会社設立というと、非常に複雑な手続きが必要であるというイメージをお持ちの方も多いでしょう。確かに、会社の形態や事業目的の決定、許認可の取得、設立後の手続きなど、会社設立の準備段階、設立手続きそのもの、設立後の手続きは、非常に複雑です。しかし、会社設立の専門家のサポートを受けることで、複雑な手続きの大部分を代行してくれて、アドバイスなども受けられます。そのため、できるだけ会社設立を行う場合は専門家に依頼するのが望ましいといえます。まず当記事で、会社の作り方の全体像を押さえてみてください。
1 会社の形態を選ぶ
まず、会社の形態をどのようにするのかを決める必要があります。メジャーなのは株式会社及び合同会社です。大半の場合はこの2つのどちらかから選びますが、参考までに一般社団法人、NPO法人についても触れておきます。
1-1 株式会社
一番知名度が高い法人の形態です。以前は、株式会社を設立するのに資本金1,000万円を用意する必要がありました。現在は、資本金1円から設立できます。(ただ、資本金は法務局で会社の全部事項証明を取得することで第三者でもわかります。資本金1円では、信頼を得ることは相当厳しいでしょう。
実務上は、最低でも50~100万は資本金として用意、ある程度資本金が用意できる場合は、以前の有限会社の最低資本金と同じ300万円かそれ以上を資本金とするケースが多いです。
株式会社のメリットとしては、
- ①知名度が高く、外部から違和感を与えない
- ②外部からの出資が受けられる(特に、VCなど外部からの出資を受ける場合は株式会社であることが必須)
- ③会社を拡張する際に、様々な面で有利
株式会社のデメリットとしては、
- ①設立が合同会社より日数がかかる(1週間から10日程度)
- ②設立費用が合同会社より高い(一般的には登録免許税9万と公証人役場での定款認証費用の約5万2千円で、約14万2千円高い)
- ③決算を官報やネットで公告するなど、自社決算を外部に開示する義務がある
- ④最初の定款で設定した役員の任期の2年~10年(一般的には10年を設定するケースが多い)を過ぎる前に、法務局に役員の再任の登記手続を行う必要があり、費用がかかる
以上が株式会社の特徴的な点といえます。
会社の形態として一番メジャーかつ確実なのが株式会社です。迷ったら、株式会社でよいと言っていいぐらい確実な選択肢です。
1-2 合同会社
合同会社は2006年の会社法改正から設立が認められるようになりました。株式会社より早く、安く作れることや、決算の外部公告が必要とされない、役員の任期がないことから一人会社、プライベートカンパニー、少人数の起業でよく利用されます。
合同会社のメリットとしては、
- ①近年は合同会社の認知度も高まってきつつある(Appleなど複数の外資系法人も合同会社)
- ②設立費用が株式会社より安い
- ③決算を官報などにより外部に公告しなくて良い
- ④役員の再任の手続きが不要
合同会社のデメリットとしては、
- ①地方だと合同会社の存在はまだマイナー
- ②合同会社の場合、出資者=経営陣という形になるため、外部からの出資が受けられず、外部出資を受ける場合は株式会社に組織改編することが求められる
- ③組織拡大を考える上では合同会社から株式会社へ改組することが必要になってくる
という点などが挙げられます。
1-3 一般社団法人
一般社団法人については、近年の社団法人改革で、社団法人が公益社団法人と一般社団法人に分かれました。公益社団法人は認定要件が厳格になる一方、一般社団法人は非常に設立がしやすくなりました。
公的な団体しか社団法人は設立できないと誤解されがちですが、現在は一般社団法人であれば、理事1名、社員2名(理事・社員は兼任可能)で設立が可能です。
組織の性質上、起業にはさほど馴染みませんが、検定、協会ビジネスを行う場合などは、一つ視野に入れても良いでしょう。
一般社団法人のメリットとしては、
- ①若干であるが信頼性が高い(昔の公益法人のイメージを持つ人が少なくない)
- ②公益的な側面も持つが、NPOのように利益を求めないわけでない、という場合に向く
- ③社会起業に向く
- ④NPO法人と違い、管轄官庁への認証が不要で、定められた要件さえ備えれば登記が可能
一般社団法人のデメリットとしては、
- ①通常の起業には向かない
- ②2名以上が必要
- ③残余財産の帰属先について、定款であらかじめ社員に帰属すると定めることはできない。ただ、「社員総会の決議で残余財産を社員に帰属させてはいけない」という法律はないので、解散後の残余財産の扱いをどうするかを一般社団法人設立時に専門家と相談することが望ましい
以上の点が挙げられます。
1-4 NPO法人
以前は社会起業と言えばNPO法人というイメージが強かったです。
しかし近年、制度上の課題や設立時の管轄官庁への認証手続きの煩雑さ、10人以上の正会員が必要な点、毎年の管轄官庁への事業報告などの煩雑さから、実務面では選択されにくくなっている傾向が見られます。
メリットとしては、
- ①NPO法人として認証されていることで、ある程度の信頼性を担保できる
- ②NPO法人など公益のため団体向けの、自治体助成・補助金制度が存在することがある
デメリットは、
- ①営利を目的としないのが原則(ただし、利益を出す分にはかまわない)
- ②毎年の管轄官庁への届出が必要で、怠ると認定を取り消される場合がある
- ③残余財産は定款で定めた先か、定めない場合は国庫に帰属する場合もある
- ④近年、NPO法人にも様々な団体が増え、一部問題のある団体のために、NPO法人への信頼が以前より揺らぐ傾向がある
など、「非営利」の側面が強いため、一般的な起業には、NPO法人は向かないといえましょう。
以上をまとめると、やはり確実なのは、株式会社か合同会社、できれば、株式会社の設立が、起業という観点では望ましいといえましょう。
2 事業目的などを決める
会社設立の上では、様々な事項を自分で決めておかないといけません。先ほどの会社の形態を、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人のどれにするかも一つですが、決めることはそれだけではありません。
会社の事業目的、役員構成をどうするか、資本金をいくらにするか、本社所在地をどうするかなどを、事前に決めたり、あるいは会社設立の専門家(税理士・司法書士・行政書士・会社設立代行会社など)と相談し、検討する必要があります。
2-1 会社の事業目的をどうするか
まず、会社の事業目的を決める必要があります。なぜわざわざ会社の事業目的を文字にしないといけないのかというと、
- ①事業目的を法務局に登記することにより、この会社は何を事業としている会社か、第三者でも確認できるようにするため
- ②事業によっては、監督官庁の許認可・届出が必要な業務があり、その際に会社の事業目的に、許認可・届出にかかる事業の内容が盛り込まれている必要があるため
という点が主に挙げられます。
また、会社の事業目的に、「特に何もやることが決まっていないから、あらゆる事を書いていておこう」と、何十もの目的を定めようとする人もまれにいるかもしれませんが、それはおすすめできません。
こちらも理由を2点挙げると、
- ①事業目的があまりにも複数だと、(事業目的は法務局に登記され、全部事項証明書の取得により第三者でも確認できるため)この法人は何をやりたいのか、場合によっては、よからぬ意図を持って設立された法人ではないか、など不信感を与えるおそれがある
- ②事業目的に貸金業など一定の事業目的が記載されていると金融機関から融資を受けられない可能性がある
以上の点が挙げられます。
事業目的を定める際には、ある程度幅広さ、柔軟性を持たせる必要がありますが、だからといって、思いついたことをなんでも書いていたのでは、第三者から本気度を疑われてしまう可能性さえあるのです。
また、許認可・届出を要する事業の場合、許認可・届出の要件に合致する事業目的でないと、許認可が降りなかったり、届出申請の受理が拒否される可能性もありますので、許認可・届出が絡む事業の場合は、特に会社設立の専門家と厳密に協議し、問題なく許認可・届出が行えるように備えておくことが重要です。
2-2 役員構成を決める
会社設立のメジャーな形態である株式会社、合同会社についてはそれぞれ、代表取締役、代表社員の一名が存在すれば設立は可能です。
また、役員が複数になる場合は、取締役、理事、幹事などの選任もできますが、こちらも会社の規模や構成人員、各人がどれだけ経営にコミットするかを踏まえ、会社設立の専門家と最善の形を協議した方がよいでしょう。
2-3 資本金をどうするか
前項でも言及しましたが、資本金の額の大小は、経営者の本気度・資本力が外部からわかるバロメーターでもあります。
2-4 本社所在地をどうするか
本社所在地についても、下記のポイントを踏まえて考慮する必要があります。
①自社の業態に向いた本社所在地にする
自社の事業が、店舗を構えて行う業務かつ不特定多数に来て欲しい業種なのか(飲食店・小売店・サービス業など)か、店舗は必要だが、不特定多数ではなく、必要な顧客に来て貰えればいいという業種か(不動産業・製造業・建設業)、店舗を必ずしも構えなくてもよい業務なのか(IT・コンサルタント)など必ずしも来客を要しない業種なのかで、立地を検討する必要があります。
不特定多数に来て欲しい業種であれば、都心や中核都市であれば、駅に近く、人通りが多い立地が望ましいといえますし、ビルであれば1Fと2F以上では目のつきやすさ、入りやすさが変わってきます。
一方、店舗を要するが必要な顧客に来て貰えればいい、という業種では、業種に応じた所在地を選んだり、仲の良い同業者がいてスペースに余裕がある場合は、間借りさせて貰うという方法もあります。
店舗を要しない業種であれば、基本的には事務所賃貸、自宅開業など好きな場所を選べばよいとは思いますが、人によっては自宅兼事務所より専門の事務所を有する事業者を信頼する考えを持つ人もいます。
従業員を雇用する場合は、事務所があった方が雇用者・被雇用者ともに通いやすいでしょう。
また、人によっては事務所の所在地で会社を判断する人もいます。人の価値観はそれぞれですので「自分がお客さんにしたい人はどういう人か、どういう価値観を持っているか」を想定し、それに応じた立地とすればよいでしょう。
例えば、所在地や立地にこだわる伝統的な価値観を持つ人をお客さんにしたければ、それ相応の立地を選ぶのが望ましいです。資産を持つ人などを対象にするビジネスを行う場合は、中心部の立派なオフィスを構えることが、信頼感を得るためにも必要でしょう。
逆にITで、業務をリモートワークで受託するなど、所在地にとらわれない柔軟なビジネスをしている場合は、自宅兼事務所やコワーキングスペース(ただし、口座開設の問題がありますので、その点は後ほど述べます)で問題ないでしょう。
当然ですが、事務所を独立して構える場合は、相応の運営費がかかりますので、その点も踏まえ、適した本店所在地を考えてください。
②シェアオフィス・レンタルオフィスの利用について
起業当初は、シェアオフィス・レンタルオフィスの利用も選択肢の一つといえますが、一点だけ気を付けていただきたい点があります。
それは、「金融機関の口座開設が、利用を検討しているシェアオフィス、レンタルオフィスで許可されるか」という点です。
近年、金融機関の法人に対する口座開設が非常に厳しくなっています。シェアオフィス・レンタルオフィスでも、口座開設が可能なケースと、断られるケースがあります。(シェアオフィス等で、固定スペースがある場合はプラスに働くこともあります)
また、所在地と電話番号だけを貸す、「バーチャルオフィス」というサービスもありますが、この場合はさらに厳しく判断をされることが想定されます。
いずれにせよ、本店所在地を決定する前に、口座開設を検討している金融機関に相談し、問題がないかを確認しておく方が安心でしょう。
あわせて、会社設立の専門家、特に税理士ですと、元々多くの金融機関と付き合いがある事から、シェアオフィス・レンタルオフィスで問題ないかの判断や、地元金融機関への紹介などを行って貰える可能性がありますので、専門家に依頼する場合はぜひ口座開設の相談もすることをおすすめします。
③通勤に適した立地か、来客が来訪しやすい立地かなど「良い立地か」を考慮する
都市中心部と地方で、「良い立地」の特性が異なります。
電車での移動を前提とした中心部であれば、駅からのアクセスのしやすさ、社員がいる場合は社員の通いやすさは重要になります。
一方地方都市、地方においては、車でのアクセスが前提になります。わかりやすいロケーションかどうか、駐車場は確保できているか、近くに知名度の高い建物があり所在地を案内しやすいか、看板などにより誘導しやすいかなど、車でのアクセスを前提にし、わかりやすい本店所在地であることが求められるでしょう。
いずれにせよ、「誰もがわかりやすく、アクセスしやすい場所」であることが望ましいといえます。
3 会社名を決める
会社名は会社の法律である「会社法」や定款、登記簿謄本等において「商号」と呼ばれます。会社名の法律上の正式名称が商号、ということです。法律の規定となるため会社名にはルールがある、ということになります。まずはそのルールから見ていきましょう。
会社は会社法によって「株式会社」、「合同会社」、「合名会社」、「合資会社」の4種類があります。会社名にはこれら4種類の内から、自社の該当する種類を必ず含めることになっています。
例えば、「令和商事」という名前を考えて種類が株式会社の場合は、会社名は「株式会社令和商事(または令和商事株式会社)」と付けることになります。株式会社を含めなかったり、株式会社をその他の種類である「合同会社」にしたりすることはできません。
会社名には使える文字と使えない文字があり、文字ではない記号も一部のものは使用することができます。使える文字は、日本国内において常用文字とされる平仮名、カタカナ、漢字です。漢数字である、「一、二…十、百…」等も使用できます。ただし、漢数字でも〇(ゼロ)は使用できません。
また、使用できる文字には他にもローマ字(a~z、A~Z)、アラビア数字(1~9)があります。そして一部の記号(「&」、「-」、「’」、「,」、「・」、「.」)も使用可能です。ローマ数字(ⅰ、ⅱ…等)やローマ字以外の外国文字(例えばギリシャ文字(α、β…)等)は使用できません。
使用できる文字のうち、ローマ字、アラビア数字、一部記号はかつて会社名として使用することができませんでしたが、会社名の使用文字の規則を定める「商業登記規則」の2002年11月改定によって使用することができるようになりました。
例えば、改正以前の2002年11月以前設立の架空の株式会社ABCDを例にすると、設立当時では世間に向けて「株式会社ABCD」と名乗ることは自由でしたが、登記簿謄本上では「株式会社エービーシーディー」として登記せざるを得ませんでした。
なお、会社名に画数の考えを取り入れる場合、ローマ字にも画数があります。例えばAやBは画数3となり、Cは画数1となります。画数に基づいて会社名を検討する場合は、画数の専門家に相談するのが確実でしょう。
その次のルールは「公序良俗を害するおそれのある商標」を会社名とすることはできない、というものです。これは、犯罪行為や差別的語句、及びそれらを連想させるもの、そして他人を不快にさせるものは会社名とすることはできない、ということを意味しています。
例えば、「株式会社詐欺」という会社名はこのルールに基づいて認められません。この公序良俗に関するルールは、知的財産権を扱う法律である「商標法」に基づいたものです。会社名も知的財産の一つですので、その取扱いには十分注意するようにしましょう。
また会社名には、自治体や公的機関との関連を想起させるものや、公共物や公共利益を独占する恐れのあるもの、金融機関であることを指す「銀行」や「保険」等、そして「支店」や「支社」等の会社の一部を表す単語も使用することができません。
仮に、新たに設立する会社が既存の会社の子会社で、実態として親会社の支店的な役割を果たすものであっても、その子会社の会社名に「支店」等を付けることはできません。既存の会社「株式会社ABCD」の新規設立子会社の会社名を「株式会社ABCD支社」とすることはできない、ということです。
なお、上記の例では「株式会社ABCDサービス」のように、既存の会社名を含むことには問題ありません。あるいは、同一の住所でない場合には、全く同一の会社名を付けることはルール上認められていることになります。
すなわち、同じビル(番地)内には株式会社ABCDは2つ存在できませんが、異なる本所所在地である場合には2つ以上存在することができる、ということです。ただし、人や物には前述の知的財産権がありますので、既存のブランドや確立した商品・イメージ名称を会社名に含んでいる場合には注意が必要です。
例えば、新しく設立する会社「株式会社ABCD」の「ABCD」が、既存のブランド名である場合や、ブランド化した同一の会社名が存在している場合は、既存の「ABCD」にまつわる会社から「不正競争防止法」を根拠に訴えられる可能性があります。
訴えられないまでも、また単純に被ることを知らなかった場合でも、先に存在していた会社から良く思われなかったり、またお互いの会社や顧客に混乱や損失を引き起こしたりする恐れがあります。特に、近隣地域内の同じ会社名の有無は気にしておいた方が良いでしょう。
会社名を検索するには、国税庁が用意した法人番号検索サイト(国税庁法人番号公表サイト)を活用するのも1つの方法です。検索結果から、同一会社名の有無とおおよその所在地も表示されます。
以上が会社名に関するルールになります。まとめると、
- (1)会社の種類(「株式会社」等)は必ず含める
- (2)文字には使える文字(国内常用文字とローマ字、一部記号)と使えない文字(大部分の記号とローマ字以外の外国語文字)がある
- (3)公序良俗を害したり、公共機関や金融機関に関連したりする語句は使えない
- (4)会社名の重複は(同一住所でない場合)登記上問題無いが、イメージや相手方の心証に気を付ける
の4つとなります。
3-1 印象に残る語句を使う
顧客は会社名を見た時点で、会社選定作業を始めているものと心得ましょう。その視点で考えると、馴染みのある言葉や、イメージのしやすい語句から会社名を決めることは、印象に残るための大事なポイントといえます。
会社名にありきたりな言葉を使うことは悪いことではありません。聞き慣れない英単語を含めていたり、長過ぎたりする会社名では、引かれてしまったり関心を持たれなかったりする恐れがあります。
そして、印象に残る言葉を会社名として使用していると、会社名から話しが広がり、商談に繋がる可能性も出てきます。会社名に込めた思いや由来の話しを用意することで、会話も弾み、こだわりのある経営者と会社であると印象付けることもできます。
流行の言葉を会社名に取り入れることも一つのアイデアですが、流行と同様に廃れたときのことも踏まえて一過性のものとならないよう慎重に考えるようにしましょう。
3-2 業種や商品、地域を意識する
会社名に業種、商品、地域を含めることは分かりやすく、かつ覚えて貰いやすい方法です。会社名に地域を含めることを古臭いというイメージとして捉えるかもしれませんが、地域を大事にして地域に誇りを持っている、という好印象として捉えられることもあります。
地域の特産品を活用した商品を扱っている場合は、地域と商品名を会社名とすることで会社名自体が宣伝効果を持ちますし、これ程分かりやすい顧客へのアピールもありません。地域を背負って商売をするというイメージから、同じ地域の経営者から親近感を持たれることにも繋がります。
3-3 造語を使う
馴染みのある単語同士を掛け合わせた造語は記憶に残り、また好印象となる場合があります。上場企業にも会社名に造語を用いている会社があります。例えば、「マイクロソフト」は、マイクロコンピュータ(小型のコンピューター=パソコンの前身)とソフトウェアを組み合わせた造語です。
また、「サントリー」は創業者の「鳥井」氏と「Sun」を組み合わせたものが由来とされています。Sunには主力商品の一つ赤玉ポートワインの赤玉をSunに見立てたという意味も含まれています。なお、創業者の「鳥井」氏と「佐治」氏を掛け合わせてサントリーとした、という説もあるようです。
ただし、イメージの沸かない、全くの造語の会社名は印象に残らず、むしろ人によっては怪しい感覚を持つ場合がありますので注意しましょう。
3-4 インターネットの検索を意識する
現代において、ある商品や、ある作業を請け負う会社を探すときの最大の手段は、インターネットによる検索です。
業種や商品名を会社名にしておくと、検索される可能性が高まります。実情では同業他社も検索対象となりますが、自社ホームページに会社所在地を記載する等によって、同地域の人の検索結果においては上位に表示される可能性があります。
また、業種や商品名を会社名に含まない場合でも、印象に残る言葉を会社名としていれば、「後で調べてみよう」と思わせることで、会社を検索して貰う動機となり得ます。
3-5 ホームページを意識する
インターネットの検索は自社のホームページに誘導するための手段です。ホームページは現代の重要な宣伝媒体となります。また、卸売業や小売業のような商品販売業の場合は、会社のホームページが商品を販売するための場所であり、その他の業種であっても、受注の窓口としての役割を担います。
ホームページを設ける際には「ドメイン」が必要です。ドメインとは、インターネット上の住所といえるもので、同名の会社がある場合には既にドメインを取得されている場合があるため、会社名を考える際にはドメインの候補も考えておくようにしましょう。
3-6 顧客層を意識する
業種や商品のターゲットとなる顧客層をイメージしてみましょう。男性でしょうか、女性でしょうか。若年者層でしょうか、高齢者層でしょうか。
男性や高齢者にはより具体的な、直接的な語句が響きやすいといえます。女性や若年層には、感覚的・直感的な、またはカタカナや英単語を取り入れた語句が好印象となります。自社の顧客層を意識して、1つではなく2つ、3つと候補を考えるのが良いでしょう。
3-7 相談をする
経営者には直感が大事ですが、独りよがりに陥りやすいということでもありますので、客観的な視点を取り入れるために誰かに相談をすることも大事です。会社名の候補を考えてみた後には、先輩や家族、時には同業者に相談してみましょう。
自分一人で思い詰めていると気付かない内にとんでもない所に迷い込んでいることがあります。現在地を知るため、第三者にも相談することを是非考えてください。
3-8 会社名は変更できる?
会社名は変更できます。前章でも触れたサントリーは、創業当時「株式会社壽屋(ことぶきや)」という会社名でした。後に「サントリー株式会社」へと会社名を変更し、更に2009年4月より持株会社として「サントリーホールディングス株式会社」を設立しています。
会社名を変更するためには、まず株主総会にて決議をする必要があります。社長の一存で決められる訳ではない、ということです。
株主総会を開いた後は、新しい会社名となる実印等の印鑑を新調します。そして、その会社名変更を決議した株主総会の議事録や変更登記申請書、株主の氏名や住所を記した一覧表(株主リスト)を用意して法務局に届け出ます。なおこの際、登録免許税として3万円が必要となります。
会社名を変更した後は、法務局以外にも税金の関係により税務署や都道府県、市区町村にも届け出を行うことになります。
また、社会保険に加入している場合には年金事務所や労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)宛の届け出が必要です。取引先銀行と取引先にも変更の連絡と所定の手続きを行うことになります。
3-9 会社名の英語表記は?
インターネットは世界中に開かれたツールであり、ホームページは外国からも閲覧することができますので、海外を意識することは販促の場を広げることに繋がります。会社名を英語表記する方法を見てみましょう。
株式会社を英語でいうと「Corporation」となります。ソニー株式会社の場合は英語表記を「Sony Corporation」としていますが、英語表記に厳密なルールや取り決めは存在しません。
日本国内の会社の英語表記には、会社を表すCompanyの略称「CO.」と、その後に有限責任(Limited)を表す「Ltd.」を付けて、「Co., Ltd.」が良く用いられています。株式会社ABCDの場合は「ABCD Co., Ltd.」となります。
この「Co., Ltd.」の他にも、法人企業を意味するIncorporatedの略称「Inc.」を使用して、「Co., Inc.」(例:ABCD Co., Inc.)も良く用いられています。
なお、アメリカの会社では「Inc.」と「Corp.」の使用が多く、イギリスの株式会社では、先述のLimitedを表す「Ltd.」を必ず入れるルールとなっています。
4 会社設立の事前準備をする
いよいよここから、会社設立の事前準備の段階に入ります。事前準備とはいえ、ここで方向性をしっかり定めておくことにより、起業の手続きやその後の事業、資金調達がスムースになりますので、重要なステップとして踏まえていただけるとよいでしょう。
4-1 ビジネスモデルを自身の中で考え、外部に伝えられるようにする
どんなビジネスでも大原則は、
- ①儲かるの?
- ②事業に継続性はあるの?
- ③事業を最終的にはどうしたいの?
という3点が重要になってきます。
それぞれ、より詳しく説明していきましょう。
まず、事業が適正な形で利益を出せて、事業が継続していく(ゴーイング・コンサーン)ことが、あらゆる事業における第一義となります。
いくら社会的に意義がある事業であっても、適正な利益を出せて、事業を継続することができなければ、結局は顧客にも関係者にも迷惑をかけることになります。(給与遅配、不払い、倒産など)
なので、まず「いかに利益を出すか」を考え、第三者が聞いても、「あ、これなら大丈夫だね」と思ってもらえるような事業・事業計画であることがとても大切です。
また、事業の継続性という点は、「一過性のブームや、外部要因で収益構造が揺らぐようなビジネスではないか」という観点で厳しく見ることも重要です。
少し前から流行っているタピオカや高級食パンも、どこまでブームが続くか不明確です。以前にも様々な食品、サービスがブームになり、その後下火になるということが繰り返されています。
このように、流行に乗るビジネスは、流行ってきている時は良いですが、その後ブームが下火になった際、どのように事業・業態転換(ピボット)なり、撤退を図るかのラインを定めるなど、守りの発想も必要となります。
また、ITで自社開発のビジネスを行う場合も、顧客単価が必ずしも高いわけでないサービスの場合は、当面は赤字を掘りつつ、他企業からの開発受託・クライアントワークも受けながら収入を確保するか、ベンチャーキャピタル・金融機関などから出資、融資を受けつつ黒字化まで耐えるかなど、当初利益が出にくいビジネスモデルの場合は、どのように資金面で耐えるかを考える必要があります。
そして、近年はフランチャイズビジネスも相当数増えております。注意すべきは、FC事業サイドの利益モデルはあくまで想定モデルである点です。また契約上もFC側に有利になっているケースが極めて多いです。様々な観点から、フランチャイズビジネスに関わる場合は慎重に考える必要があります。
そしてゴールとして、会社を継続するか、ある程度育てて売却するか、上場まで大きくするかなどの方向性も考えておくと望ましいといえましょう。
ともかくシンプルに、考えている事業が「儲かり、続きますか?そしてゴールはどうしますか?」という観点は常に備えておくとよいでしょう。
4-2 起業にかけられる資金・備品を確認し、融資が必要かを考える
起業に関して、どれくらい資金が用意できるか、備品が必要か、また、融資を申し込むべきかを検討することは重要です。
起業においては、帳簿上黒字でも、預金通帳の残高がゼロになれば、経営など外部からの貸し付け・追加出資がない限り終了です。いくら最初に計画を立てても、その通りに行くとは限りません。
融資に関しては、日本政策金融公庫の創業者向け融資など、創業時が一番申し込みやすい傾向があります。資金の余裕を持たせる意味でも、また融資を受けて返済する実績を作り、信頼構築をするためにも、準備段階から会社設立の専門家、特に税理士などお金回りに詳しい専門家と相談し、融資申し込みなどの資金調達も視野に入れると良いかと思います。
4-3 印鑑登録証明書の準備
会社設立を行う場合、印鑑登録証明書が必要となります。基本的には1通で問題ありませんが、株式会社のように、定款認証の段階と法務局の段階で、2回印鑑登録証明書の原本を提出するケースがある場合、印鑑登録証明書が2通あると手続きがスムースに進みます。
印鑑登録証明書については、既に登録済みですぐに取得ができる人と、まれにですが、印鑑登録(もしくは再登録)の段階からスタートする必要がある人のケースで、印鑑登録証明書の取得にかかる時間が大きく異なってきます。
一番スムースなパターンが、印鑑登録を行っており、印鑑も手元にあり、マイナンバーカード(よく誤解されがちですが、マイナンバーの通知の紙のカードではなく、プラスチックでICチップのついたものがマイナンバーカードです)を保有しているケースです。
この場合、コンビニエンスストアのコピー端末で、6:30~23:00の間、土日であっても印鑑登録証明書を取得できます。
マイナンバーカードを持っていない場合、印鑑登録カードを持って住所登録地の市役所へ平日に行き、印鑑登録証明書を取得する必要があります。(あわせて、実印と印鑑登録証明書の陰影が一致するかも確認した方がよいでしょう。自治体によっては、土日対応できる窓口、出張所があるケースもあります)
遠方の場合は郵送も可能ですが、定額小為替を郵便局で購入する必要があるなど煩雑なので、ホームページか電話でしっかり手順を確認することをおすすめします。
また、印鑑登録証明書を利用することは、日常さほどありません。そのため、印鑑登録をそもそもしていないケース、登録した印鑑を紛失しており、再登録が必要なケースも想定されます。
その場合は、さらに印鑑証明書の取得に時間がかかりますので、代表取締役・取締役となる人については、事前に印鑑証明を取得するよう話をしておくことが重要です。
ただし、一つ注意点として、公証人役場や法務局では、発行後3ヶ月以内の原本を求めてきますので、早めに取り過ぎても、また取得し直すことになるケースもありますので、その点はご注意ください。
4-4 会社設立に関する流れの全体像をおさえる
会社設立に関し、専門家に依頼する場合でも、自分で行う場合でも、どのような流れで会社設立の手続きを行うのかをおさえておくことは重要です。
株式会社の場合を例にした、大まかな流れを説明します。(なお、合同会社の場合は、法務局による定款認証の手続きは不要ですが、定款への4万円の印紙貼り付け、もしくは専門家による電子署名は必要です)
①会社の具体的な姿を定める
事業案や経営計画、商号(いわゆる会社名)、株式会社か合同会社か、もしくは一般社団法人、NPO法人とするか、本店所在地をどうするか、事業目的をどうするか、役員とそれぞれの役割をどうするかを決める。
②発起人で集まり、発起人会を開催
会社を設立する当事者(発起人)全員が集まり、会社を運営する上で上記の事も踏まえた話し合いを行い、議事録を作成する。あわせて、印鑑作成に数日から1週間は最低でもかかるので、社名、代表取締役、本社所在地(できれば電話番号、メールアドレスも)が決まれば印鑑も作成しておく。
③定款作成
発起人会の議事録、話し合いなどを元に定款を作成。定款が完成したら、まず公証人役場へ事前に電話し、FAXかメール(近年は、さすがにメールに対応している公証人役場が増えましたが、以前はFAX対応が基本という公証人役場も少なくありませんでした)で定款の内容を事前確認してもらい、修正指示通りに定款を修正する。
④定款への印紙貼り付けもしくは会社設立の専門家による電子署名の付与
指摘事項が全て問題なく直れば、完成した定款のワードファイルに、専門家の電子署名を付与してもらうか、電子署名を利用しない場合は、法務局、郵便局などで4万円の印紙を購入。公証人役場で認証を行う場合は、最初は貼り付けずに公証人役場の指示に従い貼り付け、消印をすることが望ましい。
なお、公証人役場での定款認証が必要なのは株式会社だけだが、合同会社、一般社団法人、NPO法人とも定款には4万円の印紙貼り付けか専門家による電子署名が必要なことに変わりはない。
なお、定款に電子署名がなく、4万円の印紙貼り付けもない場合、過怠税として本来納めるべき税金の3倍、12万円を納付する義務が生じるため、専門家による電子署名か印紙の貼り忘れがないよう注意。
⑤(株式会社の場合)公証人役場での定款認証
合同会社、一般社団法人、NPO法人の場合は不要だが、株式会社の場合は、公証人役場での定款認証が必要。概ね5万2千円の費用がかかり、電子ベース、紙ベース双方において、発起人全員の実印を押した定款の印刷物と印鑑登録証明書、発起人が行かない場合は委任状が必要となるため、公証人役場へ事前に必要な書類を確認し、必ず予約してから訪問すること
⑥出資金払込
基本的には、代表取締役となる人物の個人口座に、各発起人から資本金を振り込んでもらう。また、誰がいくら出資したかを明確にするために、発起人自身が出資する場合は、自分の口座に、自分の名前で振り込むという手続きをする必要がある。出資者全員からの払込みが終われば、通帳の記帳、コピーを行う。
⑦その他付随書類作成
法務局のホームページや手引き、書籍を参考に、付随書類を作成、必要な場合は代表者など発起人の押印が必要なケースもあるため、注意して作成する。書類が完成したら、正式提出前に法務局の相談窓口で確認してもらう。
⑧法務局への最終確認と印紙購入による登録免許税納付
会社設立のための書類が完成したら、法務局の窓口で最終確認をしてもらう。問題がなければ提出する形となる。株式会社は最低15万円、合同会社等持分会社(合資会社・合名会社)、一般社団法人、NPO法人の場合は最低6万円の印紙を購入し、登録免許税を納付する形となる。
事前に法務局に法人形態と資本金を連絡し、必ずいくらの登録免許税になるかを確認して現金で用意するとともに、印紙売りさばき所で購入した収入印紙に自分では消印しないよう注意。
書類に問題がなければ、正式に受理される。必ず書類の写しを提出直前に取っておくこと。(書類に間違いがあった場合、補正という手続きで部分的な修正を行う必要が出てくるパターンもあるので、書類の写しが提出者の手元にあると確認しやすい)
⑨法務局からの設立連絡と、連絡後の全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)・印鑑カードの取得
法務局に提出した書類に間違いがなければ、数営業日後に法務局より登記完了の連絡がある。その際に、印鑑カードの取得と、全部事項証明書の取得を行う。基本的には窓口で取得するケースが多いが、郵送を希望する場合は、提出時に相談しておくのが望ましい。
なお、全部事項証明書は、銀行の口座開設、事務所の賃貸契約など、複数の手続きで利用するため、2通以上取得し、全部事項証明書が必要な手続きでは、できれば全部事項証明の原本は返してもらうことをおすすめ。
これで概ね2週間~1ヶ月かかると考えた方が良いでしょう。手間・時間のかかる手続きですので、会社設立の専門家に一任することを強くお勧めします。
5 会社設立をプロに依頼する
会社設立の手順全体を見ていただくと、自分で行おうとすることがいかに大変かをご理解いただけるかと存じます。
また、会社設立の手続き自体は、確かに専門家に依頼するよりは費用が節約できるかもしれません。しかし、実質的な節約額は微々たる物です。専門家にお願いすれば可能な定款への電子署名を行ってもらうことにより、定款の印紙代4万円が不要になるため、専門家費用を払ってもさほどの負担額にはならず、会社設立の手続きに使うエネルギーを業務開発、新規開拓に活用する方が、ずっと生産的といえましょう。
5-1 会社設立の専門家を探す
まずは、会社設立の専門家を探すことです。会社設立の専門家を探す上で、ポイントを並べます。
①当サイトのようなサイトで、専門家を決める上の下調べをする
まず、手続き自体は専門家にお任せするとしても、依頼する側が、「資本金って何?」「事業で何をするかを決めていない」という状態では、依頼を受ける側も困ってしまいます。
例えば、旅行をしようにも、行き先や手段、用意できる予算などが決まっていないと、何も決めようがなくなってしまいます。
そのため、資本金としてどれくらい用意できそうか(物で出資をすることができますので、この点は専門家と相談すると、よい方法、適した額を提案してくれるでしょう)、業務内容、誰が役員になるかなど旅ではあれば「どこへ、どうやって、誰と行くか、予算はいくらか」というところを、あらかじめ代表取締役になる人が検討しておく必要があります。
当サイトなどの情報を踏まえ、下調べや会社の大まかな形は、できるだけ自分で考えることをおすすめします。
5-2 会社設立の専門家と面談し、相性を確認する
会社設立の専門家を選ぶ上で大切なのは、「自分と相性があうか(担当者と相性が合うか)」というポイントです。
そのためには、直接面談かテレビ電話、最低でも電話などで、まず専門家、担当者と直接コミュニケーションを取ることがとても大切です。
とはいえ、自分と相性が合うと一言でいっても、様々な要素がありますので、具体的にはどのような切り口から検討すべきかを並べます。
①話していて、直感的に違和感はないか
話していて、「なんとなくこの人とは合わないな・・・」と感じたら、少し立ち止まって考えてみた方が良いでしょう。特に、個人事務所や小規模の事務所であれば特に心に留めた方がよいでしょう。特に、会社設立後の税務・社会保険労務もお任せする場合であればなおさらです。
意外とこの「直感」というのは大切で、「なんとなく気が合いそう」とか「この専門家の話であれば、受け入れられるな」など、一つの大切な要素として心に留めておいて欲しいと感じます。
ただし、ある程度規模のある専門家事務所・法人化した事務所の場合は、担当者が変わることがあります。そのため、担当者との相性は過度に気にせず、また担当者と気が合っても、今後別の担当者に替わる事がある可能性はあるとあらかじめ考慮に入れておくとよいかと思います。
②難しいことをわかりやすく話してくれるか
難しいことをわかりやすく話してくれるか、また、相手(つまり自分)の理解度をきちんと推し量って、難しいこともかみくだいて話してくれるか
相手の理解度を推し量る、わかりやすく説明するという要素も極めて重要です。専門的なことをそのまま話すことは、専門家であれば誰でもできます。
しかし、難しいことを、相手が理解できるまでかみくだき、わかりやすく説明できるかというのはとても重要なポイントです。
より具体的にいうと、
- ・専門用語をできるだけ使わないようにしたり、専門用語を使う場合は、その内容をわかりやすく説明してくれるか
- ・クライアントの理解度を押しはかりながら、クライアントの理解のペースにあわせて話をしてくれるか(早いベースで専門用語を利用しながら話すタイプの方もおられるが、望ましいのは、普通、もしくはゆっくりしたスピードで、専門事項を噛み砕いて説明してくれるタイプが望ましい)
など、聞き手に配慮した説明をしてくれるタイプの専門家が望ましいといえましょう。
5-3 会社設立の手続きに入る
いよいよ、依頼する専門家を決めて、会社設立の手続きに入る段階にきました。こちらが依頼する側だとしても、あくまでお客様的な態度ではなく、パートナーという考え方で接することが望ましいです。
具体的に気を付けたい点は下記の通りです。
①書類の提出・印鑑証明書の取得、印鑑製作はできるだけ早めに
会社設立を作る上で、一番のタイムラグを生じさせるのが、書類の往復の時間です。
テクノロジーが発達し、電子化された手続きが多い現在も、印鑑登録証明書や書類への実印の押印など、会社設立の上では紙ベースの手続きはまだまだ多いです。
書類によっては、取締役全員の実印押印が必要な書類もあるため、取締役の居住地が遠い場合は、郵送などの手間も生じます。
そのため、押印を要する書類は、各関係者ができるだけ早めに押印をしていくこと、また前述のとおり実印であることをしめす印鑑登録証明書など、各種書類の取得は、専門家より指示を受け次第すぐに取得することが大切です。
あわせて、会社の印鑑については、専門家の方で発注してもらうか、自分で注文しておくかも確認した方が良いですが、特別なこだわりがなければ、自分であれこれ選ぼうとして時間を取るより、会社設立の専門家サイドで印鑑を発注してもらう方が、ミスがなく進みやすいと思われます。
②わからないことは丁寧に聞く
先ほど、お客様的態度ではいけないと話しましたが、わからないことがあればその都度丁寧に聞く、わかったふりをしないということも重要です。
会社設立を行う上では、専門的な事項が様々あります。基本的なことは、自分であらかじめ学んでおくことが望ましいですが、それでも話の中で、わかりにくく感じることが出てくるときがあると思います。
そのときは素直に、「これはどういう意味でしょうか?」とか、「当社にとって先生(担当者)ならば、どのような形がいいと思われますか?」など、先方の解説や意見を求めていくのが望ましいでしょう。
また、いろいろ疑問点を聞いていくことで、会社設立の専門家側としても、「この人は本気だな」というのが伝わり、専門家サイドとしてもより積極的に取り組みやすくなります。
また、専門家側にとっては、先方が知っている事項を事細かに説明するのは失礼と考える方もいます。
だからこそ、依頼側は、クライアントが「わかることはわかるとリアクションしてくれ、わからないことは率直にわからないと言ってくれる」方が話をスムースに進めやすくなります。
③指示・指摘事項はきちんとメモし、対応策を検討する
専門家と話をする際は、できるだけ相手の話をメモに取ることにより、「聞いていますよ」という姿勢を取ることも大事です。
そして、業種や資本などによっては、会社設立後に許認可・届出をするためにクリアしないといけない要件が存在する場合もあります。この点もきちんとメモし、自分で対策できるか、自分で対策できない場合は、代替案や、難しい場合は条件が整うまで体制を整えることも視野に入れることが望ましいでしょう。
④報酬を値切らない、相見積もりは控えた方がよい
これは地域特性もあるかと思いますが、専門家の知識のように無形のものを提供する人たちは、知識を取得するために長い期間をかけており、知識のために、資格取得、研修、書籍その他で数百万以上を投じている人も少なくありません。
そのため、物腰は丁寧であっても、真剣に学んできている専門家ほど、自分やスタッフの知識・経験・ノウハウなど見えない物の価値に自信を持っています。
報酬を値切ったり、相見積もりを取ろうとするということは、専門家に対し、「この人は仕事・知識などの無形の価値に対して値切る人なのだな、相見積もりを取ることで時間を取らせ、専門家間で値段を出させて値切ろうとする、時間価値の認識と知識への敬意がない人なのだな」という印象を与えてしまうケースもあります。
そうすると、専門家もプロとはいえ人間ですので、自分の価値を下げられているように感じる人もいるかもしれません。自分が同じ立場であれば、そういう「安いお客様」に、本来得られるはずの専門家のネットワーク・知識を提供する気持ちにはなかなかなりにくいと思います。
ですので、専門家報酬を値切らない、相見積もりをしないというのは、注意した方がよいでしょう。
以上のように、会社設立の専門家とは、お客というより対等なビジネスパートナーとして、様々なことを相談し、意見を聞きながら、力を積極的に借りていきましょう。
5-4 会社設立後も手続きは様々なので、専門家の力を借りる
会社設立が完了した後も様々な手続きが必要です。それぞれのポイントで、専門家の力の力を借りて進めることをおすすめします。
①許認可・届出
会社の事業によっては、管轄官庁の許可・認可・届出(届出というと、単に書類を出せばいいように思われがちですが、きちんと要件に合致していることが確認してもらえないと受理をしてもらえませんので、その点はご注意ください)が必要になるケースも多くあります。
許認可が降りる、届出の受理をされるというプロセスを通して、初めて事業が開始できるとともに、会社設立時の定款には、許認可・届出が必要な事業が会社の事業目的として記載されていることが要されますので、会社設立の時点で専門家と相談し、許認可・届出を受ける分野に強い行政書士を紹介してもらうことをお勧めします。
②税務
税務の部分も、専門家(税理士)の力が必須といえる部分です。個人では相当難しいので、専門家に依頼することが確実です。税理士・税理士法人に会社設立を依頼している場合は、そのまま税務も担当してもらい、各種届出や申告もお願いするようにしましょう。
また、最初は記帳も含めまとめてお願いするのが望ましいといえます。ただ、ある程度自社の規模が大きくなり、経理を担当できるスタッフが出てくれば、「自計化」といい、自社でリアルタイムに記帳、データを税理士事務所と共有していく形としていくと、リアルタイムに近い状況で経営が把握できます。
あわせて、経費になると思って使ったのに「これは経費で落ちません!」とならないように、各種の支出を経費にできるか、自家用として使う場合はどれくらいの割合で按分するかなど、「これって経費にできるのか?」という疑問が出たら早めに相談しておくとよいでしょう。
③社会保険労務
社会保険関係も、専門家である社会保険労務士に一任した方が望ましいでしょう。一人で経営をする上では、さほど負担ではないですが、人を雇用する段階になると、健康保険、労災保険、雇用保険など様々な手続きが生じますので、これも速いうちに社会保険労務士に相談することが望ましいといえます。
また、就業規則や三六協定など労働関係の社内規定も、社会保険労務士に早いところで相談しておくのが望ましいです。
④法務
会社の規模が大きくなると、コンプライアンスの整備や、会社の増資など各種法務の手続きで、法律・法務の部分が相談できる弁護士、司法書士ともつながりを築いておくとよいでしょう。
6 会社設立の手続まとめ
以上、このように会社設立と一口で言っても、非常に多くのプロセスがあります。
会社設立後も市町村役場や税務署、社会保険事務所などへの手続きが必要となったり、業種によっては許認可の手続きが必要になったりと、会社設立前の準備、会社設立の手続きそのもの、会社設立後の手続きなど、様々な準備や書類作成、提出が必要となってきます。
この中で重要な存在となるのは、会社設立を最初に依頼する専門家です。類は友を呼ぶ、という言葉がありますが、優秀な専門家の周囲には、優秀な同業者、隣接事業者がいますので、最初の専門家が他分野の専門家との仲介役となってくれます。
そのため、いかに最初の時点で優秀な会社設立の専門家と組むかは重要になります。(だからこそ、値切ったり、相見積もりを取ったり、値段だけで選ぶのはお勧めしにくいです。ぜひ直接かテレビ電話などでコミュニケーションを取ることが大事ということは繰り返しお伝えしたいと思います)
また、会社設立の専門家自身が様々な事業者とつながりがありますので、守秘義務の範囲内で、自身の業務にとってヒントとなることを教えてくれる場合もあります。
税理士・税理士法人の場合は、どのような業種が好業績かの数字を見ていますし、融資を受けやすい会社はどういう会社か、財務における注意点、アドバイスの提供、金融機関への紹介などをしてくれるケースもあります。
他の専門家についても、様々な形で情報が集まっているケースが多いですので、ぜひ専門家の知識を活用できるよう、最初のハブになる会社設立の専門家や、そこから紹介してもらう各分野の専門家と、ぜひ積極的にコミュニケーションを取るようにしてください。
最後に、改めて認識していただきたいのは、「会社設立の手続きを自分でやる」という考えは、できるだけ控えた方がいいということです。
ある程度できる人ほど、「自分でやった方が経験になる」「自分でやった方が安い」など、自分で会社設立の手続きをしようとしてしまいます。
しかし、会社設立の手続きの経験は、仕事にはほとんど関わらないというのが率直なところです。むしろ、専門家に依頼して行ってもらうことにより、「委任すること」を経験するのが重要です。
社員を雇用すると、仕事を「委任」する必要がでてきます。最初の会社設立の時点で「依頼する、委任する」ということになれておかないと、社員を雇っても「自分でやった方が早い」など、上手な任せ方ができなくなってしまいます。
その意味でも、最初の時点から「依頼慣れ」をすることは、専門家に重要なスキルといえましょう。ぜひ、会社設立の専門家を初めとする外部のブレーンを活用し、会社設立、その後の運営をスムースに進められるように心がけることをおすすめします。