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財務諸表を読めるようになる本15選〜「会計」と「財務」の違いも〜

決算や財務諸表の読み方を解説する本は数多くありますが、何を読めば良いのか、また、自分にあった本がどれであるのか、迷っていないでしょうか。
そこで今回は、財務諸表を読めるようになるための本を15冊紹介します。それぞれの本の特徴や内容を簡単にまとめていますので、財務諸表の世界を開く本を探してみてください。
また、会計と財務の違いについてもわかりやすく解説しましたので併せてご参考ください。

 

 

1 財務諸表について

財務諸表を読むための本を紹介する前に、財務諸表の基礎的なところから「財務3表」までを解説しましょう。

 

そもそも財務諸表とは「決算書」の別名です。会社のお金にまつわる事項を年度ごとにまとめる作業を「決算」といいます。決算書とは、後述する幾つかの種類に分かれた決算書類をまとめたものを指します。

 

財務諸表とは厳密には、株式を公開する上場企業が遵守するところの「金融商品取引法」において決算書を指す際に使われる呼び名ですが、当記事本文中では財務諸表=決算書として記述しています。

 

決算作業は統一されたルールの下に行うことで、会社の状況を分析、把握することができ、そして税金を公平に算出する元となります。また、先に触れた金融商品取引法というルールに則った場合には、株式を公開して(すなわち上場をして)、更に会社を大きくすることができます。

 

会社のお金にまつわる様々な側面、性質をまとめる決算作業ですが、例えば、その様々な側面の一つには、銀行に預けた預金や手許にあって金庫などに収めている現金を、会社の現預金という「資産」という状態で表すことにあります。

 

資産には他にも、会社の保有する土地や機械装置などがあります。また、借入金や、物品の購入を掛けで行った場合の買掛金などは「負債」という状態となります。資産や負債などの会社のお金の状態をまとめた財務諸表(決算書)のことを「貸借対照表」といいます。

 

決算作業には他にもお金の動きをまとめる作業があります。例えば、会社の事業のために物品の購入や支払いを行った場合には、会社から出ていった金額を「費用」という形で表します。

 

その費用や、商品の売上など自社にお金が入ってきた場合の「収益」といった、会社に生じたお金の収支をまとめた財務諸表のことを「損益計算書」といいます。

 

損益計算書には掛けが含まれているため、実際の現預金の動きとは合いません。利益は充分なのに掛けの売上の入金が先のため「黒字倒産」という事態が起こる場合があります。

 

そうならないためには、実際の現預金の動きを表した「キャッシュフロー計算書」という決算書類を用いると良いでしょう。

 

貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを、財務諸表の中でも特に重要なものとして「財務3表」と呼んでいます。

 

 

2 おすすめの入門編参考書

ここでは財務諸表のこと、決算のことをまさにこれから学んでいこうとする人向けの本を紹介します。読みやすさ、会計の世界への入りやすさを第一にした本を取り上げてみました。

 

 

 

2-1 世界一わかりやすい財務諸表の授業(著者)並木秀明 2010年7月発行

「世界一わかりやすい」と銘打ち、帯には「本書でわからなかったら、潔くあきらめてほしい」とあるように、財務諸表について徹底的に分かりやすく書くことを目指した本です。

 

新入社員の三木くんが、何も分からないところから順を追って財務諸表を学んでいく形式としているため、読者も三木くんと一緒に財務諸表への理解を深めていくことができます。

 

また、本書のもう一つの特徴に、会計の知識を不要としていることが挙げられます。あくまでも財務諸表の概要や、なりたちといった概念的な側面に重点を置き、会計や簿記については極力省いて説明しています。

 

合間合間のコラムでは雑学的な話題も挟み、しかし、寄り道とはならずに本格的な簿記の勉強もしてみようと思わせる道標ともなっています。

 

読み終えた暁には、決算資料から読み取ることができる箇所が増えていることでしょう。この本を入門書として、次にもう少し高度な、専門的な会計本に進むための最適な一冊といえます。

 

著者の並木秀明氏は中央大学商学部を卒業し、現在では青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科助手や、東京経営短期大学等の講師としても活躍しています。著書も多数あり、定期的な受験対策の連載やコラムも執筆しています。

 

 

 

2-2 マンガで入門! 会社の数字が面白いほどわかる本(著者)森岡 寛、渡邊治四 2012年5月発行

マンガで書かれているため、活字に抵抗がある人や、財務諸表を学ぼうと思っているけれどどうにもなかなか手が出せない、という人にお勧めの一冊です。

 

この本の主人公、食品製造メーカーの新入社員である向井聡は、配属後いきなり社運を賭けたプロジェクトの実行担当者に選ばれます。しかも、「1年で1億円のキャッシュフローを改善する」というミッションを遂行できない場合は、会社がピンチに陥ってしまうという状況です。

 

キャッシュフローはおろか、会社の数字にまつわる知識を全く持たず、社内の他部署からは白眼視され、同期のマドンナからはライバル視されるという中で、果たして向井は運命を切り開くことができるのか―。

 

この本では、メインターゲットを就職活動中の学生や新入社員としており、また、会計や財務諸表に限定せず製造部や営業部という現場にも触れていますので、正にこれからビジネスパーソン生活を始める人にはうってつけの内容といえるでしょう。

 

章の終わりにはワンポイント解説や財務用語解説を取り入れていますので、改めて基礎を復習するのにも適した作りとなっています。

 

また、本書は「プレジデント」誌の「本当に仕事に役立つ必読書ランキング ビジネス本総選挙」の特集号(2018年10月15日号)のIT・会計部門にて第5位に選定されています。選者は「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者である山田真哉氏です。

 

 

 

2-3 世界一シンプルでわかりやすい決算書と会社数字の読み方(著者)神田 知宜 2011年6月発行

これまでにも入門書を読んだことはあるがよく分からなかったと言う人、そしてもちろん初めて財務諸表を勉強する人にもお勧めできる一冊です。専門用語や細かいことを抜きにして、ザックリと概要を掴むためのコツが書かれています。

 

貸借対照表の右側と左側の区分や、上から下への科目の並び順など、財務諸表が持つ意味や意義を、分かりやすい言葉とイメージ図で解説していますので、感覚的に理解することを助けてくれます。

 

文体は、セミナーを受けているかのような語り口調のため頭に入りやすく、気がつくと先に読み進めていることでしょう。

 

後半部では、「神田式試算表」という著者独自の会社の数字の見方やグラフ化が中心となっており、中小企業の経営者にも役立つ作りとなっています。

 

著者の神田知宜氏は関西大学を卒業し、会計事務所勤務の後に税理士資格を取得、上場企業でも経理部に所属しています。社内講習にて講師を務めた際に、会計入門者用にオリジナルの講義を開発したという経歴の持ち主です。

 

 

 

2-4 ストーリーでわかる財務3表超入門―お金の流れで会計の仕組みが見えてくる(著者)國貞克則 2011年2月発行

題名にもある通り、この本はストーリー仕立てとなっているため、一般的な解説書形式が苦手な人にも手に取りやすい入門書です。

 

主人公のあかねはアクセサリー販売会社を起業し、会社の数字について右も左も分からない状態から色々な経験を経て経営や会計のことを学んでいきます。読者もあかねを通して無理なく順序立ててお金の流れを学ぶことができます。

 

また、この本のタイトルにある財務3表とは、「初めに」で説明した貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書のことで、財務諸表の中心的な、主要な役割を担っています。

 

この3表の目的や記載事項は先述した通りそれぞれ異なり、各表でしっかりと理解することが経営者及び経理担当者にとって重要なのはもちろん、3表のそれぞれの関係性や複合的に読むことができるようになると、一段上のレベルに達することができます。

 

本書では、その3表のつながりを会計の入門者にも理解できるように仕立てられています。

 

また、主人公のあかねは経営者ですので、経営者が直面する問題や、より主体的に経営に携わることができるポイント、経営者視点からの財務諸表の見るべきポイントを学ぶことができます。

 

著者の國貞克則氏は神戸製鋼所に入社し、後にMBAを取得し独立。現在は中小企業の経営コンサルタントなどを行っています。

 

 

 

2-5 ダントツ人気の会計士が社長に伝えたい 小さな会社の財務 コレだけ!(著者)古田土 満 2017年2月発行

2200社の顧客を持ち、今も新規顧客を増やし続けている、評判の会計士による財務のコツの伝授本です。

 

起業して間もない会社や、小規模の会社に向けた指南、コンサルタント的な内容となっており、決算書の解説だけに留まることなく、お金を残し利益を出すための著者のノウハウや秘訣を記しています。

 

経理担当社員に向けた会計の仕組みというより、社長などの経営層に向けた経営マネージメント方法を中心としており、経常利益の確保の重要性や、そのために逆算して目標となる売上高を設定する必要があることなどを、独自の財務諸表を用いて説く、他の会計の解説本とは一線を画する内容となっています。

 

著者の古田土 満氏は、監査法人勤務を経て公認会計士・税理士事務所を立ち上げ、分析ツールを武器にこれまで多くの企業の財務改善を達成しています。特に中小企業の経営者層に絶大な支持を得ています。

 

 

 

2-6 実学入門 経営がみえる会計―目指せ! キャッシュフロー経営 (著者)田中 靖浩  1999年初版発行

実学入門とある通り、会計に関しての学術的な解説書ではなく、会計という概念の入門書です。また、初版発行年が1999年であることが示すように、会計入門書においての古典でもあります。

 

題名にある「キャッシュフロー」は、上場企業では2000年より提出を義務付けられた財務3表の一つである「キャシュフロー計算書」により一般的に認知されるようになりましたが、初版発行年である1999年当時には聞き慣れない言葉でした。

 

その先駆けとして「キャッシュフロー」という概念を紹介し、そして今に至るまで読みつがれている事実が、この本が会計の、そしてキャッシュフローの本質を著していることの証左でもあります。

 

読みつがれている理由には、日常では聞き慣れない会計の専門用語を排し、実例や図表を豊富に交えて、会計をより身近なものとして受け取れるような内容としているところにもあります。

 

例えば、本書の前半では貸借対照表や損益計算書を「子供の成績表のようなもの」として例え、そこから会計における「キャッシュフローを管理する」ことの重要性を説きます。

 

その後には、決算書や資金調達方法についての説明を挟み、会計と経営の相互関係を例示しつつ、後半部にキャッシュフローの核心へと迫っていく筋道となっています。

 

企業においては、売掛や買掛という未来の入出金処理があるため、在庫管理やその入出金時期を正しく把握することが重要だとする「キャッシュフロー経営」についての解説は、経営者であれば一度は読んでおく価値があります。

 

初版当時から約20年が経っていますので、今の時代では常識と感じる部分もありますが、もう一度キャッシュフローについて学び直す場合にもお勧めの一冊です。

 

 

 

2-7 決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール(著者)勝間和代 2007年10月発行

メディアでもお馴染みの勝間和代氏による、決算書を読み解くための著者の秘訣をまとめた一冊です。

 

当記事中にて紹介した他の解説本や入門書は、会計の仕組みや決算書の内容の解説的な内容が多いのですが、この本の特徴は、決算書に秘められた意思や意図を見抜くことにあります。

 

決算書は会計制度という標準ルールの下に作成されます。そう聞くと、決算書の内容は一義的なものであり、他の誰が作成しても同じ内容となるように思えますが、実際にはそうではありません。

 

世の中には、会計制度に善意的に則した会計処理を行い、資金繰りに奮闘して従業員に給与を支払い、そして決算を行って税金を納めることで社会に貢献している会社もあれば、グレーなもの、あるいは黒いものも白いと解釈することで、真逆の経営を行っている会社もあります。

 

著者は、会社の価値を金額だけでは分からない「質」にあるとします。会社がどのような意図を持って決算書を作り上げているのかを見抜くことが、投資家として損を掴まされないための秘訣となる、としているのです。

 

この本では、投資家の視点から決算書を読むためのコツを伝授していますが、それだけではありません。会計士やアナリストの視点からも多角的に解説をしていますので、時を置いて二度三度読む度に、違った視点や新しい知見を得ることができるでしょう。

 

なお、著者はこの本を代表作として捉えており、専門分野の関係者からも高評価であったと自ら推薦しています。

 

 

3 おすすめの実践・分析編参考書

入門書によって会計や決算、そして財務諸表に馴染んだならば、もう少し進んで実際の決算書を元にした実績書や分析書を読んでみましょう。

 

 

 

3-1 財務諸表分析(著者)桜井久勝 2017年3月第7版発行

前章での、会計の専門用語を要しない会計や決算概念の入門書などに比べた場合には、より専門的な内容となります。

 

財務諸表の基本的な構成や各項目について説明するだけでなく、財務諸表から読み取ることができる会社の「収益性」、「生産性」、「安全性」、「成長性」などを詳しく解説します。

 

実例として2016年度のシチズン時計株式会社の連結財務諸表を取り上げていますので、現代の会計制度に即した内容です。

 

これまで紹介してきた入門書を読んで会計の概念を掴んだ後に、実際の財務諸表を自分で読んでみようと考えた時にまずお勧めしたい一冊です。

 

著者の桜井久勝氏は、神戸大学経営学部、神戸大学大学院経営学研究科と進学して公認会計士の資格を取得し、同大学の助手や助教授を勤めた後、博士号を取得している経済学者です。

 

 

 

3-2 最新!-超楽チン理解-決算書100本ノック!-2018年版(週刊ダイヤモンド 2018年8/11・18合併号)

週刊ダイヤモンド誌の、会計の知識を要せずとも財務3表を理解できる、というコンセプトの下に組まれた好評企画を一冊にまとめた特集号です。

 

トヨタや、ソニー・パナソニックを初めとして、JAL・ANA、メルカリ・LINEなど、33業種100社以上の日本を代表する大企業から新興注目企業までの、様々な財務諸表とその特徴を取り上げています。

 

上記企業の決算概況や経営術を知ることができると共に、実際の会社を実例としていることから財務諸表をグッと身近に感じ、自然と理解できるような仕組み作りがされています。

 

元が雑誌の特集のため、カラー版でイラストや図も豊富に使用されていることも読みやすい一因となっています。

 

財務諸表の各書類の特徴と抑えるべきポイントを、要点を抑えて解説していますので入門書としても最適です。

 

財務諸表の解説の後に、各社の実例を記載していますので、順番通りに読むことで決算書を読むためのトレーニングになりますし、興味があるページから読み始めても読み応え抜群です。

 

各社の見出しの例を上げると「(トヨタ社)米中報復合戦の被害額は1.4兆円」、「(ソニー社。資産が)軽いパナ・重いソニー」、「(メルカリ社)赤字決算の裏に脱「PL脳」」などの興味を引くものがあります。

 

また、成長性や安全性といった5項目からなる要素で各業種をグラフ化しているため、業種ごとの特徴を知ることもできます。

 

企業会計の現在を知ることができ、MBA取得に向けて学んでいる人も実用本として購入しています。実際の企業の財務諸表を読むにあたって、実践力を鍛えることができる一冊といえるでしょう。

 

 

 

3-3 「儲かる会社」の財務諸表 48の実例で身につく経営力・会計力(著者)山根節 2015年9月発行

手に取りやすく手頃な形の新書版で書かれた、実例豊富な財務諸表の読み方の解説本です。

 

著者の理念としては、財務諸表が表しているものは儲けと経営の構造、そして日本がとるべき戦略である、としていますが、財務諸表を読むためには細かい理論はさておき、分からない用語も脇へ置いておいてポイントを押さえることが肝要である、として解説していきます。

 

そのポイントとは、貸借対照表と損益計算書の大きさ、そして利益の3点を、「ちょうどいい加減にとらえる」ことだと言います。その3点を読むことができるようになるための近道として、有名企業の48の実例を紹介しているのです。

 

アップルとグーグル、楽天とアマゾンなど、競合する企業の戦略を図を用いて比較しており、イメージとして掴みやすく分かりやすく、グイグイと引き込まれるように読み進めることができます。

 

初学者にも読みやすく書かれており、学術的にならずに豊富な例を用いて解説していますので、着実に会計知識を身につけることができます。会計の知識以外にも、各社ごとの戦略と歴史、現在置かれている状況も知ることができますので、全般的なビジネスパーソンにお勧めできる一冊です。

 

著者の山根節氏は早稲田大学政治経済学部を卒業し、旧監査法人サンワ事務所(現在の4大監査法人の一つである有限責任監査法人トーマツ)に入社後、コンサルティング会社を設立し、早稲田大学大学院の教授も務めている商学博士です。

 

 

 

3-4 決算書はここだけ読もう〈2019年版〉(著者)矢島 雅己 2018年8月発行

財務諸表の分析書としてだけではなく、実ビジネスや投資においても役に立つ定番書となっている同書の2019年版です。

 

貸借対照表、損益計算書、そしてキャッシュフロー計算書のそれぞれの重要ポイントや、読み方、考え方を見開きページにまとめて掲載していますので、初学者にも分かりやすく頭に入りやすくなっています。

 

「プラクティスコーナー」は、任天堂や、ホンダと日産との比較などの実際の企業の財務諸表を取り上げることで、会社が抱えるリスクや強み、その読み方や数字への表れ方を解説しており、同書における人気企画です。

 

調べたい時、分からない時には付録の「決算書─総まとめ」、「分析の視点」、「決算書ドリル」がありますので、色々な読み方ができるのも本書の特徴といえます。

 

著者の矢島雅己氏は大学の在学中に公認会計士試験に合格、外資系の会計事務所に務めて監査やコンサルタント業務を経た後、一般企業の経理部の要職に転職、そして経理職の派遣や教育、転職関連の会社を設立しています。

 

 

 

3-5 通勤大学実践MBA 決算書 2002年11月発行

これまで紹介してきた本とは少し趣を変えて、MBAの視点から読む決算書の解説本を紹介しましょう。

 

本の内容の前に、MBAについて少し説明します。MBAとはMaster of BusinessAdministrationの略称で、日本では「経営学修士号」あるいは「経営管理士修士号」と訳されます。

 

資格であると間違われることの多いMBAですが、正しくは、経営学を修めて論文を提出した者に与えられる学位です。MBAの特徴は「ビジネスを体系的に理解する」ことであり、「国際的な視野を持ち」、「具体的な分析と意思決定を下す」ことにあります。

 

かつてMBAといえば、欧米で修めるものというイメージが強かったのですが、最では国内でも学ぶことができるところが増え、また学術的な内容に留まらず実践的な内容も充実し、現在では企業によるMBA保持者の採用が活況化しています。

 

本書は、そのMBA視点を以て決算書に臨みます。MBAの理念や概念だけを学ぶ場合は、難しく敷居が高くなりがちですが、決算書を読むという条件の下に書かれていますので、決算書のこともMBAのことも実践的に知ることができます。

 

なお、決算書の実例としてスターバックスとドトールを取り上げていますので、イメージ化して決算書とMBAを感じることができます。

 

また、MBAには、経営やマーケティング上の定型化された問題解決ツール(方式)を指す「フレームワーク」という概念があります。そのフレームワークが本書には豊富に掲載されています。

 

そのため、本書はMBAの概念や決算書を読む助けになることは元より、フレームワークの手引書ともなり、これからMBAやフレームワークを本格的に学んでいこうと考えている人にとってのきっかけにもなり得ます。

 

本書の題名にある「通勤大学実践MBA」はシリーズの名称を指します。他にも「通勤大学実践MBA アカウンティング」や「通勤大学実践MBA コーポレートファイナンス」などがあります。

 

どの本もMBAについて、そしてシリーズごとの名称にある事柄について分かりやすく解説していますので、興味を持った場合にはシリーズの別の本を読んでみるのも良いでしょう。

 

 

 

3-6 社長のための「中小企業の決算書」読み方・活かし方 2015年4月発行

先にも触れましたが、財務諸表では、引いては会計においては、しばしば解釈の相違によって、統一されたルール下ではあるものの異なる結果が出力されるものです。

 

上場企業は数多くの株主、投資家の目に晒されており、また会計士による監査を経る必要もあることで、ある程度には財務諸表の画一化が果たされますが(それでも粉飾決算はなくなりませんが)、中小企業においては解釈がより幅を利かせている風潮があります。

 

本書では、そのような中小企業の数々の財務諸表を見てきた銀行員目線による財務諸表の読み方のノウハウを解説します。

 

具体的には、銀行の融資担当者が、財務諸表のどこをポイントとして融資判断をしているのかを解説しています。それは裏を返せば、自社の財務諸表及び経営のどこに問題があるのかを炙り出す目線を身につけることができる、ということです。

 

融資担当者と同じ目線となることで、融資交渉のスムーズ化も期待できます。また、経営上の改善ポイントにも触れており、中でも試算表を重要視していることから、丸々一章を試算表の読み方に割いています。

 

新人銀行員、特に融資担当となった人や、経営者にお勧めの本ですが、会計知識や実務経験がないと難しく感じる部分がありますので、当記事前半で紹介した入門書を読んだ後に読むことをお勧めします。

 

 

 

3-7 戦略思考で読み解く経営分析入門―12の重要指標をケーススタディで理解する

(著者)大津 広一 2009年09月発行
財務諸表を読めるようになってくると、会社の実に様々な情報をそこから読み取れることが分かってきます。もう一歩進んで、財務諸表の各項目を組み合わせて見てみましょう。そこから更に様々な情報を読み取るステージに進むことができます。

 

本書では、そのような、財務諸表を組み合わせることで読み取れる12の指標を解説しています。

 

12の指標とは、売上高総利益率、売上高販管費率、損益分岐点比率、EBITDAマージン、総資産回転率、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、棚卸資産回転期間、有形固定資産回転率、固定長期適合率、DEレシオ、インタレスト・カバレッジ・レシオ、フリー・キャッシュフロー成長を指します。

 

例えば、売上高総利益とは、売上総利益を売上高で割ることにより算出する指標です。高ければ高いほど良いとされていますが、業種によって平均値が異なりますので、自社の現在地は、同業他社との比較によって判断することになります。

 

それぞれの指標はそれぞれの経営分析の特徴を持っていますが、本書では、指標の説明を上記のように無味乾燥にではなく実際の企業の財務諸表を使って解説しますので、イメージを掴みやすく、またその会社の状況を知ることもできます。

 

内容は、まず財務3表の基礎的な解説と読むべき要点を抑えたポイントから入りますので、復習を考えている場合や、改めて学び直そうと考えている人にも適しています。

 

次章からは12の各指標の解説となっており、各章の前半部では指標の算出方法や基本的な読み方を説明し、章後半部では実企業をケース化して、実際にその章の指標を読む形です。

 

各章の最後には、アサヒビール社の当該指標を欠かさず取り上げています。12章まで読むことで、一社分の全指標を読める作りとなっています。

 

会計や財務諸表の知識を身に付けたら、それを実践に活かすために次に読んでおきたい本です。また、会計の先にある、あるいは会計に留まらない内容ですので、経理担当者のみならず、営業や技術職の人が読んでも得るところはあるはずです。

 

 

4 古典(賢明なる投資家 - 割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法)

最後の一冊は古典を取り上げましょう。

 

投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が師と仰ぐ、投資家の父と呼ばれるベンジャミン・グレアムによる「賢明なる投資家 - 割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法」です。

 

初版は1949年、多くの国で古くから発行されているロングセラーであり、投資家にとってのバイブル的な作品です。

 

内容は、財務諸表の基本的な内容にも触れていますが、あくまでも、投資家が教訓を得ることができるであろうことを示唆する考えの数々が中心です。

 

財務諸表を、投資のための資料として捉え、重要視するポイントや項目を詳細に記しています。特に長期的に投資を考えている人には教訓となり、また時代に左右されない根本的な考えを得ることができるため、投資を考えている人は一度読んでおきたい本です。

 

また、財務諸表の勉強を一通り終えた後に読むことで、また違った視点を、あるいは改めての再発見を期待することができます。温故知新を本書では教えてくれます。

 

以上、15冊を紹介しましたが興味を持てる本はありましたでしょうか。まずは一冊手に取って、財務諸表の世界に飛び込んでみてください。

 

 

5 会計とは?

「会計」という言葉や「財務」という言葉はよく耳にしますが、実は、「会計」という概念はかなり広く、また用いられる文脈によっても、意味合いは異なってきます。「財務」もまた同様です。さらにこれらを組み合わせた「財務会計」という言葉もあります。
そこで今回は、区別の付きにくい「会計」と「財務」の違いについて説明します。「会計」
いずれも経営においてきわめて重要なキーワードとなりますので、しっかりと理解をしておくことが必要です。

 

「会計」「財務」という言葉からは「どちらもお金に関する仕事」をイメージすると思いますが、実際、企業の中でも会計課や財務課、あるいは財務部など、お金に関する業務を担当するセクションに対する呼び方が様々あります。

 

また、「会計」という言葉に限って言えば、身の回りでも使われる機会が多いですが、会計とは一体何なのかを正確に説明できる人は少ないでしょう。
まずは「会計」という言葉がどのようにして用いられ始めたのか、そしてそこからどのように意味内容を拡大していき、今日ではどう捉えられているのかを見ていきましょう。

 

 

 

5-1 「会計」の起源

「会計」とは、ある個人や組織、あるいは企業(会計主体といいます)が、その経済活動を貨幣価値で測定して伝達することを指します。「貨幣価値」とは、お金に換算するという意味です。

 

もともと「会計」という言葉は、中国の故事から採られており、「計は会なり」という言葉が司馬遷の歴史書である「史記」に登場します。

 

同書において「計」とは、物事を正しく言う、という意味として用いられており、「会」とは、増大する、転じてうまくいく、ということを意味しています。つまり、ここでいう「会計」とは、物事を正しく言えばうまくいく、ということを意味しています。

 

そして、ここで強調したい点としては、「会計」は、「測定」することと「伝達」することの2つの意味を含んでいる、ということです。

 

「測定」することと「伝達」することは、一見、何の関係も無さそうですが、実は関係があります。

 

会計の世界では、「測定」とは金額を算定して記録することを意味します。つまり、現金がどれだけ流出したのか、あるいはどれだけの価値がある資産を取得したのか、ということを記録します。この記録のために用いられるのが、いわゆる「簿記」と呼ばれる技術です。

 

しかし、記録をしただけではただの独立した情報の蓄積にすぎません。このようにして蓄積された情報は、活用しなければ何の役にも立ちません。そこで、この蓄積された情報を活用するために、一定のまとまった形に集約して、誰かに「伝達」しよう、ということになります。

 

ちなみに英語では、会計のことをaccount、あるいはaccountingと言います。countは、「(数を)数える」という意味です。そこに接頭辞acを付けることで、「説明する」という意味になります。また「(人)に説明する」ことをaccount for(人)と言います。

 

つまり会計とは、お金を数えるということと、それを情報として誰かに伝えるということを含んだ概念となっています。

 

そうすることで、ビジネスも含めていろいろな事が「うまくいく」ことにつながるのです。

 

そこで問題となるのは、数えるのは良いとしても一体誰に伝えるのかという問題です。これは「会計」をさらに細かく分類する考え方につながります。この点については後ほど詳細に説明します。

 

 

 

5-2 いろいろな「会計」の意味

また、私達の身の回りでもよく聞く派生的な用いられ方があります。例えば飲食店で飲食した際や、小売店で買い物する際にも、代金を計算することを「会計」と呼んだりもします。

 

この場合、かかった代金を計算することと、それを支払うべき人に対して伝えるという2つの行為がまとめられていると考えることができるでしょう。

 

「会計」は、企業経営でも身近な場面でも使われますが、やはりその意味は共通していて、「測定」と「伝達」であると言えます。

 

 

6 財務とは?

「財務」という言葉の意味は、実は「会計」と違って共通的な定義がありません。そのため文脈や状況によってまちまちではありますが、文字を読み解くと、「財産」に関する「業務」ということになります。一般的な解釈としては、「finance」(ファイナンス)の訳語として用いられることが多いでしょう。

 

 

 

6-1 「財務」の起源

「ファイナンス」とは本来、資金調達や資金運用のことを指すものです。企業の場合であれば、株式市場や金融機関から事業実施に必要な資金を調達しなければなりません。また、調達した資金を適切に管理することも当然に必要です。このような活動全般を指して「財務」と呼んでいます。

 

 

 

6-2 会計と財務の違い

「会計」とは経済活動についての測定と伝達であり、「財務」とは資金調達や資金運用といった活動である、ということがわかりました。

 

つまり、「会計」と「財務」は同じくお金に関連する活動でありながら、その意味する範囲は異なりますが、両者は密接不可分なものであるとも言えるのです。

 

例えば、事業資金を調達するためには、株主や金融機関といった関係者を説得する必要があります。そのためには会計記録を用いて、現状を説明し、将来のビジョンを説かなければなりません。また、資金管理を適切に行うためには、適切な会計記録を前提とした分析などが必要となるでしょう。

 

このように、「財務」という目的を果たすために「会計」を手段として用いることがありますが、他方で、「財務」にとらわれない、つまり別の目的をもった「会計」も存在しています。

 

 

7 財務会計と管理会計

「会計」と「財務」は一部重なり合う部分はあるものの、別の活動を指すものです。ここでは、「会計」をさらに詳細に分類することで、両者の関係性をもう少し具体的に理解していきましょう。

 

 

 

7-1 会計の分類

「会計」は測定と伝達である、とは既に述べたとおりですが、そこでは「誰に」伝達するのかが問題となります。

 

「誰に」とは、特定の人物のことを考えているのではなく、企業の「外」にいる人物か「内」にいる人物か、ということを問題とします。これらの違いによって、会計は「財務会計」と「管理会計」に区別されます。

 

 

 

7-2 財務会計とは

財務会計は、外部の利害関係者に伝達することを目的とした会計です。

 

ここで「財務」という言葉が用いられています。「財務」という言葉は、既に説明したとおり、資金調達や資金管理の活動を指す言葉です。

 

つまり、「財務会計」は、資金調達や資金管理のために外部の利害関係者に伝達することを目的とした会計であると整理できます。財務会計は英語で「Financial Accounting」と呼ばれています。

 

外部の利害関係者とは、基本的には資金提供者です。つまり、株主や金融機関です。彼らとの信頼関係を維持、向上することで資金調達を円滑に行おう、というのが企業の動機となります。

 

そのためには、貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書といった「財務諸表」を作成します。そして、作成した財務諸表にもとづき説明を行う必要があります。このプロセスが、いわゆる測定と伝達の過程ということになります。

 

 

 

7-3 管理会計とは

他方で、管理会計とは企業内部において、経営管理者に対して経営管理に有用な情報を提供するための会計です。つまり、情報の内部利用です。その意味で、「財務」とは関係の無い世界での「会計」であると言えます。

 

あくまで内部利用にとどまるものですから、財務諸表を作成することは必ずしも求められません。しかしながら、経営管理に役立てるためには緻密な分析が必要です。その意味で、財務諸表の枠にとらわれず様々な角度からのデータの蓄積が必要となってきます。

 

 

8 企業における「会計」と「財務」の分担

以上のとおり、「会計」と「財務」の違いについてこれまで説明しました。両者は別個の概念であることは明らかでありますが、企業の中での実態としては、あまり明確に区別されていないことがあります。

 

最後に、企業内のセクションとしての「会計」と「財務」についてパターンごとに整理します。

 

 

 

8-1 「会計課」と「財務課」があるパターン

まずは、「会計課」と「財務課」の両方のセクションがある場合です。もちろん、「会計部」と「財務部」の場合もありますが同じです。以降、課と部の違いは無いものとみなします。

 

この場合、「会計」と「財務」という両者の本来の意味合いに沿った業務分担になっているのではないかと考えられます。すなわち、「会計課」では基本的に財務諸表を作成するための、日々の会計記録や確認を行っていることでしょう。

 

それに対して、「財務課」ではIR活動など、株主や投資家、金融機関との関係性構築を主たる業務としつつ、場合によっては経営戦略の策定に関して数値的な面で支援するところまでを含んでいることもあるでしょう。

 

実はこのような組織では、「会計課」は「財務課」に一方的に情報を利用されることから、下請けのような扱いを受けやすく、軋轢を生んでしまう恐れがあります。「会計課」は、財務にとらわれない管理会計上の独自の情報活用を構築し、社内での存在感を強化していくことが、その機能として求められるでしょう。

 

ちなみに、欧米企業では財務部門の責任者を財産管理者というニュアンスが強い「Treasurer」、会計部門の責任者を数値管理者というニュアンスが強い「Controller」と呼び分けて、権限と責任を明確に区別するのが一般的です。

 

お互いに尊重し合う関係性になっており、そのことが組織の活性化につながると考えられています。

 

 

 

8-2 「財務課」しかないパターン

「会計課」が存在せず「財務課」しかない場合には、「財務課」の中で会計業務を行っているのでしょう。この場合は、「財務」と「会計」の意味合いの違いを厳密にとらえていないものと考えられます。

 

あるいは、「経営企画課」等が別途存在し、そちらでIR活動などを担当している場合には、実質的に「財務課」は会計業務しか行っていないことになります。

 

 

 

8-3 「会計課」しかないパターン

他方で、「財務課」が存在せず「会計課」しかない場合には、例えば小規模企業等で、資金調達が日常的に行われない企業環境であると考えられます。日々の会計処理や納税が主たる業務となり、金融機関との折衝は副次的な業務と位置付けられている場合でしょう。

 

また、このような「会計課」は「経理課」と呼ばれることのほうが多いかもしれません。この文脈において、両者は概ね同じ内容を指していると考えて良いでしょう。

 

 


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