンズ・コネクターは、2035年までに利用者は1580万人に上ると試算。新たに37億ドルの税収にもつながるとしています。(参照:ejapion)
同計画には嵐やハリケーンの自然災害対策などの課題も残されていますが、市民からはおおむね好評です。
※ニューヨークは5つの行政区(ブルックリン区、クイーンズ区、マンハッタン区、ブロンクス区、スタテンアイランド区)からなる。
3 イスラエルのITベンチャーが今アツい
アップルやグーグルなどが競うように買収をしているのがおもにイスラエルのITベンチャー企業です。世界をリードする企業が注目するイスラエル企業の魅力とは一体何なのでしょうか。
3-1 イスラエルがITに強い理由
イスラエルのベンチャー企業数は、約4,000社。その多くがアメリカの大手IT企業から買収されています。
・ITベンチャーの買収例
買収企業 | イスラエル企業 | 買収された技術 |
---|---|---|
アップル | プライムセンス | 3Dセンサー技術 |
グーグル | ウェイズ | 地図アプリ |
マイクロソフト | ビデオサーフ | 検索技術 |
フェイスブック | スナプトュ | アプリ開発 |
日本貿易振興機構ジェトロの調査結果によれば、イスラエルでベンチャー企業が次々と誕生する背景には「失敗を恐れず、ひらめきをモノに変える国民性」があると指摘。たとえば兵役に就いた期間に習得した軍事の知見を基に、兵役終了後に起業し民間転用していると分析しました。
また、研究者が多いことも理由の一つにあげ、労働人口1,000人当たりのビジネス・リサーチャー(ビジネスに応用可能分野の研究者)の数は14.8人で、EUの3.4人の4倍になるとしました。(参照:ジェトロ)
イスラエルは内外に抱える地理的・政治的問題を理由に国土、人口、資源などに制限があります。そのため機械産業よりもIT産業が重視されてきました。日本同様、エネルギー資源をほとんど持たず国土の多くが砂漠で覆われていましたが、それをきっかけに先進的なハイテク技術や医療技術、バイオテクノロジーなどを発展させました。
3-2 今後のイスラエルと日本企業の関係は?
昨年7月、東京と大阪で開催されたイスラエルIoT※フォーラムではイスラエルのITベンチャー企業12社が招かれました。日本のIT企業や金融、商社などの関係者も多数参加し、各会場を埋め尽くしました。
イスラエルからの参加者はサイバーセキュリティーやヘルスケア、スマート家電、エネルギーインフラ故障診断、画像処理センサーなど多岐にわたる技術プレゼンテーションに耳を傾けつつ、「販売、OEM※(相手先ブランド)提携先を探している」と訴えました。2020年に開催予定の東京五輪に合わせて日本市場に参入したいとの考えを示しました。(参照:ニュースイッチ)
※IoTとはInternet of Thingsの略でモノとインターネットと訳される。モノ同士が互いにインターネットを経由して情報のやり取りを行うことを意味する。
※OEMとは他者のブランドで製品を生産・製造すること、またはメーカを指す。