会社の組織形態の一つで、経営の監督と業務執行を明確に分離し、監督機能の強化と経営の適法性を図る目的で導入されたのが指名委員会等設置会社の制度です。
目次
- 1 委員会制度が導入された背景
- 2 指名委員会等設置会社の制度の概要
- 2-1 委員会の概略
- 2-2 指名委員会の役割
- 2-3 報酬委員会の役割
- 2-4 監査委員会の役割
- 3 指名委員会設置会社のメリット
- 4 国内のコーポレート・ガバナンス移行状況
- 4-1 三菱UFJ、指名委員会等設置会社に移行
- 4-2 上場企業の移行状況は?
1 委員会制度が導入された背景
指名委員会等設置会社は、平成26年6月の改正前は委員会等設置会社と呼ばれていました。従来の株式会社と比べてコーポレート・ガバナンス(企業統治)の方法が異なっている点が特徴です。
グローバリズムの波が押し寄せる中、日本の会社は国際競争で勝ち抜くためのさまざまな法整備を進めていました。その中の一つが取締役会の経営監督機能の強化です。
会社は規模が拡大すると、取締役会が取扱う事項や役員の人数が増え、しだいに迅速な意思決定をすることが難しくなりました。
これまでの取締役会や監査役制度は、十分な監督機能が発揮されていないとの批判もありました。
そこで、取締役会から業務執行権を切り離し、執行権は執行機関を委任することとし、取締役会は監督機関として位置づけられました。
代表取締役の権限がスリム化され、執行と監督の役割がはっきりと別れたことで経営のスピードが高まりました。
2 指名委員会等設置会社の制度の概要
前述のとおり、委員会設置の目的は、執行と監督を分離することです。
指名委員会等設置会社では、おもに社外取締役で構成される指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3委員会の設置を義務付けています。
取締役は業務執行を行わず、代わりに業務執行を行う執行役が置かれます。
(参照:法と経済のジャーナル)
2-1 3委員会の概略
各委員会は、3名以上の取締役で構成されます。また、独立性の観点から、各委員会の委員の過半数は、社外取締役である必要があります。
社外取締役とは代表取締役などの会社役員と利害関係のない、独立した社外の人物から選任された取締役をいいます。経営の監督機能の強化のため社外取締役を採用するため、高い独立性が求められます。
取締役会における社外取締役の構成比率に決まりはありませんが、3委員会については次のように決められています。
2-2 指名委員会の役割
指名委員会は取締役会に提出する取締役の選任や解任に関する議案の内容を決定します。
指名委員会のメンバーは、取締役会で3名以上選任され、過半数は社外取締役でなくてはなりません。
2-3 報酬委員会の役割
報酬委員会は、取締役と執行役が受け取る個人別の報酬の内容や方針を決定します。指名委員会同様、取締役会で3名以上選任され、過半数は社外取締役でなくてはなりません。
2-4 監査委員会の役割
監査委員会は、①取締役と執行役の職務の執行を監査し、②株主総会に提出する会計監査人の選任・解任・不再任に関する事項を決定します。指名委員や報酬委員と同様に、メンバーは取締役会で3名以上選任され、過半数は社外取締役の必要があります。
ただし、監査委員会のメンバーは、委員会設置会社の執行役、業務執行取締役または子会社の執行役、業務執行取締役などを兼任できません。
監査役委員会の任務は、取締役と執行役の業務執行の監査ですので、執行役を兼ねる取締役が監査委員では自己監査になり、意味をなさないからです。
3 指名委員会設置会社のメリット
指名委員会等設置会社は、他の株式会社と比較し場合、経営の透明性が高いことから対外的な信用を得やすいという利点があります。アメリカ型の企業統治形態に近いため、海外の投資家に説明がしやすいというのも理由に挙げられます。
コンプライアンス(=法令遵守)の精神は、今や株式会社になくてはならないものとなりました。法の精神に基づいて企業経営を行うことは、社会的評価を高め、企業価値を高めることにもつながります。
さらに、監督と執行が分離されたことで、経営のスピードや自由度がはるかに高まります。
4 国内のコーポレート・ガバナンス移行状況
近年、大手企業が指名等設置会社に移行した例として三菱UFJファイナンシャル・グループが挙げられます。
4-1 三菱UFJの指名委員会等設置会社の移行
2015年6月、三菱UFJは監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行する方針を決定。その理由として、グローバルな金融グループとしての進化・変革を進めるなか、指名委員会等設置会社への移行により、コーポレート・ガバナンス態勢の更なる高度化を進めるとコメントしています。
三菱UFJは現状の監査役会と任意の委員会を、指名委員会、報酬委員会、監査委員会、リスク委員会※の4委員会に再編し、実効性が高く効率的なガバナンス態勢を構築するとしました。
・4委員会の設置
(参照:三菱UFJファイナンシャル・グループHP)
※ リスク委員会は社外取締役を委員長とし、社外取締役、社内取締役と社外専門委員で構成。グループ全体のリスク管理全般に関する諸事項を審議し、取締役会に提言する機関である。またリスク管理全般に関する重要事項、トップリスク事案等に関する事項とその他リスク委員会で審議を要する重要事項を審議し、取締役会に提言する。
4-2 上場企業の移行状況は?
東証一部上場を対象としたコーポレート・ガバナンス(企業統治)形態の調査では、東証1部上場企業1,970社において、指名委員会等設置会社に移行した割合は3.1%(61社)となりました。
また、指名・報酬委員会のいずれかを設置する企業は、法定で61社、任意で546社、合わせて30.8%(607社)となったことも発表。
取締役における社外取締役の構成比率については、2004年では社外取締役は0人と答えた上場企業は全体の70%に及びましたが、2016では1.1%まで減少。
最も多かったのは、社外取締役は2人と答えた企業で全体の49.8%を占めました。
社外取締役が取締役会に占める比率 | 2014年 | 2015年 | 2016年 |
---|---|---|---|
過半数 | 2.8% | 2.8% | 3.5% |
3分の1 | 12.4% | 18.9% | 30.1% |
3人以上 | 14.2% | 21.2% | 35.7% |
(参照:日本取締役協会「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」)
その他参考文献:日本取締役会著『委員会等設置会社ガイドブック』