監査役会は、会社の業務執行を監督する重要な機関であり、監査役会設置するには、取締役会設置会社である必要があります。取締役会設置会社が監査役会を設置する重要なメリットとして、会社経営がより客観性とコンプライアンス重視という経営方針を対外的にアピールできることや余剰金の配当等を取締役会の権限とするには、監査役会の設置がそのための要件の1つになっていることを挙げることができます。
監査役会は、独任性の監査役で構成され、しかも外部監査役も選任する必要があるので、コーポレート・ガバナンスの担い手機関として期待される機関です。
目次
監査役会の意義
監査役会とは、監査役で構成する株式会社の職務執行を監査する合議体の機関のことです。民主主意義の基本的な構造である3権分立に例えれば、株主総会が国会、政府が取締役会、裁判所が監査役会に該当します。
委員会設置会社以外の大企業で、株式譲渡制限を設けていないいわゆる公開会社は、取締役会の設置が会社法上義務付けられています(会社法328条1項)。
大会社では、会社運営の規模が大きくなるので、監査役の監査調査機能を分担して監査が有効に機能するように監査役会の設置が義務化されました。
監査役会は、3人以上の監査役で構成され、かつ、そのうち半分以上の監査役が社外監査役である必要があります。尚、社外監査役とは、「過去にその会社又は子会社の取締役・会計参与(法人の場合はその職務を行うべき社員)・執行役又はその他使用人となったことがない者」のことで、当該株式会社の監査役はもちろん、子会社の役員も使用人にもなったことのない、正真正銘の外部の者である必要があります(法335条3項、2条16項)。
監査役会の権限
監査役会は全ての監査役で組織された合議体であり、以下に掲げる業務を行います(法390条1項2項)。
①監査報告の作成、②常勤の監査役の選任及び解職、③監査方針の決定、監査役会設置会社の業務及び財産状況の調査の方法その他監査役の職務執行に関する事項の決定。
①に関しては、監査役会の監査役は、各自独任性を持っているので、その監査役各人の監査を統合して1つの監査報告としてまとめるもので、監査報告は、各監査役の報告に基づき、監査役会がまとめ作成します。監査役会の監査に関する意見は監査役会における多数決によって統合されますが、各監査役は、監査役会の監査報告と自分の監査の内容が異なる時は、異論の有る監査役は、監査役会監査報告に自己の監査役監査報告の内容を付記することができます。
これは、最高裁判決において、最高裁判事が自己と異なる法定判断を行った場合等に、各最高裁判事が自己の見解。意見を付記できることに似ています。
③に関して注意することは、監査役会の構成員である監査役は、個々に独任性を有しているので、その監査役個人の権限行使を監査役会が制限することはできないことです。
また、②については、監査役会は、少なくとも1人は常勤の監査役を選定する必要があります。
なお、常勤監査役である具体的な規定は、会社法上存在しませんが、一般的な解釈から「フルタイムで監査業務を行う者」と解されます。しかし、複数の会社で常勤監査役を務める者も存在し、この定義はいささか現実にマッチしていないとも考えられ、学説上に争いがあります。
監査役は、監査役会の求めがある場合は、いつでもその職務の執行状況について監査役会に報告しなければなりません(390条4項)。ただ、取締役、会計参与、監査役または会計監査人が、監査役の全員に対して監査役会に報告すべき事項を通知した場合は、その事項について監査役会に報告する必要はありません。
監査役会の監査の範囲
監査役会設置会社は、たとえ全株式に譲渡制限を加える株式会社であっても、監査役会が行う監査の範囲を会計監査のみに限定することできません。(法389条1項)
監査役会の運営
1.招集方法
監査役会は、常設の機関ではなく、必要に応じて開催される機関です。監査役会の招集については、原則として招集権を有する者(招集権は、原則として、個々の監査役にあります。ただ、取締役の招集手続きにおいて可能である招集権者を定めることはできません)が、各監査役に監査役会の招集を通知しますが、監査役の全員が同意すれば、監査役会の招集通知手続きを省くことは可能です。(法392条1項、2項)。
これにより、あらかじめ監査役会の構成員全員の同意で定めた監査役会の定例期日に監査役会を開催する場合は、その度ごとの開催招集手続きは不要になります。
招集通知は、書面に限らず、口頭での通知も有効です。監査役会の招集通知は、取締役会開催と同様に、原則として開催の1週間前(定款で期間を短縮することも可能)までに発する必要がありますが、招集通知に監査役会の議題等を記載する必要はありません。
何故なら、各監査役は、監査に関する様々な事項や問題について、監査役会に付議されることが当然に予定されることを承知していることが監査役には求められているからです。
2.決議について
監査役会の決議は、監査役の過半数によって、事案の可非が決議されます(393条1項)。監査役会の決議に関しても、取締役会の場合と同様に、監査役は個人として信頼を受けて選任されているため、各監査役につき1つの議決権の行使が認められます。ただ、株主総会で容認されている代理人にる議決権の行使は認められませんので注意して下さい。監査役はあくまでも、会社の業務執行に関する監査・監督の専門家と言え、権限とそれに伴う責任大きな役職と言えます。
なお、監査役会の議決に関して、その手続きや内容上に瑕疵が認められた場合は、原則として当該監査役会は無効になります。
3.監査役会の議事録について
監査役会の議事については、法務省令で定めるとことに従い、議事録を作成し、出席した監査役の署名または記名捺印を行い、(法393条2,3項規則109)10年間本店に据え置く必要があります。尚、議事録については、電磁的記録によることも可能です。
監査役の議事録は、①株主は、その権利の行使をするために必要がある時は、裁判所の許可を得て、議事録の閲覧・謄写を請求することができ、②会社債権者は、役員の責任追及に必要の有る場合は、裁判所の許可を得て、議事録の閲覧・謄写を請求することが可能で、③親会社の社員(親会社の従業員ではなく株主等)は、その権利を行使するために必要がある時は、裁判所の許可を得て、議事録の閲覧・謄写を請求することができます。
ただ、③の場合では、裁判所の判断により、議事録の閲覧・謄写を行う事が、当該会社と会社の親会社、子会社に著しい損害を及ぼ恐れがあると認められれば、許可することは認められません。
尚、監査役会において、決議に反対した監査役であっても、議事録に異議をと止めておかないと(明確にこの事案に私は反対しましたと記録を残しておかないと)、法的には決議に賛成したものと推定され、不利益を被る可能性があるので注意が必要です(法393条4項)。
監査役会設置会社とその新設
監査役会の説明の際によく、監査役会設置会社という語句が登場しますが、監査役会設置会社とは、監査役会をおく株式会社及び会社法の規定により監査役会を設置しなければならない株式会社のことです(法2条10項)
原則として、会社法上に株式会社が監査役会を設置しなければならないといった規定はありませんが、例外として、大会社や一部の株式についても譲渡制限規制を設けていない「公開会社」は、会社の機関設計において、委員会設置会社を除き監査役会の設置が義務付けられています。このような会社が監査役会設置会社です。
監査役非設置会社は、定款を変更して監査役会設置会社になれます。監査役会設置会社の定めの新設は定款変更事項に該当するので、株主総会の特別決議が必要で、また、取締役会を設置していない会社が監査役会を設置すれば、取締役会設置会社となります(327条1項2号)。